俳優アダム・ピアソン「違うことは、素晴らしい」― 映画『A Different Man』への想いや障がいとの向き合い方について語る

アダム・ピアソン 写真:David Reiss
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俳優のアダム・ピアソン。先天性の障がいにより顔の変形を持って生まれた彼は、その独特な個性と才能で映画界に新たな風を吹き込んでいる。映画『A Different Man』で注目を集めるピアソンに、ザ・ハリウッドリポーター・ジャパンは独占インタビューを行った。

「違うことは、素晴らしいことだ」

そう語るピアソンの言葉には、ユーモアと知性が溢れている。俳優としての挑戦だけでなく、日々のポジティブな考え方、障がいへの理解を深めるための取り組み、さらには共演者のセバスチャン・スタンとの心温まるエピソードまで語ってくれた。ピアソンの言葉から、誰もが抱える不安や恐れにどう立ち向かうべきか、そのヒントが見えてくるだろう。

── ポケモンの大ファンだとお聞きしました。日本発祥のポケモンですが、どのキャラクターがお気に入りですか?

ヒトカゲが大好きなんです!ロンドンで開催されたポケモン・ワールド・チャンピオンシップに参加したことがあって、あれは本当に素晴らしい経験でした。巨大なポケモンストアが設置されていて、ファンとしては夢のようでしたよ。当時の友達の多くは『ポケットモンスター ソード・シールド』のプロプレイヤーで、私は付き添いだったんです。正直、ガールフレンドを怒らせるくらいお金を使ってしまいましたが、それでも完全に価値がありました。

──ポケモン以外でも、アニメなどの日本文化に触れることはありますか?

もちろんです。最近『ワンピース』を見始めました。約2000話あるので先は長いですが、今のところとても楽しんで見ています。それに、スタジオジブリの大ファンでもあります。

── TEDトークを拝見しました。素晴らしいユーモアと自信をお持ちですが、大勢の前で堂々と話す秘訣は何ですか?

自信をつけるには練習あるのみです。大勢の前で話すのが怖いのは私も同じです。その怖さを「良い怖さ」として捉えることが大事だと思います。恐怖が全くないなら、それはたぶんその仕事に対してあまり情熱がない証拠ですし、そうであればその仕事は向いていないかもしれませんね。だから、怖さを抱えながらも前に進むことが重要だと思います。

観客を笑わせることに関しては、「人々は常に笑っていたいんだ」ということを覚えておくのが大切です。笑いは誰もが共有できるもので、みんなを繋げてくれます。準備したジョークが真心こめて作られたものなら、必ず観客に響くはずです。「観客を笑わせたい」という想いがあれば、その笑いはきっと伝わります。

── 素晴らしいアドバイスですね。『A Different Man』への出演はいかがでしたか?今まで出演した他の映画と比べて、本作はどのように特別なのでしょうか?

実は、監督のアーロン・シムバーグとは以前の映画『Chained for Life』でも一緒に仕事をした経験があります。その作品を通じて、お互いに対する信頼と尊敬が深まったんです。だから彼から新しい脚本を受け取ると、一度読めばそのビジョンがすぐに理解できます。

『Chained for Life』は、約30万ドルという少ない予算で作ったプロジェクトでしたが、『A Different Man』はA24とKiller Filmsとの共同制作で、ずっと大きな予算がありました。それが私にとっては新しく、エキサイティングな挑戦でした。

この映画は、私にとって特別な作品です。規模やチームもそうですが、物語の深さや自分が演じたキャラクター、オズワルドにも特別な思い入れがあります。

── オズワルドを演じてみてどうでしたか?ご自身の俳優としての生活をベースにしているようですが、同時に魅力的でカリスマ性のある人柄も似ていますよね。ご自身とオズワルドとの共通点や違いについて教えてください。

興味深い質問ですね。オズワルドと私はどちらも社交的で、人と一緒にいるのが大好きなところは共通しています。どちらも様々な経験を積んでいろいろな場所を旅してきました。でも、確かに違いもあります。

まず、オズワルドのファッションセンスは全く別次元です!あんなに派手な服を着こなす自信はありません。あるシーンでは、彼がトラ柄の着物を着て任天堂Switchでカジュアルに遊んでいるんです。「無理だ、そんなの絶対着られない」と思いましたね。私は一日中、グラフィックTシャツにジーンズって感じです。

もう一つの大きな違いは音楽的な才能です。オズワルドは音楽が得意だけど、私はその正反対。音楽に関しては全くダメで、何か楽器を演奏するなんて無理ですね。サックスなんて複雑なものを演奏するのは特に無理でしょう。オズワルドは音楽でステージを盛り上げることができるかもしれないけど、私は自分の得意分野に留まっていようと思います。

── 役作りに関して、共演者のセバスチャン・スタンがエドワードを演じる際に、彼にどんなアドバイスをしましたか?

セバスチャンとは重要な会話を何度もしました。撮影に入る前に、Zoomで長時間話し合ったんです。障がい者を演じるということは、実際にその経験をしていないと本当には理解できないものだと思います。どれだけ机上の研究をしても、限界があります。

セバスチャンは自分の時間を使ってたくさんのリサーチをしてくれて、専門家とも会って話をしていました。ですが、エドワードのようなキャラクターを本当に演じ切るためには、実際の経験にできるだけ近づくことが重要だと思ったんです。 

私がセバスチャンに伝えたのは、自分の経験では、匿名性を失って“公共財産”のようになってしまう一番簡単な方法は、「顔に障害があるか、有名人になること」だということ。私が経験したような人々の視線や指差し、写真を撮られるレベルの侵入性は知らないかもしれないけど、俳優のセバスチャン・スタンとして、世間の注目を浴びることがどういうものかは知っています。その感覚や理解を、エドワードの役に活かしてほしいとアドバイスしました。

レナーテ・レインスヴェ(左)アダム・ピアソン(中央)セバスチャン・スタン(左)

── とても興味深い視点ですね。セバスチャン・スタンは今年12月に東京コミコンで来日する予定ですが、日本のファンに共有できる彼との面白いエピソードがあれば、ぜひ教えてください。

セバスチャンは本当に素敵な人です。彼が大好きなのは、キャドバリーチョコレート。アメリカのチョコレートはイギリスのものにはかなわないっていうのは周知の事実です。私がイギリスから来るたびに彼は「キャドバリー持ってきてくれる?」って聞いてくるんです。なので、私はスーツケースいっぱいにキャドバリーチョコレートを詰め込んで持っていきます(笑)

セバスチャンとは良い友達で、彼がロンドンに来るときは必ず連絡をくれますし、私がニューヨークに行くときも知らせます。いつもコーヒーを飲みに行ったりして、彼は本当に素晴らしい人なんです。コミコンで彼に会うなら、ぜひキャドバリーチョコレートを持っていってあげてください。

セバスチャン・スタンの大好物だというキャドバリーチョコレート

── ベルリン国際映画祭で行われた『A Different Man』の記者会見で、障がい者に対する不適切な用語を使用したジャーナリストの言葉を、セバスチャン・スタンが訂正していました。障がいに関連する正しい言葉への認知を広げるために、映画業界やメディアはどのようなことができると思いますか?

正しい言葉を学ぶことはとても大事だと思います。ですが、誰もが知識にギャップがあることも理解する必要もあると考えています。初めて聞く言葉をすぐに正確に使えることを期待するのは、現実的ではないし、公平でもない。誰かが間違った言葉を使ったときには、セバスチャンのように、それを優しく訂正することが大切です。

今の社会は、間違いをすぐに指摘して非難する傾向が強いですが、それは逆効果になることが多いと思います。だから、愛をもって訂正することが一番効果的ですね。訂正された側も、それを学びの機会として受け止めるべきです。みんな、より包容力のある世界を作りたいと思っているのですから、お互いに支え合い、教育し合うことで、それが実現できると信じています。

── 日本にいる多くの映画ファンが『A Different Man』が映画館で公開されず、ストリーミングなどでしか見られないことを残念がっています。この映画を楽しみに待っている日本の方々に向けて、映画の見どころを教えてください。

『A Different Man』は本当に特別で考えさせられる映画です。美しさやアイデンティティ、そして自分たちが身につける仮面について深く掘り下げている作品になっています。このプロジェクトに関わった全員を誇りに思っています。日本の観客がストリーミングでしか見ることができないのは本当に残念ですね。もし、日本の映画館で公開できるならぜひ実現してほしいと願っています。日本の映画ファンが素晴らしい作品を体験できるし、私も日本の観客とつながる機会を持てますので。もし映画館で公開されたら、ぜひQ&Aセッションのために日本に行きたいと思っています。

── ご自身は数多くのイベントで講演を行ってきましたが、特に若い世代に向けて、多様性や、自らの存在を表現することの大切さについて、一番伝えたいことはありますか?

この話題は単なる多様性や表現以上のものだと思います。セバスチャンともよく話しますが、特に若い世代は「SNS中心の文化」に生きていますよね。みんな、小さなデバイスを持ち歩いていて、まるで低い自尊心を養う装置みたいに、Instagramをスクロールしながら、他人が輝いている姿と自分の現実を比較してしまっています。

若い人たちに伝えたいのは、「大丈夫じゃなくても、いいんだよ」ということ。君は他の人と違う?それは素晴らしい、私も違う。壊れていると感じる?うん、私も。何をしているのかわからない?私もわかってない。でも、それで大丈夫。

壊れていてもいい。自分の不完全さを受け入れて、でもその中で美しく、素晴らしい存在でいようとすることを大切してほしいです。

── ポジティブな考え方を持って、明るくいるための秘訣は何ですか?

毎朝、自分に「今日は昨日より良い日になるようにしよう」と約束することから始めます。昨日が素晴らしかったなら、今日はさらに素晴らしくしよう、昨日が厳しかったなら、今日は少しでも楽にしようと心がけるんです。毎朝、喜びと希望を選び、良いことに焦点を当てて、悪いことにとらわれないようにしています。

誰しも上手くいかない日がある。布団にくるまってたっぷり泣いて、すべてを吐き出したい日もある。それで大丈夫だと思うんです。誰にも泣く権利はありますから。ただ、それが終わったら、自分を立て直して、また外に出て世界に立ち向かうことが大切です。

── これからのプロジェクトについて教えていただけますか? 特に楽しみにしている役柄やプロジェクトはありますか?

現在、映画祭向けのドキュメンタリーを制作しています。ストーリーテリングや映画、レプレゼンテーション(代表性)について、なぜこれらが重要なのかを探る内容になっています。スクリーンで見る物語が、最終的には自分たちの生活における物語を形作ると思うんです。その「見られる」ことの重要性や、なぜ特定の映画に深く共鳴するのかを理解することがテーマになっています。

この作品が公開されるのが本当に楽しみです。他のプロジェクトについては詳しくは言えませんが、ワクワクすることがたくさん待っています。

── 最後に、日本の皆さんにメッセージをお願いします。

このインタビューを読んでくださり、ありがとうございます。役立つ内容であったことを願っています。『A Different Man』がストリーミングやその他の手段で公開された際には、ぜひ楽しんでほしいです。日本を訪れて、皆さんに直接お会いできることを楽しみにしてます!

取材・記事 The Hollywood Reporter Japan 山口 京香 / Kai Yamaguchi

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