トランプの圧力逆効果?ジミー・キンメル復帰で視聴率歴代最高を記録

行政当局は明らかに一線を越え、その言論抑圧の試みは見事に裏目に出た。
こうした圧力の歴史は古く、たとえば1989年──FBI副長官が、あるコンプトン出身のラップグループに対し「警察に対する暴力と不敬を助長している」と非難する書簡を送ったのだ。そのグループこそN.W.Aであり、問題となったのは警察の暴力を告発する抗議歌“Fuck Tha Police”であった。
この書簡は大きく報じられ、政府による検閲を糾弾する世論を巻き起こした。その結果、曲は一気に広まり、やがて伝説的な地位を確立することとなったのである。
要するに、政府関係者や政治家がポップカルチャーの中で気に入らないものを黙らせようとしてきた歴史は長い。そしてその試みは常に、意図とは正反対の結果を生み出してきたのである。いわゆる「ストライサンド効果(Streisand Effect)※」だ。もっとも有名な例は政府ではなく、セレブとパパラッチの衝突であった。
※情報を隠そうとしたり、削除・検閲しようとした行為が、逆にその情報の存在を広く知らしめ、注目を集めてしまう現象のこと。
3番組の躍進:皮肉な視聴率ブースト
トランプ大統領がコメディ・セントラルの『サウスパーク』、CBSの『レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』、ABCの『ジミー・キンメル・ライブ!』を黙らせようとしたことが、結果的に3番組すべての視聴率を押し上げたのは驚くべきことではない。番組によっては、数十年ぶりとなる最高視聴率を記録する事態となったのである。
『ジミー・キンメル・ライブ!』復帰と記録更新
現地時間9月23日(火)に『ジミー・キンメル・ライブ!』がついに復活した。ABCが番組を一時休止したのは、FCC委員長のブレンダン・カーが系列局に圧力をかけ、放送ボイコットを促したためであった。しかし復帰初回は、実に626万人の視聴者を集め、同番組史上最大の視聴者数を記録したのである。これは通常回としては空前の数字であった。
さらに驚くべきは、全米の4分の1にあたる66局が放送を見送ったにもかかわらず、この大台に達したという点である。オープニング・トークはYouTube上で同番組史上最多の再生数を叩き出し、SNS全体では24時間以内に2,600万回もの視聴を記録したのである。
トランプの猛反発とキンメルの皮肉
その後トランプは、キンメル復帰をめぐってABCを提訴すると息巻き、SNS上で怒りを爆発させた。「フェイクニュースのABCがジミー・キンメルに仕事を戻したなんて信じられない……前回やつらを叩いたときは1,600万ドルももらった。今回はもっと儲かりそうだ。まったくの負け犬どもだ!キンメルなんて低視聴率で腐らせておけ」と投稿したのである。
一方、キンメルは現地時間9月25日(木)夜のオープニング・トークで、火曜日の番組が史上最高の視聴者数を記録したことについて大統領に「感謝」を表明。「あなたのおかげで達成できました、大統領。ありがとうございます」と皮肉たっぷりに語り、喝采を浴びたのである。
番組打ち切り報道とFCC承認待ちの影
スティーヴン・コルベアのトークショーは、来年で幕を閉じる予定である。7月に打ち切りが発表された時期が、親会社パラマウント・グローバルがスカイダンスとの合併にかんしてFCCの承認を待っていた最中であったことを考えると、これをトランプが“戦果”として誇るのも無理はないだろう。
CBS側は経済的理由からいずれにせよ終了する予定であったと主張しているが、あまりに怪しいタイミングでの発表であった。しかも、その後FCC委員長のブレンダン・カーがキンメルに対して違法とすら評される強硬な発言を繰り返していることを踏まえると、裏ではどのようなやり取りがあったのか想像に難くない。
実際、打ち切り発表後の初放送では視聴者数が35%も急増し、真夏の低調期にもかかわらず高水準を維持したのである(ただし新作エピソードはごく少数にとどまった)。
『サウスパーク』の健在ぶり
そして忘れてはならないのが『サウスパーク』である。トランプは番組の打ち切りを直接求めたわけではないが、大統領本人や政権関係者は7月のシーズン27開始以降、繰り返し同作を攻撃してきた。そのたびに全国ニュースをにぎわせ、視聴者の関心を煽る結果となった。
こうして、放送開始から26年を迎えた『サウスパーク』は、近年稀に見る高視聴率を記録した。シーズン最初の2話の平均視聴者数はプラットフォーム横断で600万人を超え、その勢いは後続のエピソードでも維持されているのである。
報道番組では話が変わる
もっとも、ここで取り上げたのはいずれもエンターテインメント番組であり、報道番組となると話はより複雑になる。たとえばトランプはCBSニュースの『60ミニッツ』を攻撃し、パラマウント・グローバルは訴訟和解後に編集方針の変更を約束した経緯がある。
総じて言えば、たとえそれが一時的なものであっても、これらエンタメ番組は打ち倒されるどころか、逆に強さを増したのである。深夜番組の視聴率急上昇は往々にしてすぐ落ち着くものだが、少なくともいまは、各番組は逆風を追い風に変えているのである。
視線の操作:トランプの真意
ただし、これらの番組を傷つけることがトランプの真の目的であると考えるのは早計かもしれない。メディア戦略においては抜群の才を誇る男であり、攻撃されることでだれよりも利益を得てきたのは他ならぬトランプ自身だからである。自らの注目が及ぼす影響力を、トランプは熟知しているのだ。
これらの番組への攻撃は表向きの狙いにすぎず、もっと重大な問題から人々の目をそらすためかもしれない。たとえば、ウクライナで進むロシアの侵攻を止められない無力さ、経済成長を鈍化させインフレを加速させる関税政策、そして何より自らの支持基盤の右派が執着するエプスタイン関連の文書問題などだ。
深夜番組3本が政権を笑い飛ばしつつ高視聴率を記録しているいま、我々が目を向けているのは、トランプがまさに望む方向なのかもしれないのである。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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