THE INTERVIEW Vol.2 SUGIZO 〜後編「僕が人生を賭けて世の中に伝えたいこと」〜

The Hollywood Reporter Japan編集長が今一番注目する「表現者」を立体的に掘り下げる「THE INTERVIEW」。

「ザ・インタビュー」記念すべき初回は、音楽活動のみならず、ファッション、社会活動など、自身のメッセージをあらゆるファクターを通して伝える表現者・SUGIZOが登場、多面的な表現活動の源や人生の哲学など編集長・山本が一番気になることを問うてみた。

後編では、彼の内面に迫る。SUGIZOが音楽を通して伝えたいこと、人生を賭けて届けたい想いとは。

山本:昨年『SUGIZO 四半世紀祭 25th ANNIVERSARY GIG』を観て、SUGIZOさんのライブの多様性を感じました。音だけでなく自分の心の中を伝えていくというところで、まさにダイバーシティを体現しているなと。ロックやジャズ、テクノなど色々な表現方法がありながらも一貫するメッセージがあると思いましたが、SUGIZOの伝えたいことは何でしょう? 

SUGIZO:デビュー当時と今とでは全く違います。違う人格だといっていい。当時は自分しかなかったし、自己顕示欲の塊だったし、目的は上に行くことだけでした。よくも悪くも非常にハングリーな人間でしたね。20代中盤で表面的なスターダムやチャート、動員などである程度の結果を得られましたが、何も残らなかったんですよ。東京ドーム公演をやっても、100万枚を売っても言うほど満足感がなかった。特に幸福感は皆無でした。そんななかで「自分がしたいことはこれじゃない」とだんだん思い始めたんです。 

表現に対する指針が変化したのは90年代後半から。人のため、仲間や家族、遠い国の人に自分の表現、意識を届けたいという変革が起こり始めたんです。この20年ほどは音楽が人として、命として、さらに宇宙的に正しいと確信することを伝えるためのツールになりました。

山本:SUGIZOさんのギターからは魂の叫びを感じます。25周年ライブもどちらが上か下なのかわからなくなるような、宇宙空間に飛ばされたような感覚で。また戦争や環境などへのメッセージがありました。これについても改めて教えてください。

SUGIZO:僕たち、ひとりひとりの意識や行動のあり方で未来は作れる。日本だけではなく、世界中で今の世の中が正しい状態にあると思う人は少ないはずです。でもそれは僕らの行動や意識で変えることができる。残念ながら現在は多くの人が決して住みやすいとは言えない、決してさほど幸福でも裕福でもない。しかし人々が「ここからより良い方向に意識や行動で変えていこう」と思っていないように僕には見えます。それは有名無名や職種、もちろん人種民族も関係ない。この意識の下で全ての隔たりは意味をなしません。世界中の誰もができる行動であり、かつ世界中の誰もが求めていることなんですよ。

どんな無名な人であれ、自分は無力だと思っている人であれ、その人を愛してやまないパートナーや家族、親、子供がいる。すべての人に等しく生まれてきた価値があります。逆に全ての人が世の中に対してコミットし、世の中に対して影響を及ぼす権利もある。「それは役目なんだ」と、僕は常にそんな気持ちで生きています。僕はたまたまミュージシャンであり、たまたまアーティストなだけであって、多分全然違った職種をしていても、こういう行動を取っていたと思います。

山本:音楽制作でこだわっていることは何ですか?

SUGIZO:好きでよくやる手法はフィールド・レコーディング。自然の音を録って、それを自分の音楽に融合させる方法です。スタジオで作り込んだギターやシンセの音も、屋久島の水がちょろちょろ流れる音1発に負けてしまったりする。自然が持っている音のエネルギーは本当に強力で、その音だけで体の調子が楽になることもあるんですね。音の影響により体が正常な状態に戻ろうとするというか。サウンドヒーリングですよね。2020年末にリリースしたアルバム『愛と調和』はまさにそれで、生物の体に影響を及ぼす音の力を自分の音楽に融合させたかったんです。 本当は東京などの都市部ではなく、大自然のなかでレコーディングしたいので、ゆくゆくは環境をシフトしようと思ってます。

山本:音で心が動くというだけでなく、生体に直接影響するということ?

SUGIZO:本当に波動の高い音、大自然のように聴き心地がいい音は人間の体にフィジカルな面に作用します。これは色々な考え方があるので、僕が理論的100%正しいかは置いておいて、「水の結晶が音に影響される」という話があるんですよ。エネルギーの高い音や優しい音、愛情がある音または言葉を聴かせ続けた水は結晶化すると美しい。逆に憎悪に満ちた音楽や言葉など、ネガティブなエネルギーを聴かせ続けた水の結晶は汚くてドロドロ。人間は70%が水で構成されていますから、優しい言葉や心地よい音を聴き続けると、体内の水の結晶が美しくなるはず。

音でフィジカルが良い方向に行くに違いないと僕は考えています。「愛している」や「大好き」という言葉を聞き続けた人と「ムカつく」とか「殺したい」という言葉を聞き続けた人、どちらが気分や体調が良いかというのは明らかです。ただ僕の音楽は愛や光に満ちたエネルギーの音と同時に、狂気や悲痛な叫びの音も常に発しているという両面があるのですが……。歌や歌詞で自分の想いを伝えられなくても、それ以上に発する音や楽曲、メロディがそういったエネルギーを持っていると考えて音楽に勤しんでいます。 

山本:SUGIZOさんの音楽はビジュアルが見えてくるようでもあります。

SUGIZO:音って五感に影響を及ぼします。ライブやレイブなどのパーティで興奮して体を動かしたり、踊って発散した後には最高の心地よさがありますよね。心も体も揺さぶられて、自分の中のネガティブなものが飛び散るんです。浄化されるというか。激しいダンスや激しいヘヴィなサウンドでも決してそれはネガティブなものじゃないんです。

もちろんストーリーの中には悲痛な叫びとか、アンチなメッセージ性もはらんでいますが、最終的には浄化されてポジティブな光に包まれてほしい。爆音の中でネガティブを発散した後、最後に上から天上のようなメロディが降り注ぐ。そうするとそれは身体と心に浸透するんですね。なので、激しいライブの最後に重要な静寂の音を奏でることが僕にとっては大切なのです。 

山本:そう考えると、ひとつの儀式みたいですね。 

SUGIZO:音楽はもともとそうでしたよね。それは文明や社会などの形態ができる以前、いわゆる部族や村、その段階から。3000年前、5000年前当時から音楽の理由とは、神や自然と繋がる儀式だったかもしれない。それこそが音楽の最重要な存在理由だと思って奏でています。

山本:なるほど。音楽と宗教は密接な関係にあると思います。

SUGIZO:僕が特に好きなのが密教で、インドのヒンドゥー教からの影響を受けた仏教なんですね。お経やコーラン、マントラも宗教は違いますが、言葉とサウンドで人々が真理に踏み込むという点で似ていて、宗教における美意識や神の存在から放たれる音や言葉から影響を受けています。個人的には空海が特に好きで。『愛と調和』もその影響下にあったりします。

山本:最後にSUGIZOさんが未来に見出している“光”について教えてください。

SUGIZO:近年、今まで以上に世界中の子供たちと繋がっている感覚があります。中東の難民の子たち、去年からはウクライナから来た避難民のティーンエイジャーたち。特に日本でよく会うのが養護施設の子供たち。また近年、宮崎の高校生たちとも毎年の講演を通して繋がっています。もう大人よりも、次の時代を作るキーパーソンである彼らが僕の重要な表現相手です。

特にLUNA SEAは家族でライブに来てくれる人も多く、子どもたちがキラキラな顔をして楽しんでくれていますね。 高校生や中学生の前で自分の音楽を放つと、みんなで食い入って見るんですよ。すごい集中力で吸収しようとしてくれる。彼らが「自分たちで世の中を作れるんだ、変えられるんだ」と思うこと、それが一番の光かな。僕が生きているうちに、それが実現できるかどうかはわからない。もしかしたら一瞬にして世の中が良く変わるかもしれないし、100年かかるかもしれない。

まだ戦争はある。ウクライナとロシアの当事者の人々は憎悪や恐怖にまみれていますが、みんな平和を願っていないはずはない。ネガティブなやり方、武力を持ったやり方ではなく、「どうすれば世界が変わり得るか」という点に一刻も早くシフトしないと。でも大人たちはもう変わりませんよ。なぜなら戦争が最も大きな収益源だから。どこにお金が流入し、どこが潤い、どこが苦しんでるかは一目瞭然。

山本:それを打破するために、どうしたらいいのでしょう?

SUGIZO:この構造を作ってきたのは資本主義社会であって、金融が社会の宗教になってからです。もう既に300年以上経って、この資本主義社会は限界に来ていると思いますし、でも上の年代は今のやり方に甘んじて世の中を変えられません。そこに疑問に思った子どもたちには、思考停止して今までのやり方にならうのではなく、本当の確信や真実を見極めて、気付いて行動するようになってもらいたい。

光は今のZ世代やさらに下のα世代だと感じているので、まあ僕らの世代やもっと上のようなもう余命幾ばくもない老人は自分も含めてもういいかなと(笑)。早く彼らにバトンを渡したいです。その歯車になれれば、僕は光栄です。

SUGIZO Profile

作曲家、ギタリスト、ヴァイオリニスト、音楽プロデューサー。

日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARSのメンバーとして世界規模で活動。同時にソロアーティストとして独自のエレクトロニックミュージックを追求、更に映画・舞台のサウンドトラックを数多く手がける。

2020年、サイケデリック・ジャムバンド SHAGを12年振りに再始動。

2022年、環境への配慮、カーボン・ニュートラルへの揺るぎなき行動と同時に、高い美意識とを両立させた、ロックなエシカル・ファッションを提唱する自身のアパレル・ブランド「THE ONENESS」を始動。

同年11月11日、日本のロック界を代表するアーティストYOSHIKI、HYDE、MIYAVIらと共に新たなバンド「THE LAST ROCKSTARS」を結成。

音楽と並行しながら平和活動、人権・難民支援活動、再生可能エネルギー・環境活動、被災地ボランティア活動を積極的に展開。アクティヴィストとして知られる。

7月5日、ソロ活動25周年記念LIVE DISC『And The Chaos is Killing Me』がリリースされる。

Photo: Chiaki Oshima
Video: Arata Kurosawa
Video Edit: Yuki Tanzawa

Writing: Makiko Yamamoto 
Naoya Koike

Hair & Make Up Artist:Yumi SAKAI
Costume: THE ONENESS (https://the-oneness.jp/)

THE INTERVIEW 
Vol.1 SUGIZO 〜前編「敬愛する坂本龍一氏へのメッセージ」〜はこちらから

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