批評家選出!2025年「最高の演技」25選 ―― ティモシー・シャラメ、エマ・ストーンほか…2025年映画界の主役は誰?
2025年のスクリーンは、俳優たちの“当たり年”だった。新星の鮮烈な台頭から、名優たちのキャリア更新まで、記憶に刻まれる演技が次々と誕生。ローズ・バーン、ティモシー・シャラメ、ヴァグネル・モウラ、トニ・セルヴィッロら圧倒的な主演はもちろん、エマ・ストーン&ジェシー・プレモンスといった抜群の相性を見せた共演も観る者を魅了した。
以下、米誌『ハリウッド・リポーター』の映画批評家3人が2025年の「最高の演技」を選出した。
1.アダム・ベッサ『Ghost Trail(英題)』

フランス/チュニジア系俳優アダム・ベッサは、フランスで元拷問者を追うシリア人亡命者を静かに、しかし強烈な情感で演じ切る。夢のような瞳と存在感を備えた“映画スター性”を自在に操りつつ、トラウマや絶望、優しさまで繊細に表現した。その控えめながら強烈に胸に迫る演技は、今後さらに注目を集めるに違いない。
2.ローズ・バーン『If I Had Legs I’d Kick You(原題)』

メアリー・ブロンスタイン監督による不安発作のような映画世界の中で、ローズ・バーンはほぼすべての場面を容赦ないクローズアップで捉えられる。正気を保つ限界で揺れるストレス過多の母親を嘘偽りなく演じきり、唇の動きや声の震えといった微細な表情にも人生の疲労と絶望を重ねてみせる。その生々しさは痛々しいほどだが、同時に目が離せない圧倒的な存在感を放っている。
3.イ・ビョンホン『しあわせな選択』

パク・チャヌク監督の反資本主義的コメディスリラー『しあわせな選択』で描かれる主人公は「普通の男」という設定だが、イ・ビョンホンが演じる男はまったく普通ではない。殺害計画に振り回される姿は絶妙にコミカルだが、焦りが高まる中で決意や怒り、不安など多彩な感情を自在に表現する。奇妙な愛嬌と切実な親近感を同時に宿し、忘れがたいアンチヒーローとして強烈な印象を残している。
4.ティモシー・シャラメ『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』

わずか十数年で充実したキャリアを築いたティモシー・シャラメだが、ジョシュ・サフディ監督のスポーツコメディ『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』では新たな一面を開花。1950年代のロウアー・イースト・サイドで卓球による成り上がりを狙う主人公マーティは、圧倒的なエネルギーを放ち続ける存在だ。利己的で抜け目ない一方、どこか憎めない魅力があり、シャラメは新たなアンチヒーロー像を独特の軽さと勢いで印象的に描き出している。
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5.キャスリーン・チャルファント『Familiar Touch(原題)』

息子を“ハンサムな見知らぬ男”と勘違いするほど物忘れが進んだ女性ルース。キャスリーン・チャルファントは、ルースの魂を一瞬たりとも見失わせない。包丁の扱いから布を撫でる仕草まで、長い年月の重みを刻み込み、表情の変化には戸惑い・茶目っ気・優しさ・悲しみが鮮やかに流れる。繊細にして全身で物語る、比類なき演技だ。
6.フランク・ディレイン『Urchin(原題)』

ロンドンの路上でもがくホームレスの中毒者マイクを、カメラフレームのほぼすべてで体現するフランク・ディレイン。危うさと軽やかな魅力、皮肉めいたユーモアが同居し、マイクを“見て見ぬふりできない存在”へと変える。暴力的な衝動と嘘を抱えた人物を、強い共感に導く演技が鮮烈だ。
7.ジョディ・フォスター『A Private Life(英題)』

知的で緻密な演技で知られるジョディ・フォスターが、レベッカ・ズロトヴスキ監督の混沌としたミステリーコメディで解放された姿を見せる。見事なフランス語と共に、パリ在住のアメリカ人セラピストに鋭さと意外な遊び心を吹き込み、軽快な魅力を放つ。元夫役のダニエル・オートゥイユとの掛け合いは特に秀逸で、アマチュア探偵ばりの連携と色気のあるやりとりが、作品に大人の余裕と楽しさをもたらしている。
8.エイミー・マディガン『WEAPONS/ウェポンズ』

エイミー・マディガン演じるグラディスおばさんの不気味なウィッグと奇妙なメイク、巨大な緑色の眼鏡――まずはそのルックスで目を奪うが、本当に寒気を呼ぶのは、媚びるような声、攻撃前のサディスティックな笑み、そして支配に転じた瞬間に露わになる冷酷さだ。滑稽で凶悪、そして抗いがたい魅力。ホラー史に残る悪役像といえる。
9.ハリー・メリング&10.アレクサンダー・スカルスガルド『Pillion(原題)』

ハリー・ライトン監督のデビュー作は、主従関係を描いたクィアな作品を意外なほどの優しさとユーモアに転化してみせる。郊外に住む内気な交通監視員コリンを演じるハリー・メリングと、ゲイバイカー集団の一員レイを演じるアレクサンダー・スカルスガルドの絶妙な掛け合いが中心だ。支配と服従の間で揺らぐ微妙な力関係が、コリンの従順な返答ににじむニュアンスとともに、関係性の温かさと奥行きを際立たせている。
11.ウンミ・モサク『罪人たち』

マイケル・B・ジョーダン演じる双子が牽引する物語だが、作品に深い情感を与えるのは脇を固める俳優陣だ。中でもウンミ・モサクは、双子の一人と過去に深い関係を持つヒーラーとして、喜びと深い悲しみを同時に抱える複雑さを鮮やかに体現。モサクの才能は本作でも健在で、温かさや官能性、そして超自然的な脅威に立ち向かう強さが物語の中心に力強い火を灯している。
12.ヴァグネル・モウラ『The Secret Agent(英題)』

クレベール・メンドンサ・フィリオ監督によって当て書きされた役で、ヴァグネル・モウラはブラジル映画へ凱旋。腐敗官僚との対立を機に故郷へ戻る技術者を、ひそやかな男らしさと重い哀しみで彩る。活動家でも英雄でもない、市井の男が政治の闇に絡め取られていく姿は深く心に残る。
13.ディラン・オブライエン『Twinless(原題)』

ジェームズ・スウィーニー監督による感動作『Twinless(原題)』で、ディラン・オブライエンは双子の片割れを失った孤独なローマンに扮し、圧巻の演技を見せる。さらに、その亡き兄ロッキーまで演じ分けることで、まるで魔法のような説得力を生み出す。洗練され自信に満ちたロッキーと、不器用で内向的なローマンという対照的な人物像を同じ俳優が自然に体現し、その幅広い演技力が際立っている。
14.ジョシュ・オコナー『マスターマインド』

ジョシュ・オコナーは、1970年代マサチューセッツで美術品強盗を企む大工を肩の力が抜けた滑稽さと、滲み出る悲哀で表現。「あまり考えてなかったんだ」と嘆く一言に、彼の人生が凝縮されている。ケリー・ライカート作品の世界観に自然に溶け込む、しみじみとした名演だ。
15.キキ・パーマー&16.SZA(シザ)『One of Them Days(原題)』

21世紀の傑作バディ・コメディ『One of Them Days(原題)』は、キキ・パーマーとSZA(シザ)の抜群のコンビネーションが最大の魅力。正反対のキャリア志向を持つ親友同士を演じる2人は、奇妙なカクテルで語り合う場面から、ドタバタ逃走劇、避けて通れない仲違いの場面まで、どこを切っても化学反応が炸裂。歌手・SZAの映画デビューも鮮烈で、全編がエネルギーと楽しさに満ちている。
17.ジェシー・プレモンス&18.エマ・ストーン『ブゴニア』

ヨルゴス・ランティモスの最新作『ブゴニア』は世界の終末を示唆しつつ、エマ・ストーンとジェシー・プレモンスという名優同士の鮮烈な対決を中心に据える。ストーンは企業家としての残酷さを滑らかな外面に隠し、鋭利な冷酷さを放つ。一方プレモンスは、陰謀論にすがるほど絶望に歪んだ男の深淵をこれまで以上に不気味かつ痛烈に表現。そのぶつかり合いは重力がねじれるような衝撃と破壊力を帯び、観客に否応なく迫ってくる。
19.レナーテ・レインスヴェ&20.ステラン・スカルスガルド『センチメンタル・バリュー』

家族、芸術、記憶をめぐるヨアキム・トリアー監督による静謐な作品『センチメンタル・バリュー』で、レナーテ・レインスヴェとステラン・スカルスガルドは情緒の揺らぎを見事に導く。レインスヴェは舞台恐怖に悩む女優に奔放さとユーモアを与え、スカルスガルドは落ちぶれた映画監督の虚勢と弱さを体現する。互いに距離を測るような視線の応酬が、可笑しみと哀感に満ちている。
21.トニ・セルヴィッロ『La Grazia(原題)』

パオロ・ソレンティーノ監督作品の“お守り”のような存在であるイタリアの名優トニ・セルヴィッロが、現代では稀有な“誠実な政治家”を演じる。地味だと自嘲する大統領は、実は深い情と慈悲、そして揺らぐ疑念を抱えた人物だ。その抑制された巨大な存在感は、静かにして圧倒的である。
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22.テヤナ・テイラー『ワン・バトル・アフター・アナザー』

アーサー・キットを想起させる鋭い美貌と、危うさを孕んだ魅力。ポール・トーマス・アンダーソン監督は、革命と抵抗の物語でテヤナ・テイラーの存在感を最大限に引き出した。出番は序盤40分だが、放たれた熱量は最後の語りまで燃え続ける。
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23.エレーヌ・ヴァンサン『秋が来るとき』

一見穏やかなフランソワ・オゾンの最新作で、エレーヌ・ヴァンサンは“かわいらしい祖母”の裏に激動の人生を忍ばせる。さりげない言葉づかいや、こっそりとした視線の動きだけで、後悔・喜び・謎が入り混じる人間像を演じ切る。小柄で無防備に見えても、内には鋭さと逞しさを秘めた人物だ。
24.ベン・ウィショー&25.レベッカ・ホール『Peter Hujar’s Day(原題)』

『パッセージ』で寡黙な夫を演じたベン・ウィショーは、本作でこれまでの作品の中でも屈指の奥行きを持つ演技を披露。作家リンダ(演:レベッカ・ホール)の温かな包容力に身を委ね、評価されぬまま生きた写真家ピーター・ヒュージャーが、前日に起きた些細な出来事を語る姿を繊細に体現。言葉の一つひとつから1970年代ニューヨーク、イースト・ヴィレッジに生きたクィアな芸術家の内面と時代の空気が静かに浮かび上がる。

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