Netflixがワーナー買収、創業者の孫が複雑な心境を明かす「映画館での上映を守らなければならない」

グレゴリー・オル(ジャック・L・ワーナーの孫) 写真:Mario Tama/Getty Images; Frederick M. Brown/Getty Images
グレゴリー・オル(ジャック・L・ワーナーの孫) 写真:Mario Tama/Getty Images; Frederick M. Brown/Getty Images
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Netflixワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)が総額827億ドル(企業価値ベース、約12兆8,300億円)で買収した。これを受け、ワーナーの共同創業者であるジャック・L・ワーナーの孫で映画監督・プロデューサーのグレゴリー・オル氏が米『ハリウッド・リポーター』の取材に応じ、心境を明らかにした。

ワーナー創業者の子孫が語る売却への複雑な思い

グレゴリー氏は取材に対し、「WBDが売却される可能性については、釈然としない思いです」と語っている。同氏は、ワーナー・ブラザースの売却後も「独自の発言力と意思決定力」を持つ、独立企業としての存続を望んでいる。

グレゴリー氏は、WBDのデヴィッド・ザスラフCEO発案によるワーナーとディスカバリーの事業分割案には賛成派だ。しかし、取締役会と株主に対しては「最近の興行的成功を維持し、いかなる買収提案も退ける企業価値を高めるために、WBDにはまだ時間が必要です」と語っている。

同氏は、映画業界の変化に触れながら説明した。「業界は岐路に立っており、Netflixも同様です。Netflixが買収するのは、優れたクリエイティブ陣と比類のない劇場配給部門を含む、ワーナーの豊富な資産です。Netflixはストリーミングのパイオニアであるだけでなく、映画に必要不可欠な『劇場体験』を守らなければなりません。自宅で映画を観るのも楽しいですが、劇場のスクリーンで多くの人と映画を共有するのとは異なります。共有体験が減り孤立化が進むこの世界では、劇場で映画を共有することは、私たちの精神衛生上、必要なことだと思います」

ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのアップフロントの様子(写真:Mike Coppola/Getty Images for Warner Bros. Discovery)
ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのアップフロントの様子 写真:Mike Coppola/Getty Images for Warner Bros. Discovery

ワーナーの歴史と変革

グレゴリー氏が監督を務めたドキュメンタリー映画『ジャック・L・ワーナー:映画界最後の大物』(1993年)は、ジャックと兄弟たちによるスタジオ運営の軌跡を追っている。

1923年に設立されたワーナー・ブラザースは、世相を捉えた映画を製作し続けている。同社は、映画を通じて、大恐慌の時代に大衆の心に響く映画を作った。ファシズムに反対の声を上げ、第二次世界大戦中には人々を団結させ、冷戦期の政治にも影響を与えた。同スタジオは、サイレント映画からトーキー映画への移行期に音声同期技術に投資した「トーキーの先駆者」としても知られる。

1920年代のワーナー・ブラザーススタジオ 写真: ©EVERETT COLLECTION

同スタジオは、1948年の反トラスト訴訟判決を受けて映画館チェーンを売却した。その穴を埋めるため、ハリーはテレビ部門の強化に乗り出した一方で、映画館での上映機会も守り続けてきた。ハリー・ワーナーは「我々は独占的なテレビネットワークを構築するつもりはありません」とコメントしている。特に、小規模な映画やドキュメンタリーの上映の場を守るため、テレビ局の売却申請の対象をロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴの3都市に限定した。

しかし、兄のハリーと比べてジャックはテレビの将来性に懐疑的だったため、テレビ部門のスタートは困難を極めた。その後ハリーは引退し、テレビ部門の仕事はグレゴリー氏の父親であるウィリアム・オルに委ねられた。

『夢の実現』こそ重要――ワーナーの精神を継ぐために

グレゴリー氏は売却に完全に反対しているわけではない。つまり、買収の目的と、その後の動向が重要なのだ。「ワーナー・ブラザースも他社を買収しながら成長してきましたが、これは単に金銭的利益だけを求めた結果ではありません。ワーナー・ブラザースは『夢の実現』という理念に基づいて設立され、現在までその姿勢を保っているのです」

売却後は、ワーナーが制作した数多くの名作や、『オズの魔法使』(1939年)などのMGM作品、『市民ケーン』(1941年)をはじめとするRKOピクチャーズの作品ライブラリーを、Netflixが所有することになる。

映画『オズの魔法使』(1939)
映画『オズの魔法使』(1939) 写真:Courtesy of TCM/The Kobal Collection/WireImage.com

グレゴリー氏はWBDの売却計画について、次のように語る。「ワーナー・ブラザースのような伝説的メディア企業への投資は、単なる金銭的目的以上のものであるべきです。実際に、もっと利益率の高い株はあります。『カサブランカ』(1942年)をはじめ、多くの象徴的な映画やテレビ番組を製作したスタジオの株を所有することは、心に訴える決断でもあるのです」

さらにグレゴリー氏は、「ワーナー・ブラザースはハリウッドの歴史において、時には極めて重要な声を上げてきました。どの経営陣の時代も、私たちは常に時代に語りかける物語を作り、挑戦してきたのです。その声が消え、築き上げてきた財産が失われることは避けなければなりません」「いち映画スタジオが、億万長者による支配に対抗できる可能性は、どれくらいあるのでしょうか?」と危惧を示した。

「映画やテレビといったメディアにとって、単にコンテンツだけを作るのは簡単です。しかし、ワーナー・ブラザースが築き上げてきた映画は異なります。私たちの映画は、心と精神に影響を与え、より広い思想の世界へ導いてほしいと望むすべての人の野心を反映しているのです」

※為替レートは2025年12月6日時点の数値で換算しています。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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