『ベイビーガール』、新世代のスター俳優ハリス・ディキンソンの台頭
映画『ベイビーガール』でニコール・キッドマンとの官能的な演技を披露し一躍話題の人となったハリス・ディキンソン。監督のハリナ・レインは、テック企業のCEOを演じるニコール・キッドマンの相手役として、ディキンソンの起用を決断。「少年と大人、父親と子供、両方の要素を持ち合わせている」と評価し、キッドマンと対等に渡り合える存在感を見出した。
『ベイビーガール』出演までの経緯と撮影秘話
ハリナ・レイン監督はZoomで役の打診を行ったが、ディキンソンは即答を避けた。ディキンソンは、その役をどう演じたらよいか分からなかったと振り返った。脚本では彼の演じるサミュエルは、権威的かつ脆弱な面を持ち、自身の男性性と向き合うインターン役。上司への不適切な言動がありながらも、下品さを感じさせない繊細な演技が求められた。
共演のニコール・キッドマンは「ハリスは素晴らしい俳優で、他の誰も考えられませんでした。彼は間違いなく大スターになります」と太鼓判を押す。『ベイビーガール』はゴールデングローブ賞にノミネートされたものの、2025年のアカデミー賞では受賞を逃している。
撮影中は不安と緊張に見舞われたことをディキンソンは明かした。4ヶ月に及ぶニューヨークでの撮影期間中、ディキンソンは予想以上の不安を抱えていた。イーストビレッジのヒューストン通りに滞在し、カッツ・デリのルーベンサンドを楽しむ一方で、街の喧騒に悩まされた。「夜中にブザーを鳴らされ、常にストレス状態でした」と当時を振り返る。
ロンドンの下町で過ごした幼少期と俳優としての成長
イースト・ロンドンの労働者階級の家庭で1996年に生まれたディキンソンは、4人兄弟の末っ子として育った。両親の離婚後、母親は自宅のキッチンで美容師として働き、家計を支えた。「朝起きると必ず母の客である年配の女性たちがいて、下着姿でシリアルを食べに行くような日常でした」と当時を振り返る。
現在も同じ郊外に住み、長年のパートナーであるインディーポップミュージシャンのローズ・グレーと暮らす。「運転手付きの華やかな仕事と、イーストロンドンの地下鉄で日常を送る、二つの生活を送っている」と語る。
母親が勧めた公立の芸術プログラムで演技を始め、21歳で映画『ブルックリンの片隅で』で主演デビュー。当初はハリウッドの仕組みも分からず、サンダンス映画祭での受賞の重要性も理解していなかった。その後『ダーケスト・マインド』『TRUST/トラスト ゲティ家のスキャンダル』などに出演し、アンジェリーナ・ジョリーやレイフ・ファインズとの共演も果たした。
労働者階級出身のディキンソンは、経済的な安全網がない中でのキャリア形成について率直に語る。「ホテルマンから俳優に転身し、どんな仕事でも受けていました。多くの若手俳優にとって、それは普通のことです」と説明する。一部の俳優から「好きなことだけをやればいい、創作の誠実さを危険にさらすな」と忠告されたが、「若手俳優には、そんな贅沢は許されない」と現実的な立場を示す。
22歳で『ブルックリンの片隅で』の出演料で購入した質素な家に今も住み続け、贅沢な生活を意識的に避けている。「物を買うことに怖さと罪悪感がある」と語り、家の手入れや庭の手入れなど、地に足のついた生活を心がけている。
現在は作品を選べる立場になったものの、依然として経済面を考慮せざるを得ないと語る。バイクの購入を検討したものの、家族や友人に反対されているという。
『逆転のトライアングル』の成功により、ディキンソンはオーディション不要の「オファー限定」俳優の仲間入りを果たす。ブリット・マーリングは『マーダー・イン・ザ・ワールドエンドの主演に、『ブルックリンの片隅で』での演技力と英国人俳優としての魅力を評価し、直接オファーを出した。
監督たちが語る独特の演技スタイル
マーリングは、共演のエマ・コリンとの初顔合わせのリハーサルで見せた演技について「最初は冗談めかしながらも、次第に真摯な感情を見せる特有の手法がある」と評価。
『ベイビーガール』でのジョージ・マイケルの「Father Figure」を踊るシーンについて、レイン監督は「男らしさの中にある少しの不安げな表情が、より人間味を感じさせます」と語る。
なお、ディキンソンがそのシーンで見せているタトゥーは彼自身のものだ。彼はそれが流行るとは思っていなかったが、その後、人々が彼の腹筋や腕に彫られたすべてのタトゥーについて尋ね始めた。前腕に彫られた「SKR」は単に発音上の「skirrr」だと説明している。彼は舌を巻いて手を振ってそれを発音する。「これはただの冗談で選んだだけです」と語った。
ジョン・レノン役抜擢の噂と将来への展望
サム・メンデス監督のビートルズ4部作で、ジョン・レノン役を獲得したとの噂が流れている。ポール・メスカル(ポール・マッカートニー役)、ジョセフ・クイン(ジョージ・ハリスン役)、バリー・コーガン(リンゴ・スター役)との共演が報じられている。
当初この話題を避けていたディキンソンだが、後日のインタビューでは「ジョン・レノンを演じ、サムら素晴らしいキャストと仕事ができるのは、素晴らしい機会になるでしょう」と慎重に語った。
『ベイビーガール』での官能的なシーンで注目を集めているが、「みんなと同じように虚栄心はあるけれど、それに重きを置かれるのは落ち着きません。自分の価値をそこに見出したくないです」と本音を明かした。
「きっと、このすべてを振り返って、注目してもらったことに本当に感謝するだろうと思います」とディキンソンは認める。「コメントを全部小さな本にまとめ、60歳になって太ったときに、それを全部読み返して、昔はみんなが私のことをいいことを言ってくれたのだと自分に言い聞かせるつもりです」と、ユーモアを交えながら将来を見据えた発言をした。
※本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら。
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