映画『ルノワール』レビュー:早川千絵監督作、孤独と向き合う少女の繊細な心の軌跡

早川監督『ルノワール』、11歳の少女の内面世界を描く傑作
カンヌ映画祭コンペティション部門に出品された『ルノワール』は、1987年の東京郊外を舞台に、がんと闘う父親、緊張に満ちた母親、そして絶え間ない孤独感の中で生きる11歳の少女・フキの重要な夏の日々を描いた詩的な作品である。
2022年のカンヌ映画祭でデビュー作『PLAN 75』がカメラドールのスペシャルメンションを受賞し注目を集めた早川監督が、今回は過去に目を向け、よりパーソナルなストーリーを紡ぎだした。
新人俳優・鈴木唯の圧巻の演技
本作で主人公フキを演じるのは新人の鈴木唯。その豊かな感受性とあふれる想像力は、フキの無垢さと好奇心の深さを同時に伝える説得力を持っている。
鈴木の演技力で、フキは観客が本能的に守りたくなるような存在となる。電話で知り合った少年と実際に会う約束をするシーンでは、その交流が危険な方向に進むかもしれないという不安感が作品に忍び込み、緊張が高まるのである。
少女の情緒生活を繊細に描写
作品は、ゆったりとした散歩のようなペースで進行し、直接的ではあるが決して唐突ではないカット(編集はアンヌ・クロッツ)によって、ひとつの場面から次の場面へと観客を導いていく。映画『ルノワール』は、街をさまよい、想像の世界に逃避するフキの視点から展開される。趣味が獲得され、友情が育まれ、敵が作られ、そして人々が失われていく。物語全体を通して、早川監督は繊細なストーリーに対する確かな統制を保っている。
詩的な成長物語の世界
早川監督の『ルノワール』は、断片的な物語と超現実的な要素を含む詩的な成長物語として、忍耐強く観ることで報われる作品である。作品内の音量は囁く程度に調整されており、まるで早川監督が自分自身の記憶と密かに会話しているかのようだ。
本作のテーマは早川監督にとって深く個人的なものであり、主人公と同様に、早川監督も末期疾患を抱える親との現実に向き合った経験があるのだ。
夢見るような映像美
『PLAN 75』でも組んだ撮影監督・浦田秀穂とタッグを組み、早川監督は探究心溢れる子どもの視点を強調する夢見るような美学を採用している。フキは好奇心旺盛な子どもであり、その洞察力の強さと率直な態度ゆえに、周囲の人々から変わった11歳児と思われている。
実存的な孤独との対峙
映画の冒頭、静かに衝撃的なシーケンスでフキが登場する。彼女はVHSに録画された泣き叫ぶ赤ん坊の映像を見て、すぐにそれをアパート団地のゴミ置き場に捨てる。その暗くてカビ臭い場所で、彼女は荒々しい声の奇妙な男に出会う。
男は彼女に侵入的な質問をし、フキは恐れて逃げ出す。その晩、男は彼女のベッドで彼女を絞め、フキはナレーションを通して自分の死について考える。これは彼女が学校の課題で書いた短編小説であり、悲しみについての文学的な思索だったのだ。
大人の不安に囲まれた11歳
不安を抱えた大人に囲まれ、フキの精神状態は揺らいでいる。父親の圭司(リリー・フランキー:是枝裕和監督作品の常連)はがんを患っており、母親の詩子(石田ひかり)は彼の介護の重圧に押しつぶされそうになっている。
映画の序盤で圭司が入院すると、詩子は病院に長期療養を引き受けるよう頼む。彼女は彼に残された時間が短いことを予期しており、その現実を受け入れることに葛藤している。
孤独と退屈から逃れる試み
両親が差し迫った死の感情的・経済的重荷と向き合う一方、フキは趣味や友情を通じて孤独と退屈をやり過ごそうとする。彼女は完璧に編まれた髪の毛を持つ同級生・理子(河合優実)と親しくなり、つながりを求める人々のためのホットラインに電話して知り合った年上の少年・薫(坂東龍汰)と怪しげな関係を始める。しかし、これらの気晴らしの中でも、フキの魔法とテレパシーへの執着は変わらないのである。
作品の文脈と意義
『ルノワール』が、その控えめな表現にもかかわらず、心に響くのは、鈴木唯の説得力ある演技だけでなせる技ではない。早川監督が何よりも関心を持っているのは、作品内でフキの感情の複雑さを表面化させることであり、その使命は大部分達成されている。
映画の終盤には、繊細な枠組みにとってはやや露骨に感じられる感傷的な展開もあるものの、本作は各種映画祭を超えて、特にアートハウス系の観客の間で命を見出す可能性が高い。
早川監督の『ルノワール』は、子どもの視点から大人の世界の複雑さと喪失に立ち向かう方法を探る普遍的な物語であり、日本映画界の新たな才能として彼女の地位をさらに確立する作品となっている。
※この記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら。
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