映画『遠い山なみの光』レビュー:カズオ・イシグロの名作を丁寧すぎるほどに映像化

映画『遠い山なみの光』A Pale View of Hills Film Partners
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遠い山なみの光』は、石川慶監督がカズオ・イシグロの同名小説を映画化した作品である。物語は、イギリスで暮らす母娘の会話を通じて、戦後の長崎での記憶が紐解かれていく。

交錯する2つの時間軸

映画は、1980年代のイングランドと1950年の長崎という2つの時間軸を交錯させながら進行する。現在のパートでは、大学を辞めた若き作家ニキ(カミラ・アイコ)が、母・悦子(吉田羊)に姉の自死について話を聞く。カラーパレットは寒色系で、重苦しい雰囲気が漂う。

一方で、戦後の長崎での場面は明るく温かみのある映像で描かれる。若き悦子(広瀬すず)は、夫・二郎(松下洸平)との静かな暮らしの中で、義父の緒方(三浦友和)や、奔放なシングルマザーの佐知子(二階堂ふみ)と出会う。

広瀬すず、映画『遠い山なみの光』写真:A Pale View of Hills Film Partners
広瀬すず、映画『遠い山なみの光』 写真:A Pale View of Hills Film Partners

戦後日本の女性像と世代間の葛藤

緒方との関わりを通じて、悦子は戦争責任を巡る世代間の溝に触れる。また、佐知子との交流を通じて、日本女性の生き方について新たな視点を得ていく。佐知子は娘を連れてアメリカ兵と国外脱出を試みるが、その希望が叶うかは描かれない。

曖昧さが薄れた映像化

ただし、小説が意図する曖昧さ [悦子と佐知子が同一人物の可能性もあるという謎めいた構造] は、映画ではやや説明的に処理されてしまっている。そのため、原作特有の不安定さや余韻が薄れてしまっている印象を受ける。

映像と演技の力で魅せる部分も

それでも、広瀬すずと二階堂ふみの化学反応は観る者を引き込む。また、戦後日本の再生と女性の選択を描く点では、一定の感動を与える仕上がりとなっている。

『遠い山なみの光』総評

本作は、映像や演技の力に支えられながらも、原作の魅力である「解釈の余地」はやや損なわれている。しかし、石川監督の誠実なアプローチと、原作の人気によって、一定の評価は得られそうだ。

作品情報

  • タイトル:遠い山なみの光
  • キャスト:広瀬すず、二階堂ふみ、カミラ・アイコ、吉田羊、松下洸平、三浦友和
  • 監督・脚本:石川慶

※本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら

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