2025年を代表するベスト映画10選!今観るべき傑作を総まとめ

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(左から)『Sirāt(原題)』、『罪人たち』、『センチメンタル・バリュー』、『Peter Hujar’s Day(原題)』、『The Secret Agent(英題)』、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』、『ワン・バトル・アフター・アナザー』写真:Neon/Courtesy Everett Collection (2); Courtesy of Warner Bros. (2); Kasper Tuxen/Neon/Courtesy Everett Collection; Janus Films/Courtesy Everett Collection; A24/Courtesy Everett Collection
(左から)『Sirāt(原題)』、『罪人たち』、『センチメンタル・バリュー』、『Peter Hujar’s Day(原題)』、『The Secret Agent(英題)』、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』、『ワン・バトル・アフター・アナザー』写真:Neon/Courtesy Everett Collection (2); Courtesy of Warner Bros. (2); Kasper Tuxen/Neon/Courtesy Everett Collection; Janus Films/Courtesy Everett Collection; A24/Courtesy Everett Collection
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2025年は、映画業界にとって特別な一年となった。大ヒット映画シリーズの新章『ジュラシック・ワールド/復活の大地』や、世界興行収入で6億ドル(約940億円※)の大台を突破した『スーパーマン』など、話題作の公開が相次いだ。また、『罪人たち』や『ワン・バトル・アフター・アナザー』といった大胆かつ独創的な娯楽作品の成功も際立ち、記憶に残る一年だった。

※2025年12月12日時点の為替レートで換算

本記事では、米『ハリウッド・リポーター』のチーフ批評家デヴィッド・ルーニーが選んだ年間トップ10を紹介する。もしこれらの作品が「聞いたこともない映画」だと感じたなら、ぜひ探して観てほしい。きっと、心に残る一本に出会えるはずだ。

1.『The Secret Agent(英題)』

ワグネル・モウラ、『The Secret Agent(英題)』より 写真:Neon/Everett Collection
ワグネル・モウラ、『The Secret Agent(英題)』より 写真:Neon/Everett Collection

1977年、長期にわたったブラジル軍事独裁政権がもっとも激しさを増していた時代を背景に、クレーベル・メンドンサ・フィリオ監督は政治スリラーを新たな形で描き出す。主演は、いまもっとも勢いのある俳優ワグネル・モウラ。彼が演じるのは、技術の専門家アルマンドだ。腐敗した連邦政府高官との危険な衝突をきっかけに、アルマンドはブラジル北東部の都市レシフェへ戻ることになる。

妻を亡くしたアルマンドは、左派の秘密アジトに身を隠しながら、迫り来る殺し屋の手をかいくぐりながら、幼い息子を国外へ逃がす計画を進めていく。物語にはブラックユーモアが巧みに織り込まれ、歴史と記憶への静かなまなざし、抑えきれない感情のうねり、強烈な色彩、そして映画そのものへの愛が重なり合う。重厚でありながらも観る者を引き込む、本作は唯一無二の存在感を放つ一作だ。

とりわけ忘れがたいのが、都市伝説のような不可思議さをたたえた衝撃的な場面である。夜の草原でカピバラが静かに草を食む光景から一転、切断された脚がクィアの出会いの場(クルージングスポット)を恐怖に陥れるという異様な展開へとなだれ込む。自然の穏やかさと、独裁体制がもたらす混乱と迫害を対比させたこのシーンは、本作を象徴する強烈なイメージとして深く心に残る。

2.『ワン・バトル・アフター・アナザー』

『ワン・バトル・アフター・アナザー』 写真:Courtesy of Warner Bros.
レオナルド・ディカプリオ、『ワン・バトル・アフター・アナザー』より 写真:Warner Bros.

ポール・トーマス・アンダーソン監督が、『ブギーナイツ』(1997年)以来と言っていいほど、勢いと高揚感に満ちた痛快なエンターテインメント作品を完成させた。過去に燃え上がった革命的な運動と、現代に静かに息づく地下の抵抗を対比させながら、物語は深い絶望と、それでも消えない希望のあいだを巧みに行き来していく。

皮肉の効いたユーモアと軽やかなテンポ、そして切迫感を帯びた演出によって、アンダーソンはレオナルド・ディカプリオを中心とする精鋭キャストとともに、権威主義の広がりや腐敗、移民への過酷な扱いに対する人々の不満を鮮やかに映し出す。ショーン・ペンベニチオ・デル・トロの存在感も光るが、とりわけ強い印象を残すのは、テヤナ・テイラーレジーナ・ホール、そして注目の新星チェイス・インフィニティが演じる3人の女性たちだ。彼女たちの鮮烈な演技が、作品に人間的な温もりと力強い鼓動を与えている。

ワン・バトル・アフター・アナザー』は、大ヒット上映中!

3.『Sirāt(原題)』

『Sirāt(原題)』より 写真:Neon
『Sirāt(原題)』より 写真:Neon

これまでにない感覚をもたらすロードムービーとして、オリヴァー・ラクセ監督の本作は大きな衝撃を与える。

物語の中心にいるのは、父親のルイス。セルジ・ロペスが演じるこの人物は、熊のようにたくましい外見とは対照的に、深い悲しみと弱さを抱えた存在だ。ルイスは幼い息子とともに、砂漠のレイヴ・パーティで最後に目撃されたまま消息を絶った娘を探すため、スペインからモロッコ南部の山岳地帯へと向かう。

現地で2人を迎えるのは、鳴り響くEDMのビートと熱狂の渦。手がかりを求めてチラシを配り始めるが、国際的な武力衝突が激化したことで状況は一変する。兵士たちの命令により、すべてのヨーロッパ人に退避命令が告げられ、レイヴ・パーティは強制的に打ち切られてしまう。

やがて父子は、筋金入りのレイヴァーたちと行動を共にし、さらに砂漠の奥地で開かれる別のダンス・パーティへと向かうことになる。その道行きは、悲劇と崇高さが交錯する過酷な旅であり、アラビア語のタイトルが示す「天国と地獄をつなぐ橋」を渡るような体験でもある。身体と感覚、そして魂を揺さぶる、圧倒的な一本だ。

『Sirāt(原題)』は2026年に日本公開予定。

4.『Peter Hujar’s Day(原題)』

ベン・ウィショー、『Peter Hujar’s Day(原題)』より 写真:Berlin Film Festival
ベン・ウィショー、『Peter Hujar’s Day(原題)』より 写真:Berlin Film Festival

1974年、写真家ピーター・ヒュージャーと、作家であり親しい友人でもあったリンダ・ローゼンクランツが交わした会話。近年再発見されたその音声記録をもとに、本作は形づくられている。もともとは芸術家の日常を記録する書籍として構想されていた、未完の企画から生まれた素材を用い、アイラ・サックス監督は、語られた言葉をそのまま生かした一人称の伝記映画という、極めて繊細な試みに挑んだ。その静かな語りは、観る者を穏やかな没入感へと導いていく。

主演のベン・ウィショーは、変幻自在な表現力を存分に発揮し、写真家ヒュージャーを、気品と細やかな感情表現で演じ切る。自己演出に長けた一面や無邪気な遊び心、そしてふと顔をのぞかせる深い孤独まで、その振れ幅の大きさが強い印象を残す。一方、リンダを演じるレベッカ・ホールは、長年の友情がもたらす温もりを自然体で表現し、作品全体にやさしい空気を行き渡らせる。

一見すると簡素な構成ながら、本作は胸に静かに迫る力を秘めている。クィアな芸術家として生きたヒュージャーの姿と、1970年代のニューヨーク・ダウンタウンに広がっていたアート・シーンが、豊かな質感とともに立ち上がってくる。そこは彼にとって居場所であると同時に、疎外感を抱かざるを得ない世界でもあった。そして本作は、女性とゲイ男性のあいだに育まれる、かけがえのない友情への静かな賛歌でもある。

アイラ・サックス監督は、何気ない日常の一瞬一瞬にまで意味と奥行きを見出し、控えめながらも深く心に残る一本を完成させている。

5.『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』

ティモシー・シャラメ、映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』より 写真:A24
ティモシー・シャラメ、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』より 写真:A24

17年ぶりとなるジョシュ・サフディの単独監督作は、画面の隅々から凄まじいエネルギーがほとばしる一本だ。その勢いは「ダイナミック」という言葉では追いつかないほどで、観る者を一気に引き込む。

主人公マーティ・マウザー役を演じるティモシー・シャラメは、尊大で鼻につく性格を一切和らげることなく体現し、まるで1950年代初頭のニューヨークそのものを背負っているかのようだ。ロウアー・イースト・サイドで靴を売る退屈な日々から抜け出すため、卓球の腕前と桁外れの度胸を武器に成り上がろうとするマーティ。その無謀とも言える挑戦は、野心と自己演出に突き動かされる痛快な遍歴譚として描かれ、観る者を世界を舞台にした冒険へと連れ出す。数々の壁にぶつかりながらも、彼の夢が完全に砕け散ることはない。

時代の空気を鮮やかに再現するのが、50年以上にわたるキャリアの集大成とも言える美術監督ジャック・フィスクのプロダクションデザインだ。細部まで行き届いた美術が、物語に確かな現実感と高揚感を与えている。本作は、強烈なスマッシュサーブを決め続けるかのように、冒頭からラストまでノンストップで突き進むエネルギーの塊だ。グウィネス・パルトローオデッサ・アザイオンタイラー・ザ・クリエイターら豪華な共演陣に囲まれたシャラメの圧倒的な存在感が、作品の推進力をさらに高めている。

マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、2026年3月13日に全国公開予定

6.『センチメンタル・バリュー』

『センチメンタル・バリュー』より 写真:Kasper Tuxen/Neon/Courtesy Everett Collection
『センチメンタル・バリュー』より 写真:Kasper Tuxen/Neon/Courtesy Everett Collection

ノルウェーのヨアキム・トリアー監督が手がけた本作は、辛辣なユーモアを織り交ぜながら、張りつめた家族関係を驚くほど冷静で上品な語り口で描き出す家族ドラマである。姉妹のあいだ、そしてとりわけ父と娘の関係で結ばれる、目に見えない「約束」や「取り決め」が揺れ動いていく物語は、重苦しさだけでなく確かな温もりと光をたたえている。

ステラン・スカルスガルドが演じるのは、かつて名声を誇った自己中心的な映画監督グスタヴ。再起を狙う彼は、疎遠になっている俳優の娘ノーラを新作映画に起用しようとする。ノーラ役は『わたしは最悪。』(2021年)で注目を集めたレナーテ・レインスヴェ。感情の起伏が激しいノーラと、対照的に地に足のついた学者肌の妹アグネス(演:インガ・イブスドッテル・リッレオース)が暮らす日常に、グスタヴが再び入り込んだことで、封じ込められていた過去のわだかまりが次々と表面化していく。

さらにグスタヴは、娘に断られた場合に備え、意欲あふれる若手ハリウッド俳優(演:エル・ファニング)を起用する“保険案”を進め、事態はより複雑に絡み合っていく。主に4人の登場人物によって展開される本作は、これ以上ないほど充実したキャストに支えられ、悲しみや喪失が世代を超えて受け継がれていくこと、そして家族という空間に積み重なった記憶の迷路を、静かに、深く掘り下げていく。観終えたあとにじんわりと余韻が残る、見応えある一本だ。

センチメンタル・バリュー』は、2026年2月20日に全国公開予定

7.『罪人たち』

『罪人たち』(2025年)より 写真:Warner Bros.
『罪人たち』より 写真:Warner Bros.

ライアン・クーグラーが初めて手がけた完全オリジナル作品が、本作となるジャンル横断型ホラーである。

舞台は1932年。第一次世界大戦とシカゴの裏社会を生き抜いてきた一卵性双生児の起業家が、大金を手に故郷ミシシッピ・デルタへと戻り、ダンスホールを開こうとする。双子の兄弟スモークとスタック(同一人物が二役)を演じるのはマイケル・B・ジョーダン。ブルースが放つ霊的(スピリチュアル)な力を物語の核に据えながら、本作は人種、自由、歴史、そして人を飲み込む闇という重いテーマに正面から向き合っていく。

しかし、その魅惑的な音楽は、喜びに集う小作農たち(※)だけでなく、残酷な抑圧からの解放を餌に永遠の命をちらつかせる白人の吸血鬼という存在までも引き寄せてしまう。視覚的にきらびやかで、テーマ性にも深みを備えた本作は、観る者を圧倒する力を持った快作だ。ジョーダンを中心に、ヘイリー・スタインフェルドジャック・オコンネルウンミ・モサクデルロイ・リンドー、そして新星マイルズ・ケイトンら実力派キャストが顔をそろえ、作品世界に厚みと広がりを与えている。

(※)自分の土地を持たず、地主から借りた土地で農業を営む農民のこと。

罪人たち』は、ブルーレイ+DVDセットで発売中!

8.『トレイン・ドリームズ』

フェリシティ・ジョーンズとジョエル・エドガートン、『トレイン・ドリームズ』より 写真:Netflix
フェリシティ・ジョーンズ、ジョエル・エドガートン、『トレイン・ドリームズ』より 写真:Netflix

デニス・ジョンソンが2002年に発表した哀切な中編小説を原作に、クリント・ベントリー監督は、ひとりの男の人生を静かな調べで描き出す詩的な映画を完成させた。映像ならではの表現で丁寧に膨らませた本作は、文学作品の映画化として理想的な形を示している。

物語の舞台は20世紀初頭のアメリカ。開拓の気配が色濃く残る時代を背景に、ジョエル・エドガートン演じる日雇い労働者が、伐採や橋の建設といった仕事を求めて各地を渡り歩く。家族と離れて生きる彼の孤独や葛藤が、太平洋岸北西部の風景とともに静かに掘り下げられていく。

本作では、時間の流れが穏やかに進む一方で、ときに途切れ、ときに飛躍する。それは、開拓者たちの連帯と孤独を見つめるまなざしそのものだ。本作は最後まで独自の語り口と映像表現を貫いている。小さな物語でありながら、深い余韻と痛切な哀しみを残す、心に長く響く一本である。

トレイン・ドリームズ』は、Netflixで配信中!

9.『The Mastermind(原題)』

ジョシュ・オコナー、『The Mastermind(原題)』より 写真:MUBI/Courtesy Everett Collection
ジョシュ・オコナー、『The Mastermind(原題)』より 写真:MUBI/Courtesy Everett Collection

1970年代初頭を舞台にした本作は、当時の映画を思わせる落ち着いた美学に包まれながら、ジャンルの枠組みをさりげなく塗り替えていく。ジョシュ・オコナーが演じるのは、分不相応な計画に巻き込まれてしまう不器用な大工。困窮する人々の姿を丹念に描いてきたケリー・ライカート監督の作品群の中でも、このキャラクターはまさに彼女の世界観を受け継ぐ存在だ。どこか滑稽な美術館強盗の顛末(てんまつ)を追ううちに、物語は次第に切実さを帯び、観る者の胸に静かに迫ってくる。

アラナ・ハイム、ビル・キャンプ、ホープ・デイヴィス、ジョン・マガロ、ギャビー・ホフマンら実力派がそろった豪華俳優陣も見どころの一つだ。彼らの確かな演技が作品に厚みを与え、本作を忘れがたい一本へと押し上げている。

10.『フランケンシュタイン』

ジェイコブ・エロルディ、Netflix映画『フランケンシュタイン』より 写真:Ken Woroner/Netflix
ジェイコブ・エロルディ、Netflix映画『フランケンシュタイン』より 写真:Ken Woroner/Netflix

ギレルモ・デル・トロのこれまでの歩みは、メアリー・シェリーが1818年に生み出した不朽の名作に向き合うためにあったのではないか――そう感じさせるほど、本作は圧倒的な力で原作を現代によみがえらせる。ゴシックの香りを濃くまといながらも、恐怖表現に偏ることなく、悲劇やロマンス、父と息子のあいだの、引き裂かれるような愛、そして「人間とは何か」という根源的な問いを丁寧に掘り下げていく。

自己愛に満ちた科学者を演じるオスカー・アイザックは、ダンディなロックスターのような存在感で物語を牽引する。一方、ミア・ゴスは、〈怪物〉に静かな共感と愛情を寄せる自由思想の女性を繊細に演じる。そして何より印象的なのが、ジェイコブ・エロルディが演じる〈創造物〉である。不死という逃れられない孤独に目覚めていく存在に、深い哀しみと切実さを宿し、物語の感情の核を形づくっている。

精巧な美術や衣装、細部まで行き届いた演出など、デル・トロならではのクラフツマンシップ(※)も健在である。陶酔的で知的、そして濃密な情感に満ちた本作は、名匠がたどり着いた一つの頂点として、強く心に残る一本となっている。

(※)高い技術力と美意識、そして細部まで妥協しない職人気質を指す言葉である。

フランケンシュタイン』は、Netflixで配信中!

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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