名匠・三池崇史が語る、日本映画界の変化「新たな波が来ている」
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日本の名匠・三池崇史が、新作スポーツ映画『BLUE FIGHT 〜蒼き若者たちのブレイキングダウン〜』のインターナショナル・プレミアのため、ロッテルダム国際映画祭(IFFR)に登壇。三池監督は、長年のコラボレーターであるプロデューサーの坂美佐子氏とともに、映画祭のトークイベントにも出席した。
■「観客も自分も年を重ねている」
米『Deadline』のインタビューに対し、三池は今回が自身にとって5度目のIFFR参加であることを語り、最初に気づいたのは自身の作品を観る観客の年齢層が上がっていることだと明かした。
「私も年を取ったし、観客も一緒に年を重ねています。25年前に初めて出席した当時はみんな若かったけれど、今年の観客はかなり年齢が上がっていますね」
さらに、映画制作が肉体的に大きな負担を伴う仕事であることにも言及。「映画を作るというのは、アスリートとまではいかなくても、非常に体力を使う作業なんです。自分があと何本映画を作れるのか、最近よく考えるようになりました」
■新作『BLUE FIGHT』に対する不安と観客の反応
過去35年間で100本以上の映画、ビデオ、テレビ作品を手がけた三池監督は、『オーディション』(2000)、『殺し屋1』(2001)、『十三人の刺客』(2011)などのカルト的名作で知られる。一方、ロッテルダムでの『BLUE FIGHT』の上映を前に、少し不安を感じていたという。
「私の映画は暴力的な表現で知られていますが、『BLUE FIGHT』はそれとは大きく異なります。おそらく一部の観客はもっと暴力的な作品を期待しているかもしれません。なので、そうした期待を裏切ることを少し恐れていたんです。しかし、上映が終わる頃には多くの観客が映画を楽しんでくれたようで、それが本当に嬉しかったですね」
■日本映画界の変化と国際志向
三池監督は現在、アニメシリーズ『ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット』の総監督、さらに新作クライムスリラー『Sham』の監督も務めている。
日本映画界における国際的なコラボレーションの増加について、国内の人口減少がこれまで内向きだった業界を変えつつある要因だと三池監督は指摘する。
「日本の映画業界は、もともとかなり閉鎖的でした。韓国と比べても日本の人口は約2.5倍多く、観客の規模もより大きい。そのため、国内の観客だけに焦点を絞れば十分でした。しかし、人口減少が進む中で、Netflixのような新しい技術やインターネットサービスが登場し、日本の映画界にも新たな波が来ています」
「国内の映画業界も、『どうすればいいのか?』と考え始めています。これまでと同じやり方を続けていたら生き残れない。だからこそ今、国際志向のグループが生まれ、新たな波が到来しているのです」
しかし同時に、三池監督は“国際市場を意識しすぎること”への警戒も示した。「『世界でヒットしそうな映画や番組は何か』を考え、そこから作り始める作品は決して成功しません。大切なのは、まず『自分が本当に作りたいもの』や『観客に何を届けたいのか』を精神的なレベルで考えること。その上で、どれだけ多くの観客を集められるかを考えるべきですね」
■今後のキャリアと国際的な展望
自身の国際的なキャリアを振り返る中で、三池監督はイギリスのプロデューサー、ジェレミー・トーマスと手がけた『一命』や『十三人の刺客』をハイライトとして挙げた。
現在は、アメリカのCAA(クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー)と契約している三池監督。今後については、「もっとヨーロッパの人たちとも仕事をしたい」と語る。
「今、自分は一つの転換点にいると感じています。監督が有名になると、人々は『すごい監督だ』と言います。でも、『偉大な監督』である必要はなく、『素晴らしい映画』を作ることができれば、それでいい。今はそう考えています」
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
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