石井岳龍監督27年越しの悲願『箱男』ジャパンプレミア、主演・永瀬正敏「うれしすぎて知恵熱出た」
石井岳龍監督の映画最新作『箱男』のジャパンプレミアが8日、東京・新宿ピカデリーで行われた。石井監督は出演の永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市とともに上映前に舞台挨拶。「ようやくここまでたどり着いた。私もまだ、箱の中で妄想しているような夢のような気分です」と感慨深げに話した。
安部公房氏が1973年に発表した同名小説が原作。段ボールを頭からかぶってのぞき窓から世の中を俯瞰(ふかん)する、人間が望む最終形態といわれる箱男をめぐり、箱男になろうとするカメラマンの「わたし」、箱男の存在を乗っ取ろうとする「ニセ医者」、箱男を完全犯罪に利用とする「軍医」らの攻防によって、人間の存在意義を浮き彫りにしていく。
1997年、一度はドイツとの合作が決まりハンブルグで撮影されることになったが、クランクイン前日に製作が中止に。その時も主人公の「わたし」を演じる予定だった永瀬は、「あまり経験したくないこと。監督がプロデューサーに呼ばれ、それから外に出ていった時の後ろ姿は一生忘れません」と振り返った。
そして、くしくも安部氏の生誕100年に当たる今年に27年越しで映画化が実現。2月のベルリン国際映画祭でのワールドプレミアを経ての日本初上映に「あまりにうれしくて、2日前から知恵熱が出ています。いろいろなものが詰め込まれているので、とにかく楽しんでほしい」と真摯に語った。
同じく27年前も「軍医」役だった佐藤も、「脚本の読後感などは変わっているが、深淵をのぞく者は深淵からのぞかれるという、当時受けた印象は変わっていない」と断言。「石井監督が、より観客に対して届きやすいボールにしてくれた」と評価した。
新たに「ニセ医者」役に起用された浅野は、『ELECTRIC DRAGON 80000V』などで石井監督、永瀬とは絶大な信頼関係を持つ。「この人たちだったら、必ずやってくれるという安心感があった。脚本を呼んで組み立てていくうちに、この世界に没頭している自分がいた。大好きな作品です」と胸を張った。
オーディションでヒロインの葉子役に抜てきされた白本は、「皆さんに私では想像しえなかった葉子を引き出していただいた」と感謝。石井監督は、「葉子への解釈に説得力があり、かつ堂々としていた。期待以上の存在を示してくれた」と褒めた。
その石井監督は、「製作しないという選択肢は一度もなかった」と強調。生前に一度だけ会った安部氏からは「娯楽にしてくれ」とのリクエストを受けており、「50年前の原作だが、今の世の中を予見しているような映画。映画館でしか体験できない映画を作りたかった。途中、分からないところがあるかもしれないが、素敵な俳優たちが導いてくれるのであまり考えずに委ねてほしい」と訴えた。
『箱男』は、8月23日に全国で公開される。
取材/記事:The Hollywood Reporter 特派員 鈴木元
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