「スーパーマンは移民の物語」ジェームズ・ガン監督の発言に批判、世界最強のヒーローが体現するアメリカの真実とは【寄稿】

ジェームズ・ガン監督が新作映画『スーパーマン』を「移民の物語」と表現したことで、批評家たちはガン監督がスーパーマンを政治利用していると非難した。だが、真実は政治化できない。スーパーマンは87年間、「不法移民」であり続けてきた——それをアメリカ全体に再認識させたのが、2013年に始まった「スーパーマンは移民である(Superman Is an Immigrant)」キャンペーンだ。
◆レックス・ルーサーのモデルはドナルド・トランプだった
もちろん、1986年にDCコミックスがレックス・ルーサーを再構築する際にモデルとした男——ドナルド・トランプが、スーパーマンの象徴する移民たちに戦いを仕掛けるとは、誰も予想していなかった。2000年、ルーサーはコミック内で大統領となり、「反異星人」政策を掲げた。まさか現実のアメリカ大統領がその筋書きをなぞることになるとは、誰も想像していなかった。
滅びゆく惑星から逃れてきた赤ん坊のスーパーマンは、何の書類も持たずにアメリカへやって来た。多くの移民と同じように、彼もまた異国風の名前「カル=エル」から、英語風の「クラーク・ケント」へと改名した。新しい習慣や文化を学び、自らのルーツとバランスを取りながら、最初は自らを脅威とみなしたアメリカのために、唯一無二の能力をもって尽くしてきた。
◆移民の子が築いたヒーロー神話
これは「背後に隠された意味」などではなく、「明白な事実」である。スーパーマンの生みの親であるジェリー・シーゲルとジョー・シャスターはユダヤ人移民の子で、強制移住者の痛みを理解していた。1938年、ヒトラーが台頭するなかで彼らが創造したのは、「アメリカン・ドリーム」を体現するヒーロー——見捨てられた者の苦しみを知っているからこそ、弱き者を守る力を持った人物であった。
スーパーマンの本質は、自らが語ったように「普遍的な部外者」であるという点にこそある。この「よそ者」としての立場は、彼の英雄的資質の根源となっている。拒絶された経験を持つ者こそが受け入れる者となり、無力さを知る者こそが無防備な人々のために闘うのだ。
◆スーパーマンが不在の世界
現代であれば、スーパーマンは国外退去させられるだろう。実際、出生地主義の市民権(親の国籍にかかわらず、米国で生まれた者には自動的に市民権が与えられる制度)がなければ、スーパーマンという存在そのものが誕生しなかった。ユダヤ人移民の子としてアメリカに生まれたジェリー・シーゲルとジョー・シャスターは、ナチスが支配するヨーロッパに強制送還され、見知らぬ土地で死を迎える運命にあったはずだ。
ジェリーとジョーがいなければ、スーパーマンも存在しなかった。スーパーマンが存在しなければ、スーパーヒーローというジャンルそのものも生まれていなかった。彼らの後に続き、バットマンやスパイダーマンを生み出した移民の子どもたちも、同じ運命をたどっていただろう。世界的なアメリカの大衆文化を形作ってきた現代の神話は、すべて存在しなかったことになる。
◆スーパーマンが象徴する、アメリカの逆説
スーパーマンが今なお人々の心に生き続けているのは、彼が政治を超えた存在——アメリカという国の逆説そのものを体現しているからだ。アメリカは、故郷を追われた者たちによって築かれた。自発的にやってきた移民と、非自発的に移住した奴隷や難民——すべてが別の場所から移動してきた「孤児」である。究極の「孤児」であるスーパーマンは、この共有された痛みを目的へと昇華させてきた。彼の存在は、私たちの真の強さが生まれた場所にあるのではなく、自ら選び、築き上げるものにあることを示している。
2013年、「スーパーマンは移民である」キャンペーンはシンプルな自撮りチャレンジを通して、全米に議論を巻き起こした。アメリカ人たちが自分たちの家族の移民としての経験を共有し、「スーパーマンは移民である」と宣言したのだ。皮肉なことに、批判者たちはその言葉を嘲笑するたびに、かえってその否定しようのない真実を広めることになった。
◆テーマは「優しさ」保守派の反発も
ジェームズ・ガン監督の『スーパーマン』が公開され、トランプ大統領の「国外追放マシン」が勢いを増す今、この真実はかつてないほど切実なものとなっている。来年250周年を迎えるアメリカの独立記念日(7月4日)の数日後、スーパーマンは劇場に戻ってきた。今問うべきなのは、「独立記念日を祝い続けるかどうか」ではなく、「私たちを最初に『偉大』にした要因を忘れずにいられるかどうか」である。
現地時間7月7日に開催された『スーパーマン』のプレミアにて、ガン監督は「この映画は“優しさ”について描いた作品であり、それは誰もが共感できるものだと思う」と語った。しかし、右派系メディアはこのメッセージに共感できないようだ。FOXニュースのキャスターは、「スーパーマンのマントには“MS-13”(国際的ギャング組織)の文字がある」と冗談を飛ばし、「彼はウガンダ出身なのか?」と疑問を投げかけた。さらに、保守系メディアのOutkickは、「架空の宇宙人が架空の地球に良い影響をもたらしたからといって、アメリカが『優しく』ある必要はない」とし、「アメリカは政治色のないエンターテイメントを求めている」と主張した。
◆スーパーマン=「アメリカの良心」
「スーパーマンを政治利用している」との非難は、もはや滑稽なほどに遅すぎる。1938年の誕生以来、スーパーマンは行動を通して「アメリカのやり方」を体現してきた。1940年、孤立主義を掲げるアメリカ・ファースト運動が中立を訴えていたさなか、スーパーマンはアドルフ・ヒトラーと対決した。1949年には、学校に通う子どもたちに向けて直接こう語りかけた。「もし誰かが、宗教や人種、出自を理由にクラスメートを非難するようなことを言ったら、黙っていてはいけない。『そういう発言は、“非アメリカ的”である』と伝えるべきだ」
また、スーパーマンはポリオワクチンの普及に協力し、啓発活動を通じて資金を集めた。全国放送のラジオ番組では、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン」の秘密を暴露した。移民を撃とうとした男が「奴らが仕事を奪った」と叫んだとき、スーパーマンはそのすべての銃弾を受け止めた。そして、ジョージ・フロイドが白人警官によって殺害された後には、こう宣言した。
「夢は私たちを救い、鼓舞し、変えていく。そして魂にかけて誓う——尊厳、誇り、正義が万人にとっての現実となるその日まで、私は戦いをやめない。絶対に」
スーパーマンとは、マントをまとったアメリカの良心そのものである。だからこそ、現実の“スーパーヴィラン”を支持している批評家たちは、その存在を恐れるのだ。
◆アメリカの真の超能力とは
アメリカという国家の最大の「超能力」は、外から来た存在を受け入れ、その者たちが羽ばたく姿を見届ける力にあった。スーパーマンと同様に、アメリカは生まれながらに持っていた力ではなく、「何者になるか」という選択によって強さを得てきたのだ。孤児に居場所を与え、無力な者が力を見出し、滅びゆく世界から逃れてきた者たちが、新たな世界を築くことのできる場所——それがアメリカである。
希望よりも恐れを選び、歓迎よりも壁を築くことによって、私たちはスーパーマンの遺産を裏切るだけでなく、自らの未来さえも放棄している。真のスーパーヒーローは、常に移民であった。本当にそう信じているなら、今こそ行動を起こすべきだ。
アンドリュー・スラック:NPO団体「Harry Potter Alliance」の共同創設者、ナラティブ戦略家。神話と民主主義の関係について執筆し、現在はアメリカ市民社会における神話の役割を探究する書籍を執筆中。
ホセ・アントニオ・バルガス:ピュリッツァー賞受賞ジャーナリスト、エミー賞ノミネート歴を誇る映画作家、移民の物語を発信するNPO「Define American」の創設者。アメリカでは現在、回想録『Dear America: Notes of an Undocumented Citizen(原題)』の2025年改訂版が刊行中。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
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