4人のハリウッド業界人が“ポスト・ストライキ”時代を予想: 今後、何が待ち受けているのか?
俳優組合とスタジオは当面の交渉を打ち切り、ハリウッドの“ストライキの夏”は少なくとも秋の終盤まで延長されることになった。ストが終わっても、プロダクションの縮小、ピークTVの終焉、そしてAI論争といった問題は、今後も業界に付きまとうだろう。
そこで米ハリウッド・リポーターは、ショーランナーのノア・ホーリー、監督のジーナ・プリンス=バイスウッド、Teamstersのリンジー・ドウアティ、プロデューサーのミキー・リーら4人の精鋭に今後を予想してもらった。必ずしも楽天的な評価ではないが、困難な時代の中でも各々が業界を前進させる道筋を見出している。
ノア・ホーリー: TV業界に来たる“明快さ”の時代について
ハリウッドは過去5年間、複雑さによって定義されてきた。“プレステージTV”(=上質な番組)や迷路のような配給システムも、それを物語っている。これからの5年間は、明快さが重視されると思う。近未来の視聴者は時事的で、道徳的に曖昧なエンタメを敬遠するだろう。同時に市場は統合され、500の番組が300に、10社のストリーマーは5社になる。観るべき番組や映画が減ることで、スターは注目度を集める上でより意味を持つようになり、セレブは独自の明快さを提供するようになる。
新たなフェーズで視聴者が引き寄せられるのは、理解を超えた想像の世界ではなく、筋の通ったストーリーだろう。紋切り型に逃げるというわけではないが、ストーリーテラーにはより小さな箱の中でのイノベーションが求められるはずだ。明快さ重視には今までの成長を維持してもらいたいが、全体的に実験的な試みや創作上のリスクは求められなくなると考えている。とはいえ、映画製作者たちはこの挑戦に立ち向かうことになる。ハリウッドのどの時代にも珠玉の作品があるし、私は未来の名作を観る(願わくば作る)のが楽しみだ。
ノア・ホーリー
FX『FARGO/ファーゴ』クリエイター。待機作に『Alien』。
ジーナ・プリンス=バイスウッド: 新たな土俵について
脚本家組合(WGA)ストでは多くの収穫があったが、最も重要なのは業界に脚本家の力を認識させたことだ。何事も脚本から始まるのに、それは長い間尊重されてこなかった。ストはさらに、団結を促す環境を作り出した。クリエイター、ショーランナーなど様々な人々が業界を成長させるために、初めて大々的に団結したのだ。重要な話題の1つは多様性だった。
誰もが、業界が縮小傾向にあるという話を耳にしている。歴史、現在から考えても、土俵が小さくなると有色人種の人々が脇に追いやられてしまうと知っている。それは避けられない結果として戦っていかねばならない。業界には、このシナリオを変えてもらう必要がある。
多様な声は興行収入を減らすという思い込みがあるが、それは全くの間違いだ。3日に発表された「アネンバーグ・インクルージョン・イニシアチブ」の報告書によると、主役の性別や人種・民族と興行成績の間には目に見える関係がない。白人男性が主役の映画と、過小評価グループの女性が主役の映画を比較したところ、白人男性が主役であることに大きなメリットはなかった。多様なストーリー・主演・監督は、白人の主演・監督の映画と同じだけ稼ぐことができる。
しかし現在、業界は映画を映画館で公開するためにイベント化されたモデルに依存している。観客を映画館に向かわせるのに十分な作品、ストーリーとは何か?そのモデルもまた、しばしば似通ったものに思える。業界は何十年もの間、ジャンルや予算的な面で幅広い映画を劇場公開してきた。私たちはそこに立ち返らねばならないーその一方で、1世紀以上にわたって業界を支配してきた偏見を大改革し、多様な映画製作者・キャストによる作品を増やす必要がある。今この時だけでなく、永遠に。
ジーナ・プリンス=バイスウッド
映画監督。『ウーマン・キング 無敵の女戦士たち』、『オールド・ガード』など。
リンジー・ドウアティ: 次の労働争議について
脚本家スト2日目の5月3日、組合のミーティングにハリウッドの全組合幹部が連帯して出席した。歴史的に、ハリウッドの労働組合はこれほど団結してこなかった。これまでも私たちはお互いに話し合ってきたが、それでは不十分だった。2023年、それは変わった。夏にかけての同時ストで、団結すれば強くなれると理解したのだ。Teamstersは他の組合と同様に、来年の交渉に向けて準備を進めている。そして今、誰もが話し合っている。
今度の交渉で、私たちは組合員の生活をより大きく変えようとしている。交渉で重視するのは、組合員の待遇改善のために合理的なストリーミング再使用料の構造を見つけ出すことだ。また、南カリフォルニアやニューヨークのような住宅ローンの高い地域でも、組合員が生きていけるだけの賃金を確保しなければならない。一般的な3%の賃上げでは十分ではない。
何年も働いてきた会社が、5か月ものストを許したことに多くの労働者が不満を抱いていると思う。どの会社も、時給に依存するTeamstersや他の組合が最も打撃を受けていると知っている。つまり、労働者に対する不誠実さこそが、数多の軽蔑に繋がっているのだ。力関係のバランスはもう何十年も崩れていて、ほとんどの場合は雇用主に有利だった。しかし、ストで労働者の力を示すことができる。
組合員は皆注目している。そして組合の指導者としては、要求の透明性を保ち、あらゆる段階で組合員をプロセスに参加させるべきである。闘いには好戦性がなければならない。労働運動は、すべてが闘いだ。私たちは、雇用主に立ち向かう。さもなければ、彼らは契約違反や不当な扱いを続けるはずだ。これまでもそうだったように。
雇用主が公正な取引に応じなかったら、来年はストが増えるのだろうか?それは雇用主次第だ。明らかに、彼らはこの交渉サイクル全体の計算を見誤った。ストは起こるべきじゃなかったし、その必要はなかった。来年は、私たちがハリウッドを動かす番だ。会社側には教訓を学び生産的になってもらいたいし、ビジネスの変遷する性質や労働者が生きていく上で必要とするものにも取り組んでほしい。
リンジー・ドウアティ
Teamsters’ Motion Picture Divisionディレクター、Western Regionヴァイスプレジデント。
ミキー・リー: 東西におけるコンテンツのパイプラインについて
コロナ禍は、紛れもなくエンタメ業界に重大な変革をもたらした。業界人たちは、観客の好みや行動の変化に適応するためにビジネスモデルを再評価している。私たちは“どのようなストーリーが成功するのか?”と自問し続けなければならない。この問いは、挑戦であると同時にチャンスでもある。
ひとつ確かなのは、ハリウッドが展開力を広げるために国際的なコンテンツに関心を移しているということだ。2020年にポン・ジュノ監督が『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞を受賞し、そして『ミナリ』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が続いたことでハードルが下がり、脚光を浴びるアジアのコンテンツやクリエイターが増加。配信プラットフォームは『イカゲーム』から『BEEF/ビーフ』まで、世界中の多様な物語に門戸を開いた。『Past Lives(原題)』のような作品は、世界中の観客が多文化的な物語を受け入れる準備ができていることを証明した。
東西の架け橋となるようなプロジェクトが増えることを期待している。例えば、パク・チャヌク監督はHBO『The Sympathizer(原題)』に取り組んでおり、ポン・ジュノ監督はアメリカでSF新作『Mickey 17(原題)』を手がけ、プロデューサーのリンダ・オブストとJK・ユン監督はK-POPを題材にした映画でコラボする。さらに、アン・リー、クロエ・ジャオ、ミシェル・ヨーらアジアの才能ある人々のおかげで、スクリーン上だけでなく舞台裏でも、多様なクリエイターのレプリゼンテーションが増えている。卓越したオリジナリティと普遍的なテーマを持つコンテンツは、今後も繁栄していくだろう。
ミキー・リー
CJ Group副会長、『パラサイト 半地下の家族』エグゼクティブプロデューサー。
※初出は米誌ハリウッド・リポーター(10月11日号)。今記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら。