【デビュー50周年】インド映画界の伝説ラジニカーントの軌跡|代表作・逸話で読み解く唯一無二のスーパースターの秘密

▼なぜラジニカーントは“スーパースター”と呼ばれるのか?
2025年、インド映画界の巨星ラジニカーントが俳優デビューから50周年を迎える。74歳の現在も絶大な人気を誇る彼は、単なる「スター」を超えた「スーパースター」として、インド全土から愛され続けている。本名シヴァージー・ラーオ・ガエクワードとして生まれたラジニカーントは、いかにして唯一無二の地位を築いたのだろうか?
ラジニカーントは2000年代に、言語や国境を越えた「パン・インディアン・スターダム」と呼ばれる新しい形の名声を築き上げた。ラジニカーントは人々の崇拝対象となる一方で、パロディのネタにもされるほどの強烈な文化的影響力を発揮している。
▼出演料は超高額?!数字が示す影響力
ラジニカーントの影響力は、具体的な数字にも表れている。2014年にX(旧:Twitter)を開始した際、一夜にして21万人のフォロワーを獲得し、インドの有名人として最速記録を樹立した。
映画興行においても、その存在感は圧倒的だ。2023年公開の『ジェイラー』は60億ルピー(約101億円)以上の興行収入を記録し、インドで50億ルピー(約84億円)突破作品を2本持つ、唯一の俳優となった。最新作『Coolie(原題)』の出演料は27億ルピー(約45億円)と伝えられており、アジア最高レベルの金額となっている。
▼ファンの熱狂と“独特の儀式”
ラジニカーントの出演作の公開前には、ファンが映画のポスターや等身大パネルに牛乳をかけるというお決まりの儀式を行う。その量は1日あたり4万~6万リットルにも及び、地域の牛乳不足を引き起こすほどだ。この慣例により、現地の組合がラジニカーントに対してファンへの注意喚起を求める事態まで発生している。
▼希少性を生む巧妙な戦略
“スーパースター”ラジニカーントの最大の戦略は、「希少性の創造」だ。キャリアの最初の10年間(1975~85年)は100本以上の作品に出演していたが、1994年以降は出演本数を大幅に絞った。この戦略により、1本1本が特別な意味を持つようになった。
さらに、ラジニカーントがインタビューを受けることは極めてまれで、映画の宣伝活動もほとんど行わない。スクリーン上の存在感だけで、十分な集客力を誇っているのだ。
▼ファンの管理とブランド保護
ラジニカーントは、自身のファンも巧妙に管理している。1995年にファンクラブの新規認定を停止し、公式ファンクラブ数を約5万で固定。無秩序な拡大を防ぎ、ファンの質を維持している。
熱狂的なファンとの関係においても、ラジニカーントは人間味あふれる一面を見せている。当初は誕生日をチェンナイで盛大に祝い、全国からファンが集まっていた。しかし、誕生日会に向かう途中に交通事故でファンが死亡した際、ラジニカーントは公の場で誕生日を祝うことを取りやめた。現在は、毎年誕生日が近づくと山に隠遁する習慣を続けている。
また、2002年には商業的利益を目的とした自身のイメージの模倣を禁止する法的通知を発行し、インドで初めて著作者人格権を主張したスターとなった。2015年に映画のタイトルに「ラジニカーント」という名前が使用された際には、製作陣を訴え、裁判で勝訴。映画のタイトルから名前が削除され、自身のブランド保護に成功した。
▼スーパースターの素顔
多くのスターがイメージの維持に苦労するなか、ラジニカーントは素の姿を隠さない。メイクやかつらを施さず、ラフな格好で公の場に現れ、スクリーン上の英雄的イメージとのギャップを気にしない。
現代のスターに求められる「俳優とキャラクターの一体化」を拒否し、イメージに合わせて自分を変えることを拒んでいる。スクリーン上の男性的な魅力とスクリーン外の質素な姿勢、この深いギャップがファンの愛情の源となっている。
▼バス車掌からスーパースターへの道のり
1950年12月12日にシヴァージー・ラーオ・ガエクワードとして生まれたラジニカーントは、事務員や大工といった職を経て、バンガロールでバスの車掌として働いていた。当時、すばやい切符の発行と独特なスタイルでのお釣り返しが評判となり、乗客は他のバスを見送ってでもラジニカーントが勤務するバスを待ったという。
演劇活動では俳優シヴァージ・ガネーサンの物まねを行い、マドラス映画学院に入学。そこでK・バーラチャンダル監督に才能を見出され、「夜の色」(ラジニカーントの肌の色に由来)を意味する「ラジニカーント」と改名した。
▼挑戦し続ける俳優人生
1975年の『世にも奇妙なラーガ』でのカメオ出演からスタートしたラジニカーントの映画キャリア。初期は悪役中心だったが、徐々にアクション、コメディ、ロマンスをこなす多才な俳優へと成長した。
常にトレンドに挑戦し続けるラジニカーント。1998年には低予算のハリウッド映画にも出演し、アメリカ領事館の英語家庭教師をつけるなど、国際進出も模索した。
▼スクリーン表現の革命者
ラジニカーントの大きな特徴は、観客との直接的なコミュニケーションだ。『バーシャ! 踊る夕陽のビッグボス』(1995)では決め台詞を繰り返し、「第四の壁」(観客に直接語りかけるような演出)を破る演出を取り入れた。『Annaamalai(原題)』(1992)では、カメラにウィンクしたり、観客への感謝を込めて手を合わせるなど、従来のスクリーン表現を超える表現を生み出した。
▼従来の美の基準を覆した成功
興味深いことに、ラジニカーントの外見は従来のスター像とはかけ離れている。顔の中心に寄った特徴的な造形、後退したヘアライン、ひび割れた唇。これらは一般的な「美形のスター」の条件とは異なるが、それこそが独自の魅力となっている。
▼新時代への適応と進化
ラジニカーントはスクリーンの中で喫煙や飲酒をしていたが、2000年代半ばの喫煙警告制度化に伴い、『ボス その男シヴァージ』(2007)ではタバコをチューインガムに変更するなど、時代に応じた柔軟性も見せている。
1990年代後半から2000年代前半の低迷期を経て、ラジニカーントは圧倒的な存在感を武器にした新しいスターダムを築き上げた。『ロボット』(2010)では、従来の肉弾戦に代わってテクノロジー主体のアクションを導入。博士とロボットの二役を演じ分け、新時代の映画表現に挑戦した。
近年は、新世代の監督との積極的なコラボレーションを行っている。カールティク・スッバラージ(『ペーッタ』)、ネルソン・ディリープクマール(『ジェイラー』)、ローケーシュ・カナガラージ(『Coolie』)など、斬新なビジョンを持つ監督との仕事を通じて、自身の可能性を広げ続けている。
▼ラジニカーントの代表作
- 『世にも奇妙なラーガ』(1975) – デビュー作となった記念すべき作品。かつて野蛮だった男が優しさを見せる変化が印象的だった。
- 『ダラパティ 踊るゴッドファーザー』(1991) – マニラトナム監督による作家性の強い作品。古典的英雄カルナをモチーフにした現代ギャング・サーガで、夜明けの川を背景にしたラジニカーントのシルエットが象徴的だ。
- 『バーシャ! 踊る夕陽のビッグボス』(1995) – ラジニカーント映画の典型的パターンを確立した記念すべき作品。誠実な三輪タクシー運転手が、ギャングだった過去を持つ設定は、後の多くの作品に影響を与えた。
- 『ボス その男シヴァージ』(2007) – 8億ルピー(約13億円)という大予算で制作された超大作。タバコをチューインガムに変更し、MGRことM・G・ラーマチャンドランへのオマージュとして復活シーンを盛り込むなど、2010年代のラジニカーント復活の起点となった。
- 『ジェイラー』(2023) – ネルソン・ディリープクマール監督による老いゆくスターダムの新しい表現。ラジニカーントが祖父役を演じながらも、個人の力ではなく「軍隊をまとめる」新しい英雄像を提示した作品だ。
▼監督との創造的な関係
ラジニカーントにブレイクの機会を与えたK・バーラチャンダル監督は、当初その独特な台詞回しや話すリズムを理解できなかったという。「ラジニカーントは私の決まりを破って、新しいスタイルを作り上げた。そして結局、私はその功績を自分のものにできた」と、バーラチャンダル監督は振り返っている。
バーラチャンダル監督は、ラジニカーントの持ち味を活かせるよう短い台詞を与え、観客の注意を引きつけるクローズアップを多用した。これがやがて、ラジニカーント映画の定番スタイルとして根付いていったのである。
▼永遠のスーパースターの秘密
ラジニカーントの50年のキャリアが示すのは、スーパースターとは人気や興行収入だけでは測れないということだ。希少性を生む戦略、ブランドの保護、ファンの管理、時代への適応という多面的なアプローチで、唯一無二の地位を築いた。
バスの車掌から世界的スーパースターへの道のりは、努力と戦略、そして何より観客への敬意に満ちている。74歳の現在も新しい挑戦を続けるラジニカーントは、真のエンターテイナーとは何かを体現し続けている。50周年を迎える今年、彼の物語は新たな章を迎えようとしている。
※本記事は『ハリウッド・リポーター・インド』の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
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