ユアン・マクレガーが実の娘と新作で共演 “実話”に基づく親子愛を描いたドラマ『You Sing Loud, I Sing Louder(原題)』レビュー
ユアン・マクレガーが実の娘クララ・マクレガーと共演した『You Sing Loud, I Sing Louder(原題)』は、現実とフィクションの境界線を曖昧にするロードムービーだ。今作は実際の父娘関係に基づいており、彼らの演技にスクリーンに釘付けになった。
ユアン演じる庭師の男が、娘(クララ・マクレガー)に目的地を告げることなくニューメキシコ州をトラックで巡る旅に連れ出す、という物語。ニューメキシコの広大な景色に、父娘の心の距離が映し出される。物語が展開するにつれて徐々に背景が明かになる仕組みで、2人の行動、会話や沈黙が非常に自然な空気を作り上げている。
やがて、娘がコンビニで酒の小瓶をポケットに忍ばせるシーンである事実が判明する。そして、どうやら父は娘のためにリハビリ施設を探しているようだ。後に、娘は薬物問題を抱えており、かつて幼き娘を残して家族と別離したことで疎遠だった父親が彼女を助けようとしていることが分かる。
これまでも、ユアンとクララは実際の複雑な父娘関係にまつわる依存症や不仲といった問題についてオープンにしてきた。クララは今作の脚本家の1人で、ユアンはロードトリップはフィクションとしながらも「これはまさに私たちの物語だ」と語っている。父が女優のメアリー・エリザベス・ウィンステッドと再婚した時のクララの複雑な思いも、作中に表現されている。父娘が抱える感情的な傷が、生々しくも偽りなく描かれた作品だ。
監督を務めたのは今作で長編デビューを果たしたエマ・ウェスタンバーグ。これまで数々のミュージックビデオを製作してきた。映像には随所に優雅なセンスが散りばめられている。娘の散発的なフラッシュバックや、父娘が旅路で出会う一風変わったキャラクターも物語を生き生きとさせる。撮影はクリストファー・リプリーで、道中の登場人物たちに付きまとう空虚感を見事に捉えている。劇中に多く含まれている地平線のショットも素晴らしい。
俳優陣の演技にとにかく引き込まれてしまう。ユアン・マクレガーは、幅広い役をこなす最も多才な俳優の1人だ。一方で娘のクララは、モデル・俳優として活躍し『アメリカン・ホラー・ストーリー』に出演経験がある。印象的な顔で、非常に自然な演技を見せている。この役をしっかりと物にしていた。
「You Sing Loud~」は、元気がもらえる作品だ。軽快なシーンもあれば、感情がぶつかり合うシーンもある。お互いの感情を解き放つ場面だけに、表現に物足りなさを感じたものの作中で最もダイナミックな部分になっていた。
※オリジナル記事はこちら。翻訳/和田 萌