【第98回アカデミー賞分析】1970年代黄金期の再来か――『ウィキッド』『アバター』主要ノミネートなし、ワーナー買収に見る映画業界の現状
1970年代ハリウッドの異端児、ロバート・エヴァンスはパラマウントのエグゼクティブからプロデューサーへと転身し、直感的で型破りなスタイルによって数々の傑作を生み出した。
エヴァンスは2019年にこの世を去ったが、近年の映画界では彼がよく話題に上っている。今年の第98回アカデミー賞候補作の中にも、至るところにエヴァンスの要素が感じられるのだ。
シリーズ大作はノミネートされず――「正統派」を避けるアカデミー賞の傾向
『罪人たち』や『ワン・バトル・アフター・アナザー』、『ハムネット』、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』、『ブゴニア』といった作品賞候補作は、いずれも大手スタジオが配給している。しかし、どの作品も続編制作やシリーズ化を想定しておらず、「現代ハリウッドの正統派」から外れているのだ。
アカデミー賞の投票権を持つ映画芸術科学アカデミー(AMPAS)会員たちも、近年はこうした「正統派」を避ける傾向にある。
『ウィキッド 永遠の約束』は、かつてアカデミー賞を総なめにした『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(2001~2003年)のように同賞を席捲すると見られていたが、実際にはどの部門でもノミネートされなかった。また、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』はシリーズで初めて、そしてジェームズ・キャメロン監督作品としても31年ぶりに同賞の主要部門ノミネートを逃した映画となった。
今年のアカデミー賞は、大胆なビジョンを持つ硬派な映画と、そうしたスタイルに囚われない監督たちを評価している。かつてフランシス・フォード・コッポラやマーティン・スコセッシ、ロマン・ポランスキー、ウィリアム・フリードキン、シドニー・ルメットといった先人たちがこうした立場にあった。
そして今年は、『罪人たち』のライアン・クーグラー、『ワン・バトル・アフター・アナザー』のポール・トーマス・アンダーソン、『ハムネット』のクロエ・ジャオ、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のジョシュ・サフディ、『ブゴニア』のヨルゴス・ランティモスといった監督たちが躍進している。
70年代と現在の共通点――業界の混乱が才能を解き放つ
1970年代と現在の映画監督たちの類似は、決して偶然ではない。1970年代の傑作映画の数々は、当時のスタジオシステムの機能不全と終焉から生まれたという経緯がある。こうした状況が、「世に何かを訴えたい」と考えるクリエイターが映画を作るきっかけとなり、予算獲得にもつながった。
そして最近「機能不全と終焉」を迎えたものとして、経済とテクノロジーが挙げられる。Netflixとパラマウント・スカイダンスはワーナー・ブラザースの買収をめぐって敵対しており、業界は混乱に陥っている。
そんな中、ワーナー・ブラザース代表のマイケル・デ・ルカとパム・アブディは、『罪人たち』と『ワン・バトル・アフター・アナザー』という、1970年代に匹敵する2本の傑作を世に放ったのだ。
『罪人たち』の全米公開時、デ・ルカは「独創的な試みがうまくいってうれしいです。他のスタジオがもっと独創的な挑戦をするきっかけになればと思います」と米『ハリウッド・リポーター』に語った。彼らはまさに1970年代のエヴァンスのように、思い切った方向へ舵を切ったのだ。
ワーナー・ブラザースはさらなる展開も用意しており、3月6日(金)には『ザ・ブライド!』が全米公開される(日本公開は4月3日)。『フランケンシュタインの花嫁』(1935年)をマギー・ギレンホールが大胆にリメイクした本作は、8,000万ドル(約123.8億円)超の製作費を投じ、一切の妥協もない華やかな映画に仕上がっている。

『罪人たち』は今年のアカデミー賞で史上最多の16部門、『ワン・バトル・アフター・アナザー』は13部門でノミネートを果たした。このように、1つの大手スタジオが同年のアカデミー賞で最有力候補作を2作送り出したのは、1975年のパラマウント以来だろう。
この年の第47回アカデミー賞では、パラマウントから『ゴッドファーザー PART II』(1974年)と『チャイナタウン』(1974年)が作品賞を含む多くの部門でノミネートされた。この2作はどちらもエヴァンスのプロデュースによるものだ(『ゴッドファーザー PART II』ではクレジットされていない)。
映画の黄金期は続く?ワーナー・ブラザースが鍵を握る
今年のアカデミー賞は、新作映画の多様性を示している。クライム映画のようにごく一部のジャンルだけが盛り上がっていた1970年代と異なり、近年は幅広いジャンルの作品が正当に評価されている。ヴァンパイア映画、スポーツ映画、SF映画といったエンタメ性の強い作品も、手堅い評価を受けることが増えた。
一方で、こうした状況が今後も続くとは限らない。Netflixとパラマウントのどちらに買収されるにせよ、ワーナー・ブラザースはこれまでのスタジオの特色を失う可能性が高いだろう。今年のような盛況は、映画業界にとって最後になるかもしれない。
それでも、ワーナー・ブラザースは何事もなかったかのように、今後控えている作品のキャンペーンに取り組むだろう。そして観客や批評家ができることは、ただ映画とアカデミー賞という祭典を楽しむことだけだ。
※為替レートは2026年2月1日時点の数値で換算しています。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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