Netflix『オレたちブーツ』──マックス・パーカーが語る、男だらけの現場とサリバン軍曹誕生の裏側
「これほど“男ばかり”のキャストに囲まれたのは初めてで、ある意味“想像どおり”のことが全部起きました」と、ゲイの海兵隊員を描くNetflixシリーズ『オレたちブーツ』の撮影を振り返り、英国俳優マックス・パーカーは冗談交じりに語る。
「みんな競争心むき出しだし、たがいにイタズラを仕掛け合って、とにかく最高に楽しんでいた。でも同時に集中力を保つのが大変でした。まるで学校に戻ったみたいな雰囲気になるから」と、現在33歳のパーカーは英国からのZoomインタビューで米『ハリウッド・リポーター』に語った。

本作は1990年を舞台に、クローゼットの高校生キャメロン(演:マイルズ・ハイザー)が友人を追って海兵隊に入隊する姿を描く。パーカーが演じるのは、キャメロンの上官のひとりであるサリバン軍曹だ。
「最初にオーディションのお話をいただいたとき、自分の“居心地のいい領域”から大きく外れていると感じました。自分が教官役を演じるなんて想像したこともなかったので」と振り返る。

『オレたちブーツ』は、グレッグ・コープ・ホワイトの回想録『The Pink Marine』を原作とした作品で、現在Netflixの米国TV番組トップ10で7位に入っている。本作は、90年代の米軍に根強く存在していた反同性愛的文化を批判的に描きつつも、軍というコミュニティに見られる肯定的な側面や敬意を忘れない、絶妙なバランスを取っているように見える。

エンターテインメント・ウィークリーが『オレたちブーツ』について質問した際、米国防総省の報道官キングズリー・ウィルソンはNetflixに言及し、次のように語った。
「トランプ大統領とヘグセス国防長官の下で、米軍は戦士の精神を取り戻そうとしております。私たちが要求する水準は高く、均一で、何より性別を問いません。背中に背負うバックパックや仲間の重さは男性であるか、女性であるか、ゲイであるかによって変わることはないのです。ですから、私たちはイデオロギー的な事情でその水準を歪めることはありません。私たちは『ウォーク』(過度なポリティカル・コレクトネス=政治的正しさ)のようなたわごとを視聴者や子どもたちに押し付けるNetflixとは違うのです」

パーカーにとって、この作品の核心は「つながり」にあるという。
「作品は何か特定のテーマだけを語っているわけではありません。まったく異なる背景、宗教、人種をもつさまざまな人々が登場し、彼らがたがいに関係を築いていく。そのすべてが“本物”なんです」とパーカーは語る。
パーカーは米『ハリウッド・リポーター』のインタビューで、『オレたちブーツ』に惹かれた理由や撮影で特に印象に残っている瞬間について語っている。
――このプロジェクトに惹かれたのはどんな点ですか。
最初にこのオーディションの話をもらったとき、自分の“コンフォートゾーン”から大きく外れていると感じたんです。教官役を演じるなんて想像したこともありませんでした。『フルメタル・ジャケット』などの映画に登場する教官像は知っていましたが……。
最初のオーディションでは、第1話のラストの“濃い”シーンを演じることになって、すごく印象的ではあったものの、これ以上進むとは正直思っていなかったんです。でもオーディションを重ねていくうちに、このキャラクターのことがだんだんわかってきて、自分と重なる部分があることに気づきました。
当時の教官について調べれば調べるほど、“ああ、自分はこの役を演じられる”と思えるようになったんです。努力すればするほど、“もし落ちたらすごくショックだろうな”と感じるような、そんなオーディションでした。
――こういうふうに役にのめり込んでいくことは、よくあることですか。
そうですね、いつも二通りのパターンがあります。すごいチームやスタジオが関わっていて、一緒に仕事ができるという理由でワクワクすることもあるし、脚本やキャラクターそのものに魅力を感じることもある。
この作品では、もちろんすばらしい制作陣とネットワークが関わっていて、脚本もすばらしかった。でも正直、当初はサリバンというキャラクターに自分が共感できるとは思っていなかったんです。面白いことに、彼は物語を通して大きく変化していくキャラクターなんですよね。
撮影を進めながら、そしてオーディションの過程を通じてサリバンという人物を発見していくのは本当に楽しかった。彼の魅力って、ある一点から物語が始まり、そこからどれだけ多面的な姿を見せてくれるか、その変化にあるんです。
――このキャラクターを演じるにあたって、ためらいのようなものはありましたか。
この役には、“その重みをきちんと表現できる人”が必要だと思ったんです。アメリカ人にとって海兵隊が軍の中でどれほど重要な存在なのか、そして自分がその人々に囲まれて演じるということもわかっていました。
だからこそ、きちんと敬意を払って演じたいという気持ちが強くて、それが自分の中での唯一のためらいでした。でも逆にそのおかげで、役を理解するためにより努力するようになったんです。“マックス・パーカーが演じる”というより、本当にサリバンという人物を理解しようとしました。
――撮影中で、特に印象に残っているシーンはありますか。
いろいろ挙げられますが……やっぱり最初に撮影したシーン、つまり第1話のラストのシーンは特別です。
撮影に入る前、私は数週間ほかのキャストと一緒に“ブートキャンプ”(訓練)を受けていたんですが、その間、彼らは私が教官役として振る舞う姿を一度も見たことがなかったんです。リハーサルではいつも“新兵役”として一緒にやっていたので。だから、現場に“サリバン軍曹”として現れて演じることができたのは、本当に気持ちのいい瞬間でした。
ゴミ箱の中のシーン――たしか第4話だったと思うんですが、あれは本当にストレスのかかる撮影でした。
マイルズの最終オーディションのとき、私はすでにキャスティングされていて、Zoom越しに彼とあの“ゴミ箱のシーン”を読んでいたんです。マイルズの演技があまりに引き込まれるもので、Zoomの画面越しなのに、思わず自分のセリフを忘れそうになったのを覚えています。

それを実際の撮影現場で再現できたのは、とてもワクワクする一方で怖くもありました。まず、もともとオーディションにも使われたシーンなので絶対に良いものにしたかった。そして、他のキャストたちの多くがその日の撮影を終えていて、私たちがそのシーンを演じるのを見ていくと言っていたんです。さらに、ショーランナーの家族もその日にセットに来ていて……とにかくプレッシャーだらけでした。
マイルズも私も、あのシーンにはものすごい重圧を感じていたと思います。でも、完成した映像を見ると、あの“ピリッとした空気感”がシーンに必要な緊張感を与えてくれていたんじゃないかと思います。

――ブートキャンプはどんな内容でしたか。
“ブートキャンプ”と聞くと、何百回もバーピーをしたり、懸垂や腕立てばかりしているイメージがあると思います。でも、実際には与えられた時間がとても限られていて、私たちは軍歴のあるベテランや軍事アドバイザーから可能な限り多くの情報を吸収することに集中していました。

脚本に関係する動きや所作を学んだり、銃の分解や射撃の方法、行進の仕方、休め・気をつけの姿勢など、とにかく基礎となる動作を徹底的に身につけました。フィットネス面は、基本的には自分たち次第でしたね。
私が演じるサリバンは、鍛錬を“気をそらす手段”や“自分への罰”のように使うキャラクターなので、そのためにも体をしっかり作っておきたいと思ったんです。でも、ニューオーリンズでの撮影中にあの美味しい料理が周りにあふれている環境では、それを維持するのが本当に大変でした。
――当時の米軍とクィアの関係性など、この作品のためにどれほどリサーチをしましたか。
物語は90年代に強く根ざしていますし、原作とは少し内容も異なるので、“90年代はこうだった”と本を読んでそのまま参考にすることはできませんでした。ただ、同じルールが存在していたのは事実です。作品の舞台は“Don’t Ask, Don’t Tell(聞かない・言わない)”導入前で、まさに“究極の対極”がそこにあると感じました。

超マッチョで競争的で、騒々しくテストステロンに満ちた世界――それが海兵隊です。一方で、自分の正体を隠さなければならない側面がある。その“隠す”という感覚は自分にもわかります。恥ずかしいとか後ろめたいからではなく、“法律で禁じられている”からです。特権も階級も、これまで積み上げてきたすべてを失いかねない。そうした時代背景を考えると、この恐怖や緊張感は、ある意味“時代を超えた”普遍的な感情だと感じました。海兵隊という環境では、それがさらに増幅されるのです。

現場には軍事アドバイザーのレオンがいて、彼の経験はサリバンととても似ていました。彼は海兵隊に在籍中、アウティングされたことで文字通りすべてを失ったんです。
シリーズ配信後、同じような経験をした、あるいは最後までカミングアウトせずに務め上げた海兵隊員の方々から多くのメッセージをもらいました。“どれだけ苦しかったか”“画面で描かれたことで自分が救われたように感じた”といった声です。
リサーチに関しては、本を読むというよりも、実際にその経験をした人たちに話を聞き、彼らの体験を教えてもらう形で行いました。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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