『アイヌプリ』福永壮志監督が語る、アイヌ民族への認識の向上 ― 東京国際映画祭で上映
今年のエミー賞で18部門受賞という快挙を成し遂げた『SHOGUN 将軍』や、米Max(旧HBO Max)製作の『TOKYO VICE』など、高い評価を受けたシリーズのエピソード監督を務めてきた福永壮志。大規模なプロダクションに携わってきた福永監督が新たに手がけるのは、北海道で暮らすアイヌの人々を追ったドキュメンタリー映画『アイヌプリ』だ。
『アイヌプリ』は、今年の東京国際映画祭で上映。福永監督は米『ハリウッド・リポーター』のインタビューに応じ、「僕は北海道で生まれ育ちましたが、アイヌについて学ぶ機会はほとんどなかったんです。クラスにアイヌの同級生がいたときも、どのように話すべきか分かりませんでした」と振り返った。
米国で映画製作を学んでいた福永監督は、現地の大半の人がネイティブアメリカンに何が起きたのかを理解している一方で、アイヌの人々が抱える苦悩に対する日本人の意識ははるかに低いことに気付いたという。そして、“羞恥心”を感じた福永監督は、考えうる最良の方法―映画―を通して、それに取り組む決意をした。
アイヌの物語は、失われた土地や言語、文化や権利など、世界中の先住民族の物語を痛切に彷彿させる。「世界の先住民の人々は、おそらく資本主義システムの最大の犠牲者でしょう」と福永監督は語る。
『アイヌプリ』はそういった現実から目を背けず、同時に人間らしさやユーモアに溢れている。その大部分は、本作で密着した天内重樹さんや彼の家族、地元コミュニティの魅力的な存在感によるものだ。天内さんは10年以上前に伝統的なマレㇷ゚漁を復活させ、アイヌの技法を次世代に受け継いでいる。
一方で、同作にはより深刻な場面もある。天内さんは、漁には当局からの特別な許可が必要であることに対し疑問を投げかける。さらに、第二次世界大戦から続く日本とロシアの北方領土問題にも言及し、元々の住民であるアイヌの人々は「議論にすら参加できない」と指摘している。
福永監督は、プロの俳優ではなく地元の人々を起用した自身の長編2作目『アイヌモシㇼ』(2020)でアイヌについて探求し始めた。
アイヌと多くの日本人の文化的な接点となっている人気漫画『ゴールデンカムイ』は今年、実写映画化。しかし、日本人俳優がアイヌの役を演じたことについて、福永監督は「国際的な基準では、許容できるものではない」と警鐘を鳴らした。
テーマを美化したり、やみくもに称えることはしないと決めていた福永監督だが、編集作業中には困難もあったようだ。
普段は特別な儀式で行われるエムシリムセ(剣の舞)を天内さん親子が披露している様子を撮影していた福永監督は、演出に見えてしまうことを懸念し、そのシーンをカット。しかし、編集版を観た天内さんから、お気に入りだった踊りのシーンはどうなったのかと問われたという。
「固定観念やオーセンティシティ(正統性)だけがすべてではない、ということを思い出した瞬間でした。時には、ただクールだからという理由が存在するのです」
天内さん親子は、アイヌの着物を身にまとい東京国際映画祭のレッドカーペットに登場。映画祭では初のことであり、福永監督は「本当に特別な瞬間でした」と誇らしげな笑顔をみせた。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。翻訳/和田 萌
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