『モブランド』レビュー:トム・ハーディとピアース・ブロスナンが贈る「可もなく不可もない」ギャング・ドラマ

- 『モブランド(原題:MobLand)』
- 公開:3月30日(日曜日)、米パラマウント+ (*日本での公開日は未定)
- 主要キャスト:トム・ハーディ、ピアース・ブロスナン、ヘレン・ミレンほか
- 制作:ローナン・ベネット
- 寸評:『モブランド』というだけに、あまりにも「ブランド(Bland:当たり障りのない)」な内容。
私が最後にガイ・リッチー監督作を心から楽しみにしていたのは『スナッチ』(2001)の時が最後だろう。
当時のリッチーは『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)がじわじわとヒットした直後で、将来のイギリス映画界を支える若手有望株になると思われた。しかし彼が『スナッチ』の次に公開した『スウェプト・アウェイ』(2002)以降、リッチーは当たりとハズレを繰り返す(後者の割合の方がやや高い気もするが)キャリアを送り続けている。
しかし、そんな印象があっただけに、2024年『ジェントルメン』(Netflix)を観た時には驚かされた。オリジナルとなった同名の映画作品(2019年公開)の印象や、テオ・ジェームズが主演という前情報からあまり同作に期待はしていなかったのだが、観てみるとカヤ・スコデラリオを始めとする個性的なキャストや、見応えのあるアクションシーンに圧倒され、個人的にはかなりの「当たり」だと感じた。同作をみた当時の私は、もしかするとTVドラマこそリッチーが最も得意とする主戦場になりうるのではないかと密かにワクワクしていたものだ。
そこに来ての『モブランド』である。結論からいうと、同作からは最近になって多く制作されているイギリスを舞台としたギャング・ドラマ(Netflixの『ピーキー・ブラインダーズ』やスカイ・アトランティックの『ギャング・オブ・ロンドン』が好例だ)のうちの一つという以上の印象を得ることができなかった。その点でいうと『モブランド』は『ジェントルメン』と比べた時にどうしても見劣りせざるを得ない。今回の作品は良くいえば、マイク・ホッジスやジョン・マッケンジーに代表されるギャングものというジャンルの「王道」を攻めているといえるし、悪く言えば個性のない「二番煎じ」という感じなのだ。
『モブランド』はロンドンを拠点とする犯罪組織一家たちの間で繰り広げられる死闘を描く物語である。ピアース・ブロスナンが、ハリガン一家の親分コンラッドを演じ、その妻メーブをヘレン・ミレンが演じている。一家は表向きはコンラッドが親分ながら、組織の頭脳として実際のシノギをメーブが担い、ケビン(演:パディ・コンシダイン)ら3人の息子たちも何らかの形でそこに関わっているといういかにもありがちな設定である。
ケビンの息子(演:アンソン・ブーン)がある晩、ナイトクラブで事件を起こし、シマを巡るライバルの親分リッチー・スティーブンソン(演:ジョフ・ベル)の息子が失踪したことから両者の関係が険悪になるというところから物語は始まる。
そうして事態が悪化する中、コンラッドが頼るのが彼の旧友にしてフィクサーのハリー・ダ・ソウザ(演:トム・ハーディ)だ。ハリーは恫喝と(生ぬるい)脅迫を得意とする裏取引の天才というキャラ設定であり、そんな彼には関係の冷え切った妻のジャン(演:ジョアンヌ・フロガット)と10代の娘がいる。ハリーは裏稼業に身を投じつつも妻との関係を修復し、娘を養いたいと誠実に考えているように見えることから「根はいいやつ」なのか、少なくとも丁寧で回りくどい性格(それがハーディの演じられる役柄としては最も近いだろう)なのだと思われる。
少なくとも最初の2話を観た限りで『モブランド』がパッとしない理由は、物語の「曖昧さ」にあると思われる。脚本家は主人公のギャングたちをアンチヒーローとして描きたい一方で視聴者が彼らに共感できるように、彼らの日々の活動をソフトなものにしようとしているのだ。例えばコンラッドが一家がヘロインの取引をシノギにしていて、新たにフェンタニルの販売にも手を出そうとしていることを語ったとすれば、視聴者の共感を得ることは難しいだろう。だから物語の冒頭でコンラッドは、やんわりと一家のシノギに触れるわけだが、完全にその説明を省いてしまっても良い訳である。
『ブレイキング・バッド』(2008-2013)が大当たりした秘訣を脚本家(それか制作部長)たちが勘違いしているのかどうかはわからないが、とにかくこのような曖昧さのせいで『モブランド』は穴埋め問題バージョンのギャングドラマのようになってしまっているのだ。「コンラッド・ハリガンは[違法な取引]を行っていてシノギを[もっと違法で実入りのいい取引]に拡大しようとしている。だが彼は組織を拡大するために[違法で暴力的な活動]を行う決意をできるのだろうか?」といった具合である。
さらに言えば、この手のフィクサーが登場する物語を面白くするのは「具体性」のはずである。視聴者は巧みに自らは手を汚さない有能な問題解決人の活躍を見たいのだ。だからハリーが直接フェンタニルの取引に関わるところは見たくない一方で、理想を言えば彼がクレバーで革新的な手段を使ってコンラッドがフェンタニル取引を始めるのを手助けして欲しいと思うのである。だが、実際に第一話でハリーが使った手段は、コンラッドの事業内容と同じくらいあまりにも当たり障りのないもので拍子抜けさせられるほどだった。
ただ、公平を期して言えばキャラクター(というか演じている俳優たち)はかなり良い。
ブロスナンは(最後の方で見せた謎の豚のモノマネシーンを除けば)冷徹で恐ろしい親分を描き出しているし、ミレンは彼女の十八番である機知に飛んだ姐御役を(同じくパラマウント+放送の『1923』で見せた大袈裟なアイルランド訛りを交えつつ)完璧に演じている。
一方のハーディが最も得意とする役は(『ヴェノム』シリーズで文字通りそうだったように)周囲に対して自分を取り繕うことに居心地の悪さを感じていて、今にも皮膚を突き破って真の自分を露わにしてしまうのではないかという人物だ。今回もそんな例に漏れず、彼はハリーが根っからの荒くれ者なのか、実は心優しい家族思いの男なのかをめぐって視聴者を惑わせ続けている。
第2話は、第1話から大きく改善されたわけでも軌道修正されたわけでもないが、コッツウォルズでのカーチェイスシーンは見応えもあったし、ハーディ演じるハリーが表向きの穏やかさをかなぐり捨てるところを見る最初の機会となった点においては評価できる部分もあった。この作品が『ジェントルメン』のようにぶっ飛んだものになることは明らかにないだろうが、第2話は同作が面白い作品になろうとする真摯な努力を伺う機会になるはずだった。今後のエピソード、特にリッチーが監督を務めないエピソードでストーリーがどのように展開されるのかは興味深い。ポテンシャルがないわけではないのだから。
(筆:ダニエル・ファインバーグ)
※本記事は要約・抄訳です。オリジナル記事(英語)はこちら
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