【LGBTQボイス第3弾】米オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」で注目を集めたジミー・ハーロッドにインタビュー! 「声には世界をつなぐ力がある」 分断の時代に響くメッセージ
「LGBTQボイス」の第3弾として、ハリウッドリポーター・ジャパンは、米人気オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント(America’s Got Talent)」でみごとゴールデンブザーを獲得し、一躍注目を集めた歌手ジミー・ハーロッド(Jimmie Herrod)に、単独でインタビューをおこなった。
連載「LGBTQボイス」では、毎月エンターテインメント界で活躍するLGBTQ+コミュニティの方々に焦点をあて、彼らの声を広く届け、サポートしていくことを目的としている。
第3回は、ジミー・ハーロッドをお迎えした。
ジミー・ハーロッドは、2021年に、米人気オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」に出演。そのステージで人気ミュージカル『アニー』の名曲「Tomorrow」を歌い上げ、審査員のソフィア・ベルガラからみごとゴールデンブザーを獲得した。
【動画】America’s Got Talent 2021 Jimmie Herrod Sophia’s Golden Buzzer Full Performance
類いまれな声域と表現力、そしてステージ上での誠実な存在感で、瞬く間に世界中の注目を集めたジミー。パフォーマンス映像はSNSで話題となり、累計1億回以上の再生数を記録。いまもなお人々を魅了し続けている。現在はアメリカを拠点に活動しながら、近年は頻繁に日本を訪れ、アジア圏での活動も広げている。
そんな彼にハリウッドリポーター・ジャパンはインタビュー取材を実施。音楽への信念、日本へのリスペクト、アーティストとしての原点、そして声がもつ人をつなぐ力についてたっぷりと語ってもらった。
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ーーー日本にはよく来られているのでしょうか?
ジミー・ハーロッド:最初に来たのは去年の12月です。そのあと12月、2月、5月、7月、そして今回と、だいたい4回ほどですね。友人に会ったり、芸術関係の人たちとつながりを広げたり、コミュニティを築くために来ています。
アメリカズ・ゴット・タレント」に挑んだ背景
出演に至るまでの舞台裏
ーーーオーディション番組はここ日本でもとても人気で、YouTubeで動画を見る人も多くいます。そもそも「アメリカズ・ゴット・タレント」に挑戦しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
ジミー・ハーロッド:私の出演したシーズンはちょうどコロナ禍の最中でした。何も動いていない時期で、番組側も必死に新しい才能を探していました。オンラインでスカウティングを行っていたんです。
いろんな人がメールを送り合ってチャンスを探していて、そんな中で私にも連絡が来ました。最初は本物かどうか疑っていましたが、数か月のやり取りを経て「本当に番組に出てくれますか?」と聞かれて、「もちろん!」と答えました。
やっぱりテレビって特別な存在ですよね。どんなことをしていても「テレビに出た」と言えるというのは大きい。番組はとても計算されていて、出演者それぞれに役割がある。いわば「この人はこういうタイプ」という“箱”が用意されている。でもその“箱”も彼らなりの最善だと思っている。そういう意味で、とても大きなチャンスでした。断る理由なんてなかったです。
【動画】イディナ・メンゼルと、『ウィキッド』の名曲「Defying Gravity」をパフォーマンスした回
ーーーステージでパフォーマンスするに至るまでも多くのプロセスがあるのでしょうか?
ジミー・ハーロッド:舞台裏では本当にたくさんのやり取りがありました。メール、そしてオンライン会議(FaceTime)ですね。コロナ以前は、大きな会場に何千人も集まって、審査員の前で5秒だけ歌う、そんな方式だったんです。でも今はSNSのおかげで、動画を見ればその人の全履歴がわかる。そうやって出演者を探すようになりました。つまり、ステージに立つ前の段階から審査が始まっているんです。
「Tomorrow」を選んだ理由とピンク・マルティーニとの縁
ーーー『アニー』の「Tomorrow」はむずかしい選曲だとよく言われますが、なぜこの曲を歌おうと思ったのですか?
ジミー・ハーロッド:私は2017年から「ピンク・マルティーニ」というバンドと一緒にツアーをしています。アメリカを拠点にしながら世界中を回るグループで、日本語のアルバムも出しているんです。そのバンドが以前から「Tomorrow」をいろんな人と演奏したいと思っていて、私が参加したときに「一緒にやってみよう」と言われました。それで最初にその曲をバンドと一緒に歌ったのが始まりです。番組のスカウト担当がその映像を見て、この曲をテレビでも披露してほしいと言ってくれたんです。
【動画】Jimmie Herrod gives an unbelievable performance of “Exodus” in Paris, 2025
サイモン・コーウェルの挑発と、観客を圧倒した逆転の瞬間
ーーーサイモン・コーウェルに「最悪の選曲だ」と言われながらも、最終的に圧倒的に認めさせた時のお気持ちは?
ジミー・ハーロッド:あの番組は“感情を揺さぶる”演出が多いんです。少し挑発的に言ってドラマを作る。当日も実際にパフォーマンスするまで12時間近く待たされました。コロナ禍だったので、倉庫のような場所で一人で座って待っていたんです。でもサイモンは意外と優しい人で、コロナ中にもかかわらず、全員に握手をして回っていました。厳しいコメントを言いながらも、どこかで相手を試しているようなところがあるんです。
ーーーソフィア・ベルガラがゴールデンブザーを押した瞬間、頭の中ではどんなことが巡っていましたか?
ジミー・ハーロッド:本当に驚きました。何年も番組を見てきましたが、まさか自分が選ばれるなんて思ってもいませんでした。何千人もの応募者がいて、ゴールデンブザーを押してもらえるのはたった6人ほど。だから衝撃的でした。でも同時に、みんな本気で準備をしているので「もしかしたら」と信じてもいたんです。自分のやっていることに信念があるからこそ挑戦するわけで、その瞬間は感激と信じられない気持ちが入り混じっていました。

ーーーゴールデンブザーのシステムは、あなたが参加したシーズンからスタートしたのでしょうか。
ジミー・ハーロッド:私のシーズンで新しい形式が追加されました。以前にもありましたが、少し変化を繰り返してきたようです。オーディションの段階や放送回によって押されるタイミングも違うんです。ゴールデンブザーを押されると「次の審査をスキップしてライブ放送に進める」仕組みで、いわば『アメリカン・アイドル』でいう「ハリウッド行きのゴールデンチケット」のようなものです。
ゴールデンブザーがもたらした人生の変化
“優勝以上のインパクト”を生んだゴールデンブザー
ーーーゴールデンブザーを獲得したことは、キャリアやアーティストとしての自信にどんな影響を与えましたか?
ジミー・ハーロッド:実はゴールデンブザーの瞬間って、優勝よりも影響が大きいんです。その動画は番組の中でも一番多く再生されるので。今でも街で「あなた、あの髪型の人?」って言われるんです。名前を覚えていなくても、映像を覚えている人が多い。SNSでは特に再生数がすごくて、100万、200万どころではありません。あの動画1本で世界中の人が自分を知るようになった。SNSの力って本当に大きいです。
ーーーまさにSNSの影響力ですね。
ジミー・ハーロッド:SNSは本当にカオスです。何が起きるかわかりません(笑)。
SNSが広げる音楽の影響力
ーーーSNSで多くのコメントや感想を受けてどのように感じますか?そこからたくさんのファンもできたのではないでしょうか?
ジミー・ハーロッド:そうですね。番組はある一面だけを切り取りますが、その後「もっとあなたを知りたい」と思ってくれる人も多いです。テレビに出るチャンスなんてそうそうないので、本当にありがたく思っています。番組後も「次はどこでライブをするの?」「あなたの街にも来て!」と声をかけてもらえて、人生が変わりました。私の動画は今もSNS上で再生され続けていて、トータルで1億回以上再生されています。信じられないですよね。
ーーーSNSはマーケティングにおいても重要だと感じていますか?
ジミー・ハーロッド:そう思います。若い頃、MySpaceが音楽家たちにとって大きなプラットフォームだったのを覚えています。リリー・アレンのように、そこからキャリアを築いた人もいました。今はTikTokやInstagramがその役割を担っています。昨日も誰かと「『愛▼スクリ~ム!』がアメリカでもすごく人気だったよね」という話をしていたんです。
ーーーアメリカでもそんなにヒットしたのですか?
ジミー・ハーロッド:はい、特にTikTokとInstagramで人気でした。
ーーーアメリカではトランプ大統領がTikTokを禁止したという話もありましたね。
ジミー・ハーロッド:ええ、でも今では彼もTikTokが好きみたいですよ(笑)。
LGBTQアーティストとしての視点
ーーーLGBTQコミュニティの一員であることが、アーティストとしての歩みにどのように影響しましたか?
ジミー・ハーロッド:おもしろいことに、「アメリカズ・ゴット・タレント」の観客層はアメリカの“中間層”に向けた構成なんです。だから番組内で「自分はゲイです」と公言するのは難しい。ただ、スタッフにはLGBTQの人も多く、理解があります。私自身は子どもの頃から自分を隠そうと思ったことはありませんでした。時に受け入れてもらえない経験もありましたが、それが人に対して敏感になるきっかけにもなった。アートを通して、「あの作品が心に残った」と言われる瞬間が何よりのよろこびです。
アイデンティティと表現、伝統との対話
ーーーご自身のアイデンティティは、音楽やステージでの表現にどのように影響していると思いますか?
ジミー・ハーロッド:もちろんあります。私はオーケストラとの共演も多いのですが、あの世界は「古いお金の文化」とも言われるくらい伝統的なんです。でも最近は少しずつ変わってきていて、ドラァグクイーンを招いたプライド・シンフォニーなど、新しい試みが増えています。私もその流れの一部として活動できるのがうれしいです。
「アメリカズ・ゴット・タレント」では2シーズン出演しました。2回目の“ベスト・オブ・ザ・ベスト”シーズンでは、ジョージ(Joji)の曲を歌いました。歌詞を少し変えたかったのですが、まだ完全には自由ではなかった。でも、少しずつ前進していると感じます。
ーーーオーケストラとテレビのステージでは、歌う感覚に違いはありますか?
ジミー・ハーロッド:全く違います。テレビはカメラとライトに囲まれた“ひとりの世界”。でもオーケストラは60〜70人の演奏者との共同作業です。お互いを必要とし合い、呼吸を合わせる。とても繊細で、美しい関係性です。
音楽的ルーツと現在のインスピレーション
ホイットニーから藤井風まで ─ ジミー・ハーロッドを形づくる音楽たち
ーーー子どもの頃から最も影響を受けた音楽的存在は誰ですか?
ジミー・ハーロッド:母が家でよくホイットニー・ヒューストンとジャネット・ジャクソンを流していました。それからカーペンターズも大好きでした。日本でこんなに人気があると知ったときは驚きました。今でもマライア・キャリーやビョークなど、表現力豊かなアーティストに惹かれます。
ーーー現在あなたがお気に入りの音楽は何ですか?
ジミー・ハーロッド:最近は日本の音楽もよく聴いています。言葉を学ぶ助けにもなるんです。藤井風さんの音楽は海外でも注目されていますね。「Tiny Desk Japan」で彼を見て、すぐファンになりました。日本の音楽が海外でシェアされるのを見ると、とてもワクワクします。
【動画】Fujii Kaze: Tiny Desk Concerts JAPAN
声域だけに頼らない“言葉と感情”の選曲哲学
ーーー幅広い声域を持つことで知られていますが、その声を最も活かせる曲をどうやって選んでいますか?
ジミー・ハーロッド:私にとって一番大事なのは「言葉」です。歌詞に心から共感できる曲でないと歌いたくないんです。ホイットニーのような名曲も大好きですが、あまりにも完ぺきすぎて怖いと感じることもあります。むしろシンプルな曲の方が、そこに新しい感情を吹き込める気がします。
ーーーあなたの歌を聴いた観客に、どんな感情を感じてもらいたいですか?
ジミー・ハーロッド:「正直な気持ち」を感じ取ってもらいたいです。心から好きな曲でなければ、観客もそれを感じ取ります。だから本当に愛している音楽を歌うことにこだわっています。たとえ同じ曲でも、私が歌うことで「新しい発見があった」と感じてもらえるように。

ーーー印象に残っている感想はありますか?
ジミー・ハーロッド:ある人が「あなたの声は男性でも女性でもないように感じる」と言ってくれました。性別という枠を超えて、ただ“感じる”ことができたと。その言葉が本当にうれしかったです。音楽は性別ではなく、ただの“アート”なんです。
ーーー今後、どんなプロジェクトやコラボレーションに挑戦してみたいですか?
ジミー・ハーロッド:日本にはジャンルの中にさらにジャンルがあるような音楽文化があって、すごくおもしろいです。「Tiny Desk Japan」で見たアーティストの中にも、ピアノだけの作品や電子音楽など、多様なスタイルがありました。そういう冒険的なアーティストと一緒に、型にとらわれない音楽を作ってみたいです。
新アルバム『プリティ・イズ・ホワット・チェンジズ』が絶賛発売中!
ーーー新アルバム『プリティ・イズ・ホワット・チェンジズ』について教えてください。
新アルバム『プリティ・イズ・ホワット・チェンジズ』(Pretty Is What Changes)を2025年11月21日にリリースしました。このアルバムは、『スウィーニー・トッド』や『イントゥ・ザ・ウッズ』(どちらも映画化されています)などで知られる名作曲家スティーブン・ソンドハイムの楽曲を集めた作品です。
アルバムでは、私のボーカルをピアノ・ベース・ドラム編成のトリオがサポートしており、グラミー賞受賞歴を持つジョン・ビーズリーが共同プロデューサーとして参加しています。ビーズリーはジャズ界での活躍に加え、『アメリカン・アイドル』の元リードアレンジャー兼アソシエイト・ミュージックプロデューサーとしても知られています。

性別を超えて届く声の存在
ーーーあなたを憧れの存在として見る若いLGBTQの人たちに、どんなメッセージを伝えたいですか?
ジミー・ハーロッド:世界は常に変化していて、時に進んでは戻る。でも、どんな時も「自分であること」を信じてほしい。自分を一番よく知っているのは自分自身です。「自分を知っている」ということ自体が幸せなんだと信じて、胸を張って生きてください。
スティーブン・ヘインズ:世界に向けて、あなたは本当はどんなことを伝えたいですか?今、世界では本当にいろいろなことが起きています。ある側は相手の声を聞こうとせず、もう一方は相手のことを気にかけない。すべてが混ざり合い、分断されています。でも、声というのは「聞き方」や「届け方」、「共有の仕方」次第で多くのことを変えられる。いま、あなたの目の前にはあらゆる国籍、文化、人種、考え方を持つ人が立っています。誰かが誰かを嫌い、「話しかけないで」「触らないで」「隣に立たないで」「友達になりたくない」と言い合う。そんな混乱の中で、あなたの“声”には何ができると思いますか?
ジミー・ハーロッド:ホイットニー・ヒューストンの話をするのはいつも楽しいです。彼女は世界中の人に愛されていますよね。そして今、SNSのおかげで、私たちは地球のあらゆる場所から「なんて美しいんだ」「こんな音楽があるなんて知らなかった」という声を聞ける。音楽や声を通して、人々が“誰か新しい人にハローと言いたくなるような”形でつながることができたら、それが一番すばらしいと思うんです。いつも思うんです。たとえばドイツ語と日本語の人たちは、どうやってお互いの言葉を理解するようになったんだろう?きっと昔、海辺で石を手に取って「これが私の“岩”という言葉」「これが私の“岩”という言葉」と言い合ったようなところから始まったんじゃないかな。最初のきっかけは、誰かが「ハロー」と言うこと。攻撃ではなく、理解したいという気持ち。誰かを理解しようとする。それが、今この時代に最も必要なことだと思います。
スティーブン・ヘインズ:あなたの声は、まさに世界を癒す力があります。あなたが出演した番組をすべて見ました。イベントであなたを見た時、「本物だ…!」と思って感動しました。彼(共通の知人)は何も言ってなかったんですよ(笑)。あなたは本当に謙虚ですね。さっきこの「humble(謙虚)」という言葉をあなたに教えたばかりなんですが、今まさにその意味を体現していると思いました。あなたのような人が、いまの時代にいることが本当に希望です。みんなが何かを追いかけて、何かに流されている時代に、あなたの言葉は静かに心を揺さぶる。どうかそのまま、謙虚でいてください。すべては、あなたが今語ってくれたその想いから始まるのだから。


日本のファンへのメッセージと今後の展望
ーーー最後に、日本のファンとハリウッドリポーター・ジャパンの読者に向けてメッセージをお願いします。
みなさん、ぜひお会いしましょう!来年に向けて、何か新しいことを始めたいと思っています。日本には本当にすばらしい音楽家がたくさんいて、ライブハウスも大小問わず豊かです。アメリカから多くの音楽が入ってきましたが、日本はそれを独自の感性で昇華させている。特にジャズは、世界でも日本が最も盛んな場所の一つです。これからも、日本の音楽シーンが持つ魅力をもっと深く感じていきたいですね。

Produced by:スティーブン・ヘインズ、イシガミ ススム
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関連リンク
ジミー・ハーロッド公式サイト(英語)https://jimmiebeingjimmie.com
インスタグラム https://www.instagram.com/jimmie_herrod/
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