核兵器の恐怖を描くビグロー監督の新作『ハウス・オブ・ダイナマイト』

アカデミー賞受賞監督キャスリン・ビグローは、自身の最新作となる政治スリラー『ハウス・オブ・ダイナマイト』を通じて、世界に警鐘を鳴らそうとしている。本作が描くのは、常に現実として存在する「地球規模での核による全滅の危機」である。
ヴェネツィアで8年ぶりの新作を披露
現地時間の9月2日火曜日、ビグローはイタリア・ヴェネツィアに姿を現し、世界でもっとも歴史のある映画祭で8年ぶりとなる新作を披露した。核兵器というテーマを「地球的課題」と位置づけたビグローは、「この現実を広く伝えたい」という強い動機が制作の原動力になったと語っている。
「いつの日か核兵器の備蓄が削減されることを祈っている。しかしその日が来るまでは、私たちはまさに“ダイナマイトの家”に暮らしているのだ」とビグローは述べた。
本作はヴェネツィアでの記者会見に先立ち、午前中に行われた二度の試写で満員の観客を集めた。熱気あふれる会場の反応は、この作品がビグローにとって久々の鮮烈な復帰作となることを強く示唆している。
緊迫感あふれる政治スリラー
『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、ビグローのアカデミー賞受賞作『ハート・ロッカー』(2008年)や『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)の流れをくむ緊迫の政治スリラーであり、息が詰まるような切迫感と地政学的な恐怖を融合させた作品だ。
ホワイトハウスを舞台にした悪夢のシナリオ
物語の舞台は主にホワイトハウス。正体不明の敵からアメリカ本土への核ミサイル攻撃が目前に迫るという恐るべき状況を描き、極限の時間の中で軍や政府首脳たちが不可能に近い決断を迫られる。
豪華キャスト陣の競演
主演を務めるのはレベッカ・ファーガソン。彼女は、混乱に陥る中で政府機能を維持する使命を背負うホワイトハウス高官、オリビア・ウォーカー大佐役を演じる。共演にはイドリス・エルバが名を連ね、戦略と道徳の板挟みに苦悩する国家安全保障顧問役を熱演する。
さらに、ジャレッド・ハリス、トレイシー・レッツ、ガブリエル・バッソ、アンソニー・ラモス、グレタ・リー、モーゼス・イングラム、ジェイソン・クラークといった豪華キャストが集結。閣僚や軍幹部、補佐官を演じ、全面的な壊滅を防ごうと奔走する。
脚本は、ジャーナリストから脚本家に転じたノア・オッペンハイムが手がけている。オッペンハイムは『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016年)やNetflixシリーズ『ゼロデイ』で知られる実力派である。
監督が語るメッセージ
記者会見でジャーナリストから「この新作のメッセージを一言で表すなら」と問われたビグローは、次のように答えた。
「私たちはもっと多くのことを知る必要がある。それが私の最大の願いだ。よりよい世界で、核兵器や不拡散について本当の対話を始められることを望んでいる」
「この映画は、私たちに“これらの兵器をどうすべきか”を考えるよう促す招待状なのだ。世界を破滅させることが、どうして防衛策になり得るのか」とビグローは語り続けた。
Netflixで全世界同時配信へ
『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、今年の第82回ヴェネツィア国際映画祭でNetflixがコンペティション部門に送り込んだ強力な3作品の最後を飾る1本である。
先行して上映されたのは、ノア・バームバック監督によるジョージ・クルーニーとアダム・サンドラー共演作『ジェイ・ケリー』、そしてギレルモ・デル・トロが手がける待望の『フランケンシュタイン』であり、ジェイコブ・エロルディ、オスカー・アイザック、ミア・ゴス、クリストフ・ヴァルツといった名優が出演している。
そして『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、10月24日にNetflixで全世界同時配信される予定だ。
脚本家オッペンハイムの視点
脚本を手がけたノア・オッペンハイムは、本作の執筆を始めたのは2年前だと明かし、「そのときどきの国際情勢の細かさが焦点ではない」と語った。むしろオッペンハイムが描こうとしたのは「核時代の幕開け以来、我々の世界が直面し続けている現実」そのものである。
「いま世界には、何度でも人類文明を終わらせられるほどの核兵器を保有している国が9つある。恐ろしい事態がこれまで起きなかったこと自体が、正直言って奇跡だ。多くの兵器は発射待機状態にあり、私たちの国のように、大統領ひとりの判断で使用が許可される仕組みになっている」とオッペンハイムは付け加えた。
ビグローが抱く危機感
ヴェネツィア入りを前に、ビグローは新作に込めた思いを次のように語っている。
「私が育った時代、原子爆弾から身を守る“最善の方法”は学校の机の下に隠れることだとされていた。いま思えば馬鹿げているし、当時も実際にはそうだったのだが、そのときは脅威があまりに切迫していたため、人々は本気で受け止めていたのだ。しかし、いまでは危険はさらに深刻化している。複数の国が、人類文明をわずか数分で終わらせるに足る核兵器を保有しているのに、社会全体はどこか麻痺し、常識では考えられない現実を静かに受け入れてしまっている。結末が全面的破滅でしかないこの状況を、どうして“防衛”と呼べるのだろうか」
「私はこの逆説に正面から向き合う映画を作りたかった。常に破滅の影にさらされながら、ほとんど語られることのない世界の狂気を描きたかったのだ」とビグローは付け加えた。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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