「Heart On Heart」Vol.1 尚玄×MEGUMI  前編 〜映画における日本と世界の壁〜

俳優、監督、音楽家…あらゆるジャンルの「表現者」が本音で語り合う連載「Heart on Heart」(腹を割って語り合うの意)、第1回は、映画「赦し」で共演した尚玄とMEGUMI。

日本と海外の映画産業を見てきた彼らが「日本と海外」の違いなどあらゆることを話題にする。

ふたりが語る「ワールド・アクティング」、映画における日本と世界の壁とは?

【共演作『赦し』について】

MEGUMI:よろしくお願いします。

尚玄:よろしくお願いします。

MEGUMI:私はオーディションを受けたら、そこに尚玄さんがいたという感じでしたが、こんなに深く役作りをする人が日本にいたのかと感激しました。尚玄さんと私も舞台挨拶でよく話しますが、今まで演じた役の中で一番きつかったですよね。

尚玄:まずテーマがね。色々なものを喪失した人間が多く登場するじゃないですか。今までに子供を亡くした親なんて演じたことはありません。嫁を亡くした役はありましたが、ここまで辛い役はなかった。

MEGUMI:そうですね。「自分の子供が殺される」という想像ができないから、その分イメージを積み上げないと「それ風な演技」になってしまう、という共通認識がありました。

尚玄:自分は子供がいないので、僕たちの娘役を演じた(成海)花音ちゃんのことを考えながら想像を膨らませました。自分の子どもが同じような目に遭ったら、と重ね合わせたら罪悪感がわいてきたんですよね。

MEGUMI:そうですね。私はお風呂のなかで「自分の娘が殺された」という画が鮮明に浮かんだんです。それで「ごめん」と、ひとりで泣いちゃって。こんなことを考えるのは申し訳なさすぎるのですが、自分の子供に当てはめるほどに考えなければ、自分の中へリアルに落ちた演技は生まれない。今回はそのせめぎ合いが結構あったと思います。

あとは初めて会った時のふたりが幸せだった時代をエチュード的に演じてみたりして。尚玄さんはアル中の設定だったから、日常生活でも胸ポケットにお酒を入れていれましたよね。

尚玄:お酒は普通に好きなんだけど、家で飲んだりするほどではなく、友人と飲むのが好きなくらい。でもあの時はほぼ毎日くらい口にしてた。

MEGUMI:食べ物も普段は気をつけているのに、ずっと食べてましたし。

尚玄:食べてました。でも結果的に「お互い苦しい経験、同じ傷を共有している元夫婦という雰囲気が出てた」と周りに言ってもらえてよかった。この作品で僕らは初めて会いましたが、もう濃すぎたよね。

MEGUMI:濃かった。撮影チームもアンシュル監督とカメラマンの方、録音部の方は日本人だったけど、あとは全員外国人。5人か6人くらい。

尚玄:本当に少なかった。

MEGUMI:監督の意向でマネージャーやスタイリストさん、ヘアメイクさんも現場に入るなという感じで。その6人ほどで重たいテーマに向き合う日々は、まるで息を止めているようでした。めちゃくちゃ苦しくて逃げ場がなかったです。尚玄さんに支えていただいて助かりました。

尚玄:監督がインタビューで「ひとつの殺人事件だけど、牢獄に囚われているのは3人だ」みたいに話していたのは本当に的を射ているなと思った。フィジカル的に牢獄の中に入っているのは加害者ひとりだけど、被害者の僕らも呪縛に捕らわれていると。ただ克はわかりやすく自暴自棄な生活をしているけど、前に進んでいるようで綻びが多い澄子は難しくなかった?

MEGUMI:そもそも自分が何をするにも腹をくくりたい性格なんです。悲しいし悔しいけど、これを肥やしに頑張ろうみたいなタイプだから。ああいうグレーな時間と共にいるのが一番苦手。でも人ってあんな強烈な出来事があるとなかなか進めないし、今までの自分の本質が変わっちゃうとも思うんですよ。痛みを共有して前の旦那さんと上手くいかず、今の旦那さんに対しても当たったり、すごいラブラブになっちゃったりとか、そういう弱さは誰しもが持っているじゃないですか。

尚玄:あると思う。

MEGUMI:今回の役をやってみて、自分にもこういう部分があるなと。台本だけだと「これはあり得ないでしょ」と考えがちですが「やっぱり人はそうだな」と思いました。その分、克は何かその場にずっと居ようとするっていうかね。行きたいんだけど行けないっていう感じが、あれはあれで苦しかったんじゃないですか。

尚玄:MEGUMIちゃんは「釜山国際映画祭」でレッドカーペットだけ参加されて、初日のプレミアには来れなかったけど、僕は初日のプレミアの時に初めて作品をしっかり(削除)観たんですよ。そこでフラッシュバックするほど食らって、傷が開いちゃった。もうみんなの前でしゃべれなくって、その後のQ&Aも結構キツかったね。

MEGUMI:前日も体調悪そうだったしね。お湯とか飲んでて。

尚玄:それはあれだ、直前に東ティモールに行ってたから。お腹がやられちゃってて。

MEGUMI:そうだ。すごい弱ってたよ(笑)。その状態で観たからっていうのもあったでしょうね。

尚玄:あとは初見だったし、やっぱりもう。

MEGUMI:客観的になれないですよね。

尚玄:毎回毎回そうだけど、作品を観るとまずは自分のダメ出しをしてしまうんです。

MEGUMI:いやいや、素晴らしかったですよ。「ここまでやるんだな」と私も反省しました。

尚玄:MEGUMIちゃんも、ちゃんとしてたじゃないですか。

MEGUMI:この深掘りを尚玄さんが毎回してたと思うと、ここまでやる人が日本を誇る役者さんの立ち位置にいくんだろうなと。

尚玄:それを毎回やるのは難しいんですよ。本当はワンシーンだけの役も同じように役作りをしなきゃいけないし、短編でも長編でも本当は変わらないんだよね。なかなかそこまでやれないんですけど。

MEGUMI:それをやると、役が自分に染み渡った感じが圧倒的に出ますよね。絶対に出ます。だから今回ご一緒することで、それを知れてよかったです。

尚玄:こちらこそ。今後ともどうぞよろしくお願いします。

@Busan International Film Festival

【今後の挑戦について】

MEGUMI:ここ数年で「こんなにプロデュース業って楽しい事なんだ」と強く感じて、人生にとって大きなものになってます。ある程度、自分の世界観で生きてきて、それを超えた「うわ!」と興奮できるものに出会えたことに衝撃でした。生涯やりたいと思いますし、日本の作品を海外にきちんと届けていきたい。

それが映画祭という形なのか、配信という形なのか、媒体はその時によって違うかもしれません。ただ韓国の作品がここまで世界に広まっているし、日本だってできるはず。映画祭に行ってそれを知ったのは強烈な体験でした。でも海外に届けようと本気で思っている人が少ないと思ってます。自分も英語はまだまだだけど(笑)、「とりあえず世界に行く」という気概だけはある。海外に届けたいなって思ってます。

尚玄:なるほど。カンヌも釜山も行って見てきましたしね。

MEGUMI:やっぱり行くと「世界から見て日本ってこうなのか」とわかったりするかな。尚玄さんは?

尚玄:僕も今いくつか自分がやりたい企画があるので、それに種を蒔くように、少しずつ芽が出るように大切に見守ってあげたいですね。あとは自分自身の芝居、自分がこういう芝居をしたいっていうことを大切に。例えば『義足のボクサー』も『赦し』もそうですが、ずっと俳優を続けてきて「こういう風に表現したい」ということが漠然とあって、それに向かって少しずつ修正できているなとも思ってます。

僕のニューヨークの先生でスーザン・バトソンって方がいて、スーザンは「俳優になるには20年かかる」って言ってて。ようやく僕も20年なんですよ。やっと俳優のスタート地点に立てたと思ってます。だからプロデュース活動もしていきたいですが、もっと俳優としても今後はやっていきたい。

【映画祭で感じた日本と海外の映画産業の違い】

尚玄:映画祭でも特に「釜山国際映画祭」はアジア部門もありますよね。そのなかで韓国は周知の事実として、インドネシアやフィリピン、マレーシアなど色々な国がレベルの高い作品を作っているなと。今も3大映画祭とかに毎年入っているじゃないですか。

あと僕がいいなと思ったのは2カ国の合作じゃなくて、3、4カ国で共同制作なところ。『赦し』みたいにスタッフが監督やキャメラ、照明で国が違うだけでなく、資本も色々な国の助成金などで集めて作っている。その全員でその映画祭で受賞するっていう形を取っているんですよ。

MEGUMI:なるほど、そうなんですね。

尚玄:あるラボを釜山で見学させてもらった時もみんなでプロジェクトを考えて、ブラッシュアップしていて。さらに新たな投資家の人が入ったりするけど、日本はそこに入っていなかった。ASEANの国が多かったです。今後、日本が世界でやっていくためには英語力が必要。それから既に日本だけのマーケットが確立しているから、リスクを取りづらいのも当然だと思うんですよ。でも今後は世界で観てもらえる作品が増えていくと、自分も参加できるチャンスがあるかなと感じます。

MEGUMI:私はこの間カンヌに初めて行っただけですが、日本のエンターテインメントの現状が結構ヤバいと思いました。レッドカーペットの後ろにあった幕張メッセみたいな場所で世界中の映画が売っているんです。有名人がいたり、国を挙げて作ったブースがあるなかで、日本だけ「学園祭の楽屋じゃん!」みたいな。もうヤバかったです。

人は誰もいないし、もちろんお客さんも誰も(削除)いない。でも、それが日本の大きな映画会社だったりするんですね。ポスターなんて少し曲がっていて、ガッカリしましたね。それも知らず、チームは睡眠を削って作っている訳じゃないですか。頑張って作った作品なのに海外で売ろうとする気持ちがない。もしあれば、もう少しお金をかけてプロモーションするはずなので。

あと海沿いにあるブースには、各国のパビリオンがありました。カンヌに居る時は「誰かに話しかけられるかも?」と思い、毎日ドレスを着て歩いてたんですよ。そうしたら「あなたはアジア人? あ、日本人! 明日トムヤムクンパーティやるから来て」とか、インドなら「カレーパーティやるから来て」、アメリカなら「バーベキュー&シャンパンパーティがあるから来て」と誘われましたね。

日々カジュアルパーティをしてるんです。なぜやってるかというと「おたくの国の映画を私たちが買いましょうか?」という話に繋がるからなんですね。その逆もあるし、それこそ「合作しましょう」となるかもしれません。でもその前に「一回飲もうよ」という話で。でも日本はやってなかった。売る気がないんですよ。この国で成立してるから。

尚玄:釜山も日本のパーティはなかったですね。

MEGUMI:そこがパーティ担当としてはですね……冗談ですけど(笑)。お芝居のアプローチも『赦し』をやって思ったのは「もっと抑えて。体の中ではもう燃えていても、人間のアウトプットはそうじゃない」と。「話している時に『私は!〇〇で!〇〇で!』とは実際やらないでしょ」とめちゃくちゃ怒られて、確かにと。これはもうワールドアクティングで、世界的に良しとされるアプローチはそうでしょって。こういう話を尚玄さんに散々しましたけれども。日本人はそんな教育を受けてないじゃないですか。

尚玄:本当に芝居するって「芝居をしないこと」でもあって。でも今回、映画を観てくださった人の中でも、いわゆるオーバーアクティングな芝居を見慣れている人も多いと思うんです。

MEGUMI:そうなんですよ。

尚玄:例えばセリフに抑揚を効かせ過ぎると朗読のようになってしまうから、あえて台詞をうまく言ってないこともあるじゃないですか。それを下手だと思われることに最初は抵抗もあったけど、それが僕の突き詰めたい芝居だから。それはいいんだと。抑揚を効かせて噛まずに滑舌よく話すことが人々の心を打つ演技だとは思わない。

MEGUMI:おっしゃる通りですね。

尚玄:それよりも言葉が不明瞭でも伝わることですよ。やっぱりドキュメンタリーを観ていて、被害者の人たちの言葉は言えてなくても伝わる。ただ僕らの俳優の仕事って言葉は大事だけど、言葉だけじゃないと思うから、それをもっと突き詰めていけたらいいなと考えています。

MEGUMI:「不明瞭でもいい」というところまで持っていくにも、その奥にある準備と自分の腹の中にいかに落ちているかが大事。日本国内でいいと思われてるお芝居と世界がいいと思う芝居がこんなに勘違いというか、違うというのは課題だと思いました。ただ、やることが見えていれば、とりあえず我々40代は一番元気だし。仲間も力がある人が増えてきたから、もうやるしかないんだろうなって感じですね。

尚玄:やりましょう。

MEGUMI:やりましょう。頑張ります。

尚玄:これを見て参加したいという仲間が増えてくれたら嬉しいですね。

尚玄:プロフィール
1978年生まれ、沖縄県出身。大学卒業後、バックパックで世界中を旅しながらヨーロッパでモデルとして活動。2005年戦後の沖縄を描いた映画『ハブと拳骨』でデビュー。2008年ニューヨークで出逢ったリアリズム演技に感銘を受け、本格的に芝居を学ぶことを決意し渡米。現在は日本を拠点に邦画だけでなく海外の作品にも多数出演している。2021年主演・プロデュースを務めた映画『義足のボクサー』が釜山国際映画祭にてキム・ジソク賞を受賞。2022年同映画祭でAsia Star Awardを受賞。

衣装:全て BOSS

問い合わせ先
ヒューゴ ボス ジャパン株式会社
03-5774-7670

Stylist:YK.jr

MEGUMI:プロフィール
1981年生まれ、岡山県出身。俳優として第62回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。近年は映像の企画、プロデュースを行なっている。 プロデューサーとしての作品にドラマ『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』(22年・テレビ東京)、映画『零落』(23年・竹中直人監督)、ショートムービー『LAYES』(22年・内山拓也監督)などがある。

『赦し』
東京・ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国で公開中

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(取材:The Hollywood Reporter Japan/撮影:三塚比呂、丹澤由棋/構成:小池直也)

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