『ゼロデイ』レビュー:ロバート・デ・ニーロ他、豪華キャストが無駄に

『ゼロデイ』ロバート・デ・ニーロ Jojo Whilden/Netflix Logo text
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Netflixで配信が開始した6話構成の政治スリラー『ゼロデイ』を米評論家がレビュー。

ロバート・デ・ニーロ演じるジョージ・マレン元大統領は政治の世界から身を引き、現在は大きな邸宅で悠々自適な生活を送っていた。 そんなある日、大規模なサイバー攻撃が起きてアメリカ中の通信インフラがハッキングされ、公共交通機関の事故で全米で多数の死者が出る。たった一瞬の「ゼロデイ攻撃」をきっかけにストーリーが展開されていく。

この作品の中心となる危機的状況は、見覚えのある光景だった。Netflixの『ザ・リクルート』の主人公オーウェン・ヘンドリックス、または『ナイト・エージェント』の主人公ピーター・サザーランドの助けを借りれば、どれほど効率的に解決できるかを考えてしまうものだった。

最近のNetflixの政治スリラーは、同社のコンパクトな配信スケジュールによって、作品の区別がつかなくなっている。『ザ・ディプロマット』はこのグループの中で最も優れているので割愛する。『ザ・リクルート』は馬鹿げた作品だが、その不条理さを無謀かつスピーディーに突き進む姿勢には好感が持てる。『ザ・ナイト・エージェント』はもっとシリアスだが、クリエイターのショーン・ライアンには優れた編集感覚があり、作品を引き締めてテンポよく進める力があった。

『ゼロデイ』
総評:「ゼロ」ではないが、ヒーローには程遠い。
配信開始日:2月20日(木)
キャストロバート・デ・ニーロジョーン・アレン、リジー・キャプラン、ジェシー・プレモンス
クリエイター:エリック・ニューマン、ノア・オッペンハイム、マイケル・シュミット

『ゼロデイ』は、否応なく豪華なキャストを揃えながら、非現実的な物語を、極めてシリアスでリアルなものとして受け入れさせようとしている。キャストの力があるため観る価値はあるものの、「この人たち、一体なぜここにいるの?」という好奇心以上に引き込まれる要素は少ない。

ロバート・デ・ニーロが演じる、元無党派大統領のジョージ・マレンは、対立を超えて協力できる最後の大統領として知られている。ただし、本作では「民主党」や「共和党」といった言葉が一切登場しないため、その「対立」が何を指すのかは曖昧なままだ。また、彼は再選に出馬しなかったものの、その理由は謎に包まれている。

マレンの退任後の生活は退屈そのもの。朝起きて、リピトールを飲み、泳ぎ、走り、大統領の日報を読み、執務室で回顧録の執筆に苦戦する。妻のシーラ(ジョーン・アレン)は判事を目指しているが、登場は少ない。疎遠な娘アレクサンドラ(リジー・キャプラン)は、ニューヨークの実在の政治家に似ているが、それは偶然ではない。

そんな日常が一変するのは、ある日の午後。突然、全国の電力がダウンし、飛行機が墜落し、セキュリティシステムが無効化され、アメリカ全土が一時的に混乱に陥る。 ただし、それはわずか1分間の出来事だった。しかし、全国民のスマホに届いた警告メッセージに「これはまた起こる」と書かれていた。

このサイバー攻撃「ゼロデイ攻撃」により数千人が死亡し、数百万の人々が恐怖に陥る。この事態を受けて、無党派の現大統領イブリン・ミッチェル(アンジェラ・バセット)と、無党派の下院議長リチャード・ドライヤー(マシュー・モディーン)は、「二度と起こさせない」 ための調査委員会を設立する。

そして、アメリカ国民が唯一信頼できる人物として選ばれたのがマレンだった。
しかし、彼は「マルウェア」と「MalcWear(マルコム・グラッドウェルが9,999時間かけて開発した新しいアパレルブランド)」の違いさえ分からないような男である。にもかかわらず、彼には調査のためのほぼ無制限の権限が与えられ、憲法さえも無視できる立場になってしまう。

しかも、ミッチェル大統領をはじめ、誰も知らない事実があった。
マレンは現実と折り合いをつけられなくなっており、記憶の抜け落ちや幻聴に悩まされている。 その理由は作中半ばで簡単に説明される程度だ。

そして、このサイバー攻撃の背後には陰謀がある。
ネタバレ回避のため詳細は伏せるがその陰謀は 「最底辺」ではない。

本作は「現実に即している」と思わせたいようだが、実際そう思えるレベルではない。
登場人物のほとんどには明確な実在モデルが存在する。視聴者が「これは○○のことだな」と気付くたびに、作品はまるで「よく分かったね」とでも言いたげな態度を取る。しかし、ロシアや愛国者法への言及以上の深い考察はない。もし、本作を通して現代アメリカの政治的分断やテクノロジー依存の問題、自由を一時的に手放すリスクについての一貫したテーマを見つけようとすると、軽い脳卒中を起こしかねない。
まるで米『ニューヨーク・タイムズ』のオピニオン欄を映像化したような、「ほんの少し左寄りの中道主義」である。

監督のレスリー・リンカ・グラッターが全6話を手がけているため、ビジュアル面は優れている。しかし、物語のペース配分が妙だ。作中では「ゼロデイから○日後」といったテロップが頻繁に表示され、まるで時間との戦いを演出しようとしている。しかし、登場人物たちは瞬間移動でもしているのかと思うほど、場所を行ったり来たりする。唯一、緊迫感のあるシーンが1つあるが、全体的にはミステリーとしての要素が弱い。

主演のロバート・デ・ニーロの演技は、マレンの精神不安定さを表現する場面など興味深い瞬間が多い。しかし、リジー・キャプラン、ジェシー・プレモンス、ジョーン・アレンら豪華キャストとのコラボレーション要素が希薄だ。

物語の結末は「続編が作れるように」開かれた形になっている。これだけのキャストが集まった以上、成功する可能性はある。しかし、現代アメリカの現状を描いた作品としては、決して「続編を作るべき」と思えるほどの力強さは感じられない。

「リアルだと気付いていないのが問題」と擁護する声もあるかもしれない。
だが、「リアルだから良い作品」とは限らない。良い作品とは、「上手く語られた物語」だと考える。

※本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら

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