【追悼】仲代達矢、日本映画史を彩った名優の軌跡
俳優の仲代達矢(なかだい・たつや)が2025年11月8日午前0時25分、肺炎のため死去した。仲代氏が主宰する「無名塾」が11日、発表した。故人の遺志により、葬儀・告別式は近親者のみで行い、お別れの会なども予定していない。
『乱』『切腹』『人間の條件』三部作など、日本映画史に残る名作に出演し、国内外で高い評価を受けた名優だった。
無名塾は、公式ホームページで「今年には能登半島地震復興公演『肝っ玉おっ母と子どもたち』で主演を務め切り、次回公演に向けた稽古を始めていたところでした」と説明。「黒澤明監督や小林正樹監督の作品で世界的にも知られ、役者のこだわり、生涯現役を貫いた唯一無二の俳優でした」と、その功績を称えた。
1932年12月13日、東京生まれ。本名は仲代元久(なかだい・もとひさ)。舞台俳優として活動を始め、のちに映画へ進出した。時代劇・社会派ドラマ・現代劇まで幅広い役柄を演じ、その存在感と演技力で「日本映画を代表する俳優」の一人とされてきた。
仲代達矢は、高校3年の時に俳優座の舞台「女房学校」に感銘を受け、卒業後に俳優座養成所に入所した。1954年、俳優座養成所在学中の2年時に黒澤明監督の『七人の侍』でセリフのない浪人役として映画初出演し、同年に初舞台を踏んだ。
1956年、『火の鳥』で本格的に映画デビューした。1957年、小林正樹監督の『黒い河』で主役に抜てきされた。そして、1959年から1961年にかけて6部作で公開された『人間の條件』で主人公・梶を演じた。同作は第二次世界大戦下の個人の倫理と人間性を描く大作で、仲代達矢は抑圧された社会で苦悩しつつ信念を貫こうとする姿を深い説得力で表現し、俳優としての地位を確立した。小林監督作品には13本に出演した。
仲代達矢の代表作のひとつに、黒澤明監督の『乱』(1985)がある。仲代は戦国大名・一文字秀虎を演じ、家督を巡る権力争いと破滅を壮絶に演じ切り、世界的な注目を集めた。
『切腹』(1962)では浪人・津雲半四郎を演じ、武士道と名誉の虚構性を鋭くえぐる壮絶な演技で映画史に刻まれた。
そのほかの出演作には、黒澤明監督『影武者』(1980)、黒澤組の前史でもある『用心棒』(1961)、『椿三十郎』(1962)、岡本喜八監督『大菩薩峠』(1966)など、日本映画を語るうえで欠かせない作品が並ぶ。
『用心棒』のオファーを受けた際のエピソードとして、『七人の侍』(1954)の撮影時に「歩き方が変」と指摘され、1カットに6時間以上を要した苦い経験から「立派な役者になって、二度と黒澤組には出ない」と心に決めていたため固辞した。だが黒澤監督が直々に説得し、出演を受諾したという。
出演した『影武者』は、1980年にカンヌ国際映画祭のパルム・ドール(最高賞)を受賞した。
ほかに市川崑、岡本喜八、山本薩夫、五社英雄ら巨匠たちの大作、話題作へのオファーが殺到。各映画会社が専属契約を打診したが、舞台との両立を重視して常にフリーで活動したため、五社協定に縛られず多彩な作品に出演できたことが、俳優としての地位確立を後押しした。
1975年、妻で脚本・演出家の宮﨑恭子と共に若手育成を目的に「無名塾」を設立し、後進の指導に尽力した。役所広司、益岡徹、若村麻由美、真木よう子、滝藤賢一ら多くの俳優を輩出した。
1996年に紫綬褒章、2003年に勲四等旭日小綬章、2015年に文化勲章を受章した。俳優としてだけでなく、後進の育成にも尽力し、長年にわたり日本演劇・映画界に深い影響を与え続けてきた。
日本映画史の重要な一時代を体現した名優の逝去に、国内外から追悼の声が寄せられている。仲代達矢が残した作品群と演技の軌跡は、これからも語り継がれていくだろう。
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▼仲代達矢 代表作品
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『人間の條件第1部 純愛篇』

『切腹』

『影武者』

『乱』
▼仲代達矢 近年の主演作品

『海辺のリア』(2017年)

『日本の悲劇』(2013年)

『春との旅』(2009年)
▼仲代達矢 著書

※本記事は英語の記事から抄訳・要約したものに、The Hollywood Reporter Japan特派員の加筆を加えたものです。
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