ヴェネチア審査員大賞の濱口竜介監督凱旋、黒澤明監督の比較には「全然スケールが違う」

第80回ヴェネチア国際映画祭で、金獅子賞(最高賞)に次ぐ銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した「悪は存在しない」の濱口竜介監督と主演の大美賀均が12日、都内で報告会見を開いた。

冒頭で音楽を担当した共同企画者でもある石橋英子のメッセージが披露された。「監督、スタッフ、キャストの皆さん、ロケ地で協力してくださった皆さん、そのプロセスが全てかけがえのない宝物でした。賞を頂き、今となっては地道に仕事をしろと言われているようで、音楽家としても一歩踏み出す力をくれました」。代読した濱口監督は「私も全く同じ気持ち。ただ、このメッセージで十分に感謝されていない人がいる。石橋さんご自身です。石橋さんが導き手となってくれて、体験したことのない映画作りができた」と謝意を示した。

「偶然と想像」が21年のベルリン国際映画祭で審査員グランプリ、「ドライブ・マイ・カー」で同年のカンヌ映画祭で脚本賞を獲得。三大映画祭のコンペティション部門で全て主要賞に輝いたことになり、「何もないところから始め、地道にやってきた仕事を見つけ評価をしてくれたヴェネチア映画祭、審査員にお礼を言いたい」と改めて喜びをかみしめた。

「ドライブ・マイ・カー」でのアカデミー賞国際長編映画賞を加えた“4冠”は、日本人では黒澤明監督に次ぐ快挙だが、「偉大な名監督を引き合いに出される状況は申し訳ないという気持ちが正直なところ」と謙そん。黒澤監督は50年「羅生門」がヴェネチアの金獅子賞、80年「影武者」がカンヌのパルムドールだったこともあり、「2つが最高賞なので、全然スケールが違う。比べものにならないとまでは申し上げませんが、私と比べることで黒澤監督の仕事のスケールの大きさがあらわになる」と、「世界のクロサワ」を称えた。

黒澤監督が30年かかった偉業を、わずか3年足らずで成し遂げたという指摘にも、「30年にわたり、長く質の高い仕事を続けられたということ。自分はこれからどうなるだろうと、震えているところもある」と苦笑。その上で、「長く映画を作り続けたいとは思っている」と控えめに意欲を語った。

自身の海外進出については、「海外とのコラボレーションにはずっと興味がある。それには、信頼し合える人に出会うことが大きな要素。そんなに簡単なことではないが、この人についていけば大丈夫という感覚になる人と出会い、その人が海外の人だったら」と期待。既に新作の準備に取り掛かっており、「世界のハマグチ」は着実に前へと進んでいる。

「悪は存在しない」は、自然が豊かな郊外の町にグランピング施設の建設計画が持ち上がったことで、地元の人々に波紋が広がっていく物語。日本では24年公開予定。

取材/記事:The Hollywood Reporter 特派員 鈴⽊ 元

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