『異人たち』、『マエストロ』…クィア映画の新時代が到来か 2人の監督が語る

写真: BOTTOMS: COURTESY OF MGM. RUSTIN, NYAD, MAESTRO: COURTESY OF NETFLIX. PASSAGES: COURTESY OF MUBI. STRANGERS: CHRIS HARRIS/SEARCHLIGHT PICTURES

“ファイトクラブ”を始めるティーンの女の子に、キューバからフロリダまで泳いで横断する中年女性の挑戦…今年、クィアな主人公たちが繰り広げたのは、カムアウトやエイズといった従来のテーマとは一線を画す物語だった。

果たして現在、悩みの原因がセクシュアリティではないクィアな人々についての作品は実際に増えているのだろうか?

クィア映画の現状

『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』COURTESY OF ORION PICTURES INC.

主人公2人がレズビアンのコメディ映画『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』のエマ・セリグマン監督によると、クィアな物語がクィアな語り手から語られることは少ないという。

「賞シーズン、特にアカデミー賞においては、クィアとしての苦しみを主題としない、そして異性愛者ではない作り手によるクィア映画の向上はあまり見られません」

クィア映画とオスカーの関係

『パッセージ』 GUY FERRANDIS/SBS PRODUCTIONS/COURTESY OF SUNDANCE INSTITUTE

さらに、「クィア映画の幅が広くなっているとは思えない」と語るのは、映画『パッセージ』のアイラ・サックス監督。サックスは、インディーズ映画界で多数の作品を生み出したゲイのアメリカ人監督、グレッグ・アラキについて指摘した。

「アラキの映画は、自身のセクシュアリティと直接対話しているような感じ。その手法がアワード団体からは、あからさま過ぎると捉えられてしまうのだろう」

そして「アラキの作品は、アメリカ映画の手法である“変化”に欠けている」と語り、アカデミー団体から注目を集めやすいのは、“変幻自在な演技”だと強調した。

ジャレッド・レト、『ダラス・バイヤーズクラブ』FOCUS FEATURES

セリグマンも同調する。「通常なら、役に化ける素晴らしい俳優たちを誇りに思っています。でも、クィアな人々が悩み苦しんでいないクィアキャラクターを演じるのは、セクシーさに欠けるのかもしれません」

オスカーなどのアワードにおいては、クィアな人物へと劇的な変身を遂げたストレートの俳優が賞を受けることが多い。トランスジェンダーを演じたジャレッド・レト(『ダラス・バイヤーズクラブ』)やヒラリー・スワンク(『ボーイズ・ドント・クライ』)もその一例だ。

『ナイアド~その決意は海を越える~』 KIMBERLEY FRENCH/NETFLIX/COURTESY OF TELLURIDE FILM FESTIVAL

今年の賞シーズンには、『カラーパープル』、『ナイアド~その決意は海を越える~』や『マエストロ: その音楽と愛と』など、同性同士の関係が含む作品が多数ある。

一方で、「ナイアド」のジョディ・フォスターや、「マエストロ」のマット・ボマーら同性愛者を公表している役者は脇役に回り、ストレートの俳優がクィアな主役を演じる場合がほとんどだ。(『ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男』のコールマン・ドミンゴや『異人たち』のアンドリュー・スコットは例外)

俳優と役柄の微妙な境界線

『異人たち』PARISA TAGHIZADEH/COURTESY OF SEARCHLIGHT PICTURES/20TH CENTURY STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED

今日においては、シスジェンダーの俳優がトランスジェンダー役を演じるのはポリコレ的には正しくないということで、ほぼ意見が一致している。しかし、登場人物のセクシュアリティをめぐるルールは曖昧なままだ。

「誰かを雇うときにその人のセクシュアリティを尋ねるのは、ほぼ間違いなく違法でしょう」とセリグマンは語る。

「シスジェンダーの人がトランスジェンダーを演じるのはもってのほかです。しかし、カミングアウトしているクィアの俳優を起用しないという点においては、曖昧さがあります。私は、自分の中で積極的差別是正措置(=アファーマティブアクション)を設けています。この業界でカミングアウトするのは、凄く危険で勇気のいることなのです」

変化は起きているのか?

『マエストロ: その音楽と愛と』写真: JASON MCDONALD/NETFLIX

では、クィアの映画製作者にとって、物事は本当に変化しているのだろうか?

サックスは、「映画業界において、クィア作品メインで持続可能なキャリアを歩んでいるクィアの製作者を見つけるのは難しいでしょう」と語る。

しかし、セリグマンのような作り手こそが“その人”になるのかも知れない。「『ボトムス』のヒットに感謝の気持ちでいっぱいです。一方で、『こういった映画に熱狂するクィアな観客がいるんだ』と感じました。人々は、ゲイ映画を求めているです」

※初出は米『ハリウッド・リポーター』(1月単独号)。本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら。翻訳/和田 萌

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