【ネタバレ注意】Netflixドラマ『セイレーンの誘惑』―謎を残す最終話をショーランナーが語る

[※本記事は、『セイレーンの誘惑』 最終回のネタバレを含みます。]
Netflixドラマ『セイレーンの誘惑』のショーランナー(製作総指揮)のモリー・スミス・メッツラーが、最終話の衝撃的な展開について語った。本作はギリシャ神話のセイレーン伝説を、彼女たち自身の視点から再構築したものである。
神話の再解釈と姉妹の物語
メッツラーは「セイレーンの物語はすべて船乗りの視点だった」と語る。そこで彼女は、なぜセイレーンが“怪物”とされるのかを問う物語を描いた。主人公の姉デヴォン(メーガン・フェイヒー)は、父親の介護のため妹シモーネ(ミリー・オールコック)を連れ戻すべく島へ向かう。しかし妹はジュリアン・ムーア演じるカリスマ的な富豪ミカエラのもとで新たな人生を送っていた。
姉妹とミカエラは週末の間に過去・現在・未来と向き合い、それぞれの真実を露わにしていく。表面的にはサスペンスだが、深層には権力と姉妹愛というテーマが込められている。
結末は“避けられなかった”と語る理由
「この作品は視聴者を不快で予想外な場所へ導く」とメッツラーは語る。また、全5話のエピソードタイトルがパズルのようになっており、それぞれが物語の読み解きに繋がる仕掛けになっているという。
結末は“避けられなかった”としながらも、視聴者自身の解釈に委ねたいとも話した。「誰もこの作品を何と比較していいかわからない」と語る彼女の言葉どおり、本作はジャンルを超えた挑戦的な作品となっている。
米『ハリウッド・リポーター』(THR)とのインタビューでメッツラーは、ギリシャ神話を権力と姉妹の視点から再構築した理由、衝撃的な結末が「避けられなかった」理由について語った。
――『セイレーンの誘惑』はジュリアード在学中に書いた戯曲が原作だそうですね。シリーズ化のアイデアはいつから?
15年前に書いた戯曲で、その間に私はいろんな人生を経験しました。数年前にNetflixで『メイドの手帖』を制作して、それがすごく満足できる作品だったんです。でも終わったあと、「次は何をしようか」と考えていたときに、Netflixの脚本ドラマ部門VPのジニー・ハウが、昔のこの戯曲のことを覚えていてくれて。
それがちょうど2025年というこの時代、女性と富を描くにはぴったりじゃないかと話になったんです。読み返してみて、「たしかに今がそのときだ」と感じました。
――このドラマは一見カルト的で不思議ですが、ダークコメディの要素も強いですよね。そのトーンは、どう作ったのですか?
『セイレーンの誘惑』の好きなところは、他の作品と比較できない点にあります。最初はナンタケットの物語か、殺人事件モノか、カルトものに見えるかもしれないけど、実際は全く異なる独自のトーンを持っているのです。それは褒め言葉でもあり、同時に大きな挑戦でもあります。私は、この作品を「ダークコメディと感情スリラーの融合」と呼んでいます。
――ギリシャ神話をモチーフにしたことには、どのような意図がありましたか?
原作の戯曲にはギリシャ神話の要素はありませんでした。きっかけは12歳の娘が神話好きで、「セイレーンって何でそんなに意地悪なの?」と聞いてきたことです。セイレーンについて私たちが知っていることは、すべて船乗りの視点から描かれています。彼女たちは“殺人者”や“怪物”として語られているけど、じゃあ「彼女たちの側の物語は?」と考えました。それが、この作品の原点になります。
――クリフハウスというロケーションはとても象徴的です。階段の意味も含めて、家について教えていただけますか?
あの家は、キャラクターそのものです。ロングアイランドのカッチョーグで見つけた本物の階段がある家で、CGじゃなくて実際に108段もあるんです。あの高さが必要だったのは、シモーネが階段を登る姿が野心の象徴になるからです。さらに、セイレーンが流刑された孤島のように、島全体が孤立している必要がありました。
――島の人々のカラフルな衣装も特徴的ですね。色彩設計には、どんな意図がありますか?
家と同じく、パレットや衣装もこの世界を構築しています。コスチュームデザイナーのキャロライン・ダンカンと何度も話し合い、ナンタケットのフェリーを降りたときに目にするような金持ちの夏休みカラーを少し誇張して、帽子を大きめにしたり、リアルさは残しながら皮肉っぽさを出しました。ミカエラの衣装はほとんどが特注品なんですよ。放送後に真似したい人もいるのではないでしょうか。
クリフハウスのカラフルな外観についてメッツラーはこう語っている。写真: Courtesy of Netflix
――『セイレーンの誘惑』の物語は、デヴォンが妹シモーネを現実に引き戻そうとするところから始まりますが、2人の関係性はどう捉えていましたか?
そこがまさに描きたかった部分です。どちらの姉妹も正しいと思うし、その解釈は観る人自身の家族関係を反映するものになるでしょう。姉妹関係って、遠慮がないですよね。誰よりも愛し、誰よりも正直で、そして誰よりも支えてくれる存在。その「押し引き」のバランスが面白いんです。
――デヴォンは、アルコール依存や性依存といった問題も抱えていますね。どのようにキャラクターを構築しましたか?
デヴォンは扱いが難しいキャラなので、メーガン・フェイヒーが演じてくれて本当にラッキーでした。メーガンは皮肉屋で壊れていて、それでいて愛にあふれています。彼女が内に持つ“セイレーン的な力”――それがセックス依存として現れるけど――は、自分でも扱いきれないもの。この週末を経て、デヴォンは本当に別人のように変わったと思います。力を前にし、それを拒む。その過程がとても美しいですね。
――ミカエラとデヴォン、それぞれがシモーネとの絆を持っています。この2つの関係の違いや共通点について教えてください。
ミカエラは人生の中でとても孤独な人です。鳥たちやシモーネとの関係が、彼女の生きる目的になっています。彼女はシモーネを“ミニ・ミカエラ”と呼び、ただの金持ちの妻ではなく、何かを成し遂げる女性として育てようとしているのです。ただし、引き換えに求めるのは「完全な忠誠とつきっきりで相手をしてもらうこと」だけ(笑)。
二人は共依存的だけど、互いに必要とし合っている関係です。一方で、デヴォンは実質的に母親代わりだった存在です。誰よりもシモーネを思っている一方で、とても壊れた人間でもあります。この3人の女性は、皆がシモーネに何かを求めているのです。けれど、物語の本当の脅威は彼女たち自身ではなく、“外側”にあるものなんです。
Netflixシリーズ『セイレーンの誘惑』より、ミリー・オールコック、ジュリアン・ムーア 写真:Courtesy of Netflix
――ミカエラは完璧に見える一方で、孤独や不安を抱えています。そのギャップをどのように描きましたか?
私自身、22歳のときにマーサズ・ヴィニヤード島でヨットクラブの仕事をしていた経験があります。そこで出会った超富裕層の女性たちを「完璧な人生だ」と思っていたけど、夏の終わりには「全然違った」と気づかされたんです。
本作でも同じように、最終的に観客が登場人物たちの“前提”を見直すことを願っています。「このキャラはこういう人だ」という思い込みが、本当は違ったと気づかされる作品を目指しました。
――ケヴィン・ベーコン演じるピーターは、ギリシャ神話の中で何を象徴しているのでしょうか?
私自身も、掲示板サイト「Reddit」で皆がどう考えるのかを楽しみにしています。個人的には、「なぜセイレーンは怪物で、ゼウスはそうではないのか?」という問いが根底にあります。神話では、怪物扱いされるのはいつも女性たちです。もしかしたら、ピーターこそが“セイレーン”なのかもしれません。
ケヴィンは観客を安心させ、自身が持つ力を忘れさせてくれる俳優です。でも、最後にはその力を思い出させてくれる。ある意味で、“ゼウス的”な存在でもありますね。
Netflixシリーズ『セイレーンの誘惑』より、ケヴィン・ベーコン 写真:Macall Polay/Netflix
――後半で、ミカエラがデヴォンに向けて“セイレーンの歌”のように語りかける場面があります。二人の関係性に込めた思いとは?
バスタブのシーンと最後のフェリーのシーンの間で、二人の関係は大きく変化します。最終的に、彼女たちは互いを理解し合うようになります。ミカエラが言う「母親を亡くした女性は見ればわかる」という台詞には、大きな意味があります。3人とも母親を喪っており、その傷が彼女たちをつないでいるのです。
セイレーンもまた、母のような存在を失っています。ミカエラとデヴォンには、シモーネよりも多くの共通点があるのです。
――第4話「ペルセポネ」は、冥界の女神の名前ですね。これは誰を指しているのですか?
神話ではセイレーンたちはペルセポネを失って罰を受け、島へ流されます。本作でも、母親の存在が重要になっています。デヴォンの父親が語る亡き妻の話もそうだし、母性の喪失がテーマのひとつです。だからこそ、このタイトルになっています。
――シリーズの終盤、シモーネの運命に驚いた視聴者も多かったと思います。終わり方に込めた意図とは?
誰にも予測できないけれど、“避けられなかった”と感じてもらえる結末にしたかったんです。シモーネが崖の上に立つ場面で、私たちは何度もテイクを重ねて選んだのが「モナ・リザのような微笑み」を浮かべるショットです。解釈次第で「彼女は勝利した」、「哀しみを抱えている」など、見方が分かれるでしょう。それぞれの視聴者が自分の価値観で解釈してくれたらいいですね。
――別の世界線では、シモーネもミカエラと同じ運命をたどったと思いますか?
絶対にそうだと思います。物語の冒頭はミカエラが崖に立つシーンから始まり、終わりはシモーネが同じ崖に立って終わります。この物語は“終わることのない神話”なのです。女性は繰り返し同じ役割を押しつけられ、ピーターたちはピーターとして存在し続けます(笑)。
――ピーターやシモーネを“悪役”と見なす視聴者もいるかもしれません。それについてどう思われますか?
どんな解釈でも間違いではありません。シモーネが悪者に見える人もいれば、ピーターがそう見える人もいるでしょう。重要なのは、その行動を「理解しよう」とする姿勢なのです。もし自分が彼女の立場だったら? フェリーで“地獄のような現実”に戻るのでしょうか? それを考えてもらいたくて、私はこの作品を書きました。
――本作を通して、視聴者に何を感じ取ってもらいたいですか?
まず、「これほど素晴らしい演技をテレビで見たことがあるか?」と思ってほしいですね。そして、予想を裏切る展開があり、アメリカの階級社会を新たな視点で捉えられたなら、それが何よりの成果だと思います。
Netflixドラマ『セイレーンの誘惑』は、現在配信中。
※本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら。
- Netflix新シリーズ『セイレーンの誘惑』主演キャストが決定
- Netflix2025年5月の配信作品:ジュリアン・ムーア主演『セイレーンの誘惑』、『ラブ、デス&ロボット』S4、『マンジャーレ!』など
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