ワーナー、パラマウントによる16.7兆円の敵対的買収案を拒否 ―― Netflix合併優先、気になるハリウッド再編の行方は
世界のエンターテインメント業界を揺るがす巨大再編劇が、新たな局面を迎えた。ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)の取締役会は、デヴィッド・エリソンCEO率いるパラマウント側からの総額1,080億ドル(約16兆7,400億円、1ドル=155円換算)にのぼる敵対的買収提案を正式に拒否することを発表した。WBDはすでにNetflixとの合併に合意しており、今回の拒否によって「ワーナー×Netflix」連合の誕生が現実味を帯びる一方、パラマウントによるさらなる高値での再提案の可能性も浮上している。
▼巨額提案を蹴った背景にある資金への不信感

WBDの取締役会は、1株あたり30ドル(約4,650円)というパラマウント側の提案に対し、Netflixとの合意に比べて価値が劣るだけでなく、会社に重大なリスクをもたらすと断じた。WBDのサミュエル・A・ディ・ピアッツァ・ジュニア会長は、パラマウント側が提示した資金調達の枠組みを厳しく批判している。特に、デヴィッド・エリソンCEOの父親でオラクル創業者のラリー・エリソンによる資金保証の詳細が開示されていないことや、その資産が移動可能である点を指摘し、信頼性に欠けると結論付けた。
さらに、サウジアラビアやカタール、アブダビといった中東の政府系ファンドが関与する不透明な海外資金についても、大きな懸念材料となっている。WBD側はこれまで何度も同様の懸念を伝えてきたが、今回の提案でもそれらが解消されていなかったことが拒否の決定打となった。
▼泥沼化する交渉とNetflixの自信

今回の拒否劇の裏側では、両陣営による激しい心理戦も展開されている。WBD側は、パラマウント側の弁護士から届いた書簡が建設的な対話を目指すものではなく、最初から訴訟を前提とした強硬な姿勢を示唆していたと指摘した。パラマウント側の法務アドバイザーの一部でさえ、その書簡について「間違いだった」とWBD側に漏らしていると報じられており、交渉の場が極めて険悪な状態にあることが露呈している。
一方で、WBDとの合併を控えるNetflixは冷静に勝利を確信している。Netflix共同CEOのテッド・サランドスは、今回の合意が消費者やクリエイター、そして株主にとって最善の結果をもたらすと主張した。サランドス共同CEOは、「象徴的なHBOブランドや世界トップクラスのテレビスタジオを持つワーナーと、配信王者であるNetflixは互いを補完する最高のパートナーである」と強調し、今後もワーナー作品を劇場で公開し続けるという伝統的な映画興行へのコミットメントも改めて表明した。
▼ハリウッド史上最大の争奪戦は第2ラウンドへ

業界が今最も注目しているのは、デヴィッド・エリソンCEOの次の一手だ。パラマウントのエリソンCEOは、WBDのデヴィッド・ザスラフCEOに対し、今回の提案は「最終かつ最高額ではない」と、さらなる増額を示唆するメッセージを事前に送っていた。実際にニューヨークで開催された投資家向けカンファレンスでも、エリソンCEOはさらなる高値を提示する覚悟があることを周囲に漂わせていたという。
かつてディズニーがフォックスを買収した際にも、コムキャストが後から高額提案を行い、数か月にわたる応酬の末に最終的な価格が決まった前例がある。パラマウントの全額現金による提案は一部の株主にとって依然として魅力的であり、提示額がさらに引き上げられれば、ウォール街からの圧力が強まり、WBDが再考を迫られる可能性も否定できない。16兆円規模の巨額資金が動くこの入札合戦が、Netflixをさらに揺さぶることになるのか、それともワーナーがこのままNetflixとの合流を突き進むのか。ハリウッドの勢力図を塗り替える戦いは、第2ラウンドに突入した。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌

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