Netflix『モンスターズ:メネンデス兄弟の物語』、兄弟間の近親相姦が描かれた背景は?

『モンスターズ:メネンデス兄弟の物語』 Photo by Kim Kulish/Sygma via Getty Images
『モンスターズ:メネンデス兄弟の物語』 Photo by Kim Kulish/Sygma via Getty Images
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昨年最も視聴されたテレビシリーズのひとつであるライアン・マーフィーのNetflixヒットシリーズ『モンスターズ:メネンデス兄弟の物語』。

同作は、1989年に米ロサンゼルスのビバリーヒルズで両親を殺害したとして有罪判決を受けた兄弟の物語。その中で、この兄弟が実は恋人同士であったという近親相姦をテーマにしたストーリーが批判を浴びた。

事実に根ざした視点の変化を扱う同作で、なぜ兄弟が近親相姦関係にあると描写したのか?シリーズの初めにこの関係性をほのめかし、残りのエピソードを通して描かれているものの、事実に基づいていない。それでも、この描写は実際の出来事に基づいた物語の中で、陪審室の扉の裏で展開された兄弟の物語の一部として現れていた。

1996年に2度の終身刑を宣告された兄弟を刑務所から釈放するための新たな動きが3月20日から法廷で展開される。この一件はカリフォルニアの司法制度を再始動させるきっかけになったとも言える。

しかし、番組の公開時に二人ともこの番組を非難する声明を出した兄弟とその家族にとって苦痛もある。公開書簡の中で、兄エリック・メネンデスは、彼らの人生の物語に近親相姦の暗示を書くことは「下劣でぞっとするような人物描写」であり「がっかりさせるような中傷」であると憤慨した。

これに対してマーフィーは異議を唱え、「メネンデス兄弟は私に花束を贈ってくれるはずだ」とマーフィーは語った。彼のシリーズが公開されて兄弟解放運動が勢いづいている。「彼らは30年間これほど注目されたことがなかった。それが、今はこの国だけでなく世界中で注目されている。彼らの人生と事件には、ある種、溢れんばかりの関心が寄せられている。私の番組と私たちがしたことへの関心のおかげで、多くの人が彼らに協力を申し出てくれたことは事実だ。メネンデス兄弟やその妻、弁護士が「あれは私たちの依頼人の素晴らしい、正確な描写だった」と言うような世界は、私たちが生きている世界ではありえない。そんなことは決して起きないだろうし、私はそんなことが起こることを望んでいなかった」と語っている。

マーフィーは、この番組の脚本を『羅生門』風の視点の寄せ集めと呼んでいる。しかし、この番組でメネンデス家の悲劇を知った人なら誰でも、エリック(兄)とライル(弟)の間に何か親密な関係があったと推測できるだろう。その好例が、第 2 話のホテルでのパーティーシーンだ。ゲストが困惑し、嫌悪感を抱く中、兄弟の1人が割り込んで他の兄弟とダンスをし、キスをする。

近親相姦を暗示するシーン、ビバリーヒルズホテルでのシーンや、キティ・メネンデスが息子たちが一緒にシャワーを浴びているところを目撃するシーン (すべて彼女の思い込みかもしれない) は、彼女の視点ではないエピソードの途中でカットされている。また、番組や裁判の証拠には、彼女が息子たちについてそう考えていたことを示すものは他にはない。この混乱したシーンは、メネンデス家とその支持者たちをマーフィーと番を敵対させるきっかけとなった。

しかし、番組制作に使用されたソース資料の一部を振り返ってみると、大ヒットシリーズにそのような潜在的に中傷的な主張を盛り込むことにいくらか光が当てられる。兄弟が近親相姦と見なされる理由を理解するには、エリック・メネンデスの最初の裁判を掘り下げ、その裁判を担当した陪審員が書いた本を読む必要がある。その裁判は膠着状態に終わり、兄弟は証拠が限られている2回目の合同裁判へと導かれ、2人は刑務所に収監され、仮釈放の可能性はないが2度の終身刑に服すこととなった。 

ヘイゼル・ソーントンは陪審員として7か月間、この事件の詳細を隅々まで聞いた。この裁判は男性6人と女性6人の意見が一致せず、陪審員は意見が割れたまま終了した。女性たちはエリックに過失致死の判決を下し、より軽い判決を下すことを望んだ。彼女は、多くの点で陪審員の考えが性別で分かれていたことを明らかにした。 

彼女は、陪審室での長時間の審議中に詳細な日誌とメモを書き留めていた。審議は男女間の戦いとなり、女性陪審員が団結して男性陪審員に身体的および精神的虐待の心理を理解させようとしていたとも記していた。

「日記だったんです」とソーントンは米『ハリウッド・レポーター』紙に電話で語った。「裁判中は誰とも話すことが許されなかったので、日記をつけていたんです。裁判官は毎日、裁判の詳細を誰とも話さないようにと私たちに忠告していました。だから、日記をつけることが裁判のストレスに対処する私の方法だったんです。誰にも見られないようにするつもりでした」 

しかし、出版社からの強引な説得により、彼女の日記はすぐに書籍として出版された。ソーントン氏は、残忍な犯罪の詳細を彼女の日記に加えるという提案に抵抗しなければならなかったと語る。

「これは学術的なもののようなものです」と彼女は出版した本について語った。「ジャーナルをそのままの形で欲しいか、欲しくないかのどちらかです。」

この日記は、1993 年にエリックの裁判で陪審員が行った長い審議を記録したものだ。ソーントンの記憶によると、この審議の1か月は被告の性的指向をめぐって争われたという。これは、ロサンゼルス郡副地方検事が最終弁論で、エリック・メネンデスは同性愛者であることを隠しており、ビバリーヒルズの自宅では父親による長年の性的虐待ではなく、彼の性的指向がタブー視され、緊張が高まり両親に銃弾が向けられたためだと示唆したためである。

1993年当時、同性愛は今ほど受け入れられていなかった。キティ・メネンデスが「同性愛は死ぬよりも悪いことのように言った」とエリックが証言し、数か月の期限を彼に与えてガールフレンドを見つけるように命じ、エリックがそれに従った理由を物語っている。

ソーントンの記録によると、エリックの性的指向は非常に大きな話題だったため、陪審員が熟考する中で「ゲイ」という言葉を使った証言の記録がすべて要求され、要求されると憶測が飛び交った。しかし、ソーントンは米『ハリウッド・レポーター』に、議論は検察側のエリックのゲイという主張にのみ集中し、エリックがゲイでライルと性的関係を持っていたかどうかには触れなかったと語っている。少年時代にライルがエリックを性的に虐待した事件(被害者にはよくあること)についての証言があっても、男女に分かれた評決では最終的にどちらの側も譲らなかった。  

しかし、ソーントンのメモには、マーフィーがメネンデス兄弟と彼らの密室での将来の関係についてわいせつな意見を述べるきっかけとなったと思われる一文が含まれている。メモの最後にあるソーントンの「!!!」という感嘆符は、その提案のばかばかしさを示しているようだ。

「彼らはエリックがゲイだと思っているので、彼は同性愛行為を説明できるのです。フィルは、キティが『ずっと前から知っていた』のはエリックがゲイだということだと思います。エリックとライルは『関係を持っていた』男性は1人以上います!!!」とソーントンは書いた。

エリック・メネンデスの性的嗜好を仮定した陪審員によるメモ
ソーントンによるメモ

ソーントンによるエリック・メネンデスの性的指向を大胆に仮定したメモは、ライアン・マーフィーと脚本家のイアン・ブレナンが作品中で描いた小さなきっかけに見えるかもしれない。しかし、この近親相姦の仮説は、ロバート・ランドによって強調された。同氏はこの兄弟に関する『The Menendez Murders: The Shocking Untold Story of the Menendez Family and the Killings that Stunned the Nation(原題)』の著者であり、テレビシリーズ『Menendez + Menudo: Boys Betrayed(原題)』のプロデューサーでもる。ソーントンが記したこの仮説は、メネンデスの物語の決定的な記録となった本の中でも繰り返されている。

米『ハリウッド・レポーター』はマーフィーにコメントを求めたが、火曜日の時点で返信はなかった。

モンスターズ:ライルとエリック・メネンデス物語』での表現がメネンデス兄弟、その家族、新たに見つけたファン、そしてチーム・マーフィーの間に引き起こした亀裂は明らかだ。謝罪はなされていないし、謝罪を受け取る見込みもない。このシリーズが兄弟の釈放の法的希望に及ぼした影響は、3月10日にの裁判で部分的に明らかになると見られる。一方、ソーントンは、マーフィーのシリーズを一度も見たことがなく、今後も見るつもりはないと言う。

ソーントンは「真実の詳細をすべて盛り込むのはひどい話です。わいせつにするために、そのようなことを付け加える必要はありません。彼らの事件が再調査され、多くの人が初めてその事件を知ることになる時期に、このようなことをするのははひどい行為だと思います」と語った。

※本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら

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