「ハリウッド俳優・脚本家同時スト」の副作用: スタジオが貯める現金

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継続中の俳優・脚本家ストライキが矛盾を生じさせることは、今後数か月の間に会社の四半期収益報告でますます明らかになるだろう。膠着状態がエンタメ経済にダメージを与えるなか、俳優組合(SAG-AFTRA)と脚本家組合(WGA)が対抗する会社の利益上昇が見込まれている。

というのも、会社側は数多くの映画・テレビ制作が中止されたことで、本来なら出資するはずのお金を貯め込んでいるのだ。アナリスト企業・MoffettNathansonによると、2022年にメディア業界は約1,350億円をコンテンツに出資したとされ、今後は手付かずの大金が沢山出てくるだろう。

5月3日付の報告書で、MoffettNathansonのルーク・ランディス氏は以下のように述べた。「短期間で、すべてのメディア会社が貯蓄とタレント契約の適正化で利益を得ることになる」「より長期的には、 ストが“Peak TV”とそのアンチテーゼの間で揺れる振り子を静止させるかもしれない。つまり供給過剰というよりかは、むしろ英語コンテンツの不足によって定義される時代となる」

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実際に、ストの影響が企業のバランスシートに表れている。Netflixが19日に報告した四半期収益によると、フリーキャッシュフローは予想の35億ドルを上回り、50億ドル以上まで跳ね上がった。

モルガン・スタンレーのベン・スウィンバーン氏は19日、以下のように記述した。「ストが長引いた場合、さらに“2023年のフリーキャッシュフロー(23 FCF)”に上昇傾向がみられるだろう」「ドラマ・映画制作に携わるNetflixにとっては、必ずしも良いニュースではない。きっと2024年の計画に影響するはずだ」

ストの長期的な影響は来年になるまで分からないが、目先の利益はディズニーやワーナー・ブラザース・ディスカバリーといった会社の収益性を押し上げるかもしれない。

ストが長引くと、エンタメ系巨大企業は甚大なダメージを受ける。ムーディーズのニール・ベグリー氏は17日、以下のように報告した。「スタジオが制作するコンテンツに依存し、それに代わるコンテンツや財政上のゆとりが十分でない多くのメディア会社にとって、長期的なストは一定の条件下で悲惨な結果となるだろう」

Netflixの収益報告で、テッド・サランドス共同CEOは労働組合の家庭で育ち、組合との公平な取引を望んでいると明かした。Netflixの目標は、“必見のドラマ・映画を安定して制作すること”だ。その流れが止まってしまえば、コンテンツの安定供給に依存するNetflixやその他の企業にもしわ寄せがいくだろう。

そして、番組の不足で秋のスケジュールに影響が出ることで、放送局のオーナーは経済的打撃をより身近に感じるはずだ。同様に、すでに重荷を背負う広告市場にも波及していくとみられる。 

例えばNBCUは、17日の週に“昨年通り”のキャッシュ・コミットメントで前払い契約を結んだとしている。一方で、『サタデー・ナイト・ライブ』の50周年記念など全スケジュールに影響が出ており、ストの打撃は利益をはるかに上回る模様だ。JPモルガンのフィル・キュージック氏は「1960年以来の同時ストに加え放送シーズンが迫り来るなか、広告の減少が今年の収益性を損なうでしょう」と述べた。

つまり、放送局を所有する会社にとって、これらの短期的な利益は実際にごく短い期間のものなのかもしれない。

2020年のコロナ禍の状況と同じく、会社の多くはプラスの現金を携えることになる。では、そのお金をどうするだろうか?最も単純な答えは2020年当時と変わらず、“貯め込む”だ。

パンデミックの最初の頃、どのような影響を受けるか不確かだった会社は必死になって貯蓄を強化しようとした。懸念は同じでないにしろ、現在と重要な共通点が存在する。ストに終止符が打たれた途端、プロダクションが迅速に再開される見込みなのだ。

長期的な貯金のため、いくつかのプロジェクトから身を引く可能性もあるが、コンテンツの再開となると会社は完全停止から全力疾走に切り替えるだろう。

「Q3、さらにQ4で再びコンテンツへの出資を増やしたい」とNetflixのスペンサー・ニューマンCFOは収支報告で語った。その動きはゆっくりになるとしながら「ビッグチャンスに投じられる資金が手元にあるが、責任を持って実行したい」と明らかにした。

ストが続くと、会社はリアリティー番組や国際的なプロダクションにお金を回すようになるかもしれない。

しかし、選択肢は他にも存在する。大きな選択の1つは、配当や自社株買いを通じた株主還元だ。すでにディズニーは2023年度末までの復配を望んでおり、最近Netflixは2023年後半に自社株買いを進める考えを伝えた。

当然ながら、M&Aにまつわる問題もある。高金利などの傍らで、現在もなお取引決定への意欲がみられるのだ。ボブ・アイガー氏がABCはディズニーの“中心とは言えない”と表明したのち、同社のリニアテレビ事業売却が取り沙汰された。今年後半にスタジオとStarzを分割する予定のライオンズゲートは、買収の準備を整えているだろう。

保有現金が増えるなか、しばしばNetflixは資産の買い手として挙げられる。困窮中のエンタメ系企業の買収について問われると、サランドス氏は「多くのIPへのアクセスを得られるなら、非常に興味深い」と述べた。

将来的には、コンテンツへの出資が全体的に減少するかもしれない。

ハリウッドの大手にとって、不透明さと臨時収入のバランスを保つのは難しい。Netflix以外の企業は利益を上げたくても、持続可能でなければならない。つまり、長期的な打撃に傾いた短期的な利益は上手くいかないのだ。そのパズルを構成する俳優・脚本家は以前より多くのものを手にするだろう。一方で、コンテンツ支出が低下すれば、ストがコンテンツのピークを終わらせる可能性が大いにある。

※初出は、米ハリウッド・リポーター(7月26日号)。今記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら

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