『キャシアン・アンドー』シーズン2 レビュー:『スター・ウォーズ』前日譚が見せる物語の力

※『キャシアン・アンドー』シーズン2のネタバレを含みます。
『キャシアン・アンドー』シーズン2の第1話では、帝国軍の将校たちが繊細な言葉でゴーマン星の住民を虐殺する計画を練る。これはただの殺戮ではなく、プロパガンダを駆使して公衆に伝えることも重視された計画で、長官のオーソン・クレニックは物語の力を武器として認識している。トニー・ギルロイの『ローグ・ワン』の前日譚もこの点で同意し、物語の力の限界を強調している。
物語は3話ごとに1年ずつ時代が進む構成で、物語が進むにつれて、映画『ローグ・ワン』で描かれる反乱の始まりが近づいていく。そしてその中で、主人公キャシアン・アンドー(ディエゴ・ルナ)は、やがて命を落とす運命にあることが、次第に強く意識されるようになる。すでに決まっている結末に向かって物語が進んでいくため、彼の行動や選択には常に重苦しい緊張感がつきまとう。
最初の3話では、キャシアンが得体の知れない派閥同士の争いに巻き込まれ、森の中に閉じ込められる。なぜこの争いが起きているのか完全には明かされず、視聴者としては戸惑いもある展開だが、一方で帝国軍のデドラ・ミーロやモン・モスマといったキャラクターたちは別の場所でスピーディに動き出している。こうした序盤のもたつきが気になるかもしれないが、物語は次のパートから一気に加速し、息つく暇もないほどスリリングな展開が続いていく。
キャシアンの避けがたい運命は、今シーズンの中心エピソードであるゴーマン星のストーリーにも反映されている。帝国は反乱軍の出方をすでに計算に入れており、住民たちが抵抗の是非を議論している間にも、結末はほぼ決まっている。黙っていても滅び、戦っても滅びる——その不条理な構図が、やがて第8話という極限のホラーへと結実する。これは近年のテレビドラマでも屈指の衝撃的なエピソードだ。
『キャシアン・アンドー』は、現実の政治や社会問題と直接的に重なることで、単なるSFの枠を超える力を発揮している。帝国によるプロパガンダの巧妙な操作、そして元老院の臆病な沈黙は、現実のジェノサイドや難民危機を連想させずにはいられない。だが同時に、こうしたテーマを描くにはフィクションという“覆い”が必要である現実にも気づかされる。
本作は、明確な善悪ではなく、グレーゾーンを描くことに主眼を置いてきた。ライトセーバーやフォースといった「スター・ウォーズ」の定番を排し、陰鬱で緊迫感に満ちたスリラーの雰囲気が支配している。反乱軍の中にも意見の食い違いがあり、モン・モスマのような穏健派と、ソウ・ゲレラのような過激派の対立が物語の軸となる。
そんな中でも、キャシアン・アンドーは物語を支える要として機能している。彼は“普通の人”に近い存在として、視聴者が共感しやすいキャラクターだ。ディエゴ・ルナの持つ自然なカリスマ性が、作品にユーモアや温かみを与え、時折登場するK-2SOとの掛け合いはその好例である。しかし、ビックス役のアドリア・アルホナが持つ演技力が十分に活かされていない点は惜しまれる。
とはいえ、『キャシアン・アンドー』はキャシアン単独の物語ではなく、群像劇としての完成度も高い。特に、モン・モスマ役のジェネヴィーヴ・オーライリーが演じる二重生活の重圧に苦悩する姿や、ルーセンの側近クレヤ役のエリザベス・デュラウによる静かな忠誠心の描写は圧巻だ。彼らの葛藤と信念が、この作品の複雑さと深みをさらに際立たせている。
『キャシアン・アンドー』シーズン2は、推進力のある構想とハリウッド映画並みの予算を持ちながらも、単なる娯楽ではなく、深いメッセージが込められている。正義感からくる怒りや満足感を描く一方で、個人が単独で世界を変える力を持つことはないという現実を認識させられる。
このシリーズは、良い物語が共感や目覚めを引き起こす力を持ち、視聴者がその知識をどう活かすかを問いかける。『キャシアン・アンドー』は、物語をどのように受け止め、感じ取るかを自分自身に委ねる作品である。
※この記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら。
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