『HAPPYEND』レビュー:監視国家による抑圧の縮図となった“高校”、心に響く近未来ドラマ

Happyend
映画『HAPPYEND』写真: Courtesy of Cinetic Media/Venice Film Festival
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昨年、亡き父・坂本龍一のドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』を手がけた空音央監督。彼の長編劇映画デビュー作『HAPPYEND』は、卒業を控えた高校生たちが暗い未来に直面する様子を描いている。

控えめな表現とやさしいユーモアで作品に深みを持たせつつ、永遠に続くと思われていた青春時代のつながりが突如不確かなものになってしまう変化の時を捉えた本作。怒りと不安の要素を含みつつも、同時にしなやかさも感じさせるメランコリックな物語だ。

全体主義に傾きつつある政府と自然災害に脅かされるなか、空監督は5人の仲間プラス1人のアウトサイダーに焦点を絞り、彼らの個人的・集団的な抵抗行為を効果的に映し出している。携帯電話の緊急地震速報は日常生活の一部となり、首相は緊急時の政府権限の拡大を発表。やがて抗議運動が起こり、警察の取り締まりが暴力的になっていく。

しかし、これらはすべて、楽しい気晴らしと未来への忍び寄る不安の狭間に宙吊りにされた、思春期後期の繊細な肖像画のためのキャンバス(=背景)なのだ。主人公は、幼馴染で大親友のユウタ(栗原颯人)とコウ(日高由起刀)。学校や社会に忍び寄る不穏なムードに対する対照的な反応によって、それまで2人とも意識していなかった違いが露呈する。

警察が無許可のテクノ・パーティーを取り締まり、アマチュアDJのユウタとコウは、仲間のトム(ARAZI)、ミン(シナ・ペン)、アタちゃん(林裕太)とともに、夜の学校に潜入。ユウタとコウは校長(佐野史郎)の車にいたずらを仕掛けるが、この出来事がきっかけで、学校に生徒を監視する新たなセキュリティー・システムが導入されてしまう。

その後緊急事態令が発令され、夜は自警団が街をパトロールするようになり、学校では護身術を教えるために軍の教官が連れてこられる。次第に楽観的なユウタに対して苛立ちを感じていくコウ。学生活動家のフミ(祷キララ)が反乱を主導するなか、声を上げたユウタ。一方で、その勇気には代償が伴うこととなる。

空監督は成熟過程を思いやりに満ちたまなざしで見つめ、卒業ドラマのほろ苦く哀しみを帯びた性質と、刑務所のようになった教育機関という不安定な小宇宙との間で、巧みなトーンのバランスを取っている。そして、外の世界におけるより広範な政治的意味を指し示しているのだ。最初から、ユウタとコウ、彼らの友人たちの体験に鑑賞者を巻き込みながら、私たち全員に影響を及ぼすより大きな恐怖に対して軽やかながらも、心に残る余韻をもたらしている。

撮影監督のビル・キルスタインは架空の東京の荒涼とし風景に詩を見出し、エレガントな構図を作っている。また、作曲家リア・オユヤン・ルスリの音楽は、その視覚的な優美さを引き立てると同時に、テクノの間奏曲で登場人物たちの若々しいエネルギーを表現している。そして、ほぼ全員が新人という若手俳優たちは、未来が舞台でありながら現在の世界的な政治的不安と結びついた本作で、自然体の演技をみせている。

映画『HAPPYEND』
キャスト:栗原颯人、日高由起刀、林裕太、シナ・ペン、ARAZI、祷キララ、佐野史郎
監督・脚本:空音央
上映時間:1時間53分

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌

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