「ジョン・レノン VS ニクソン」を想起させる、トランプのスプリングスティーン攻撃

2025年5月、ドナルド・トランプ米大統領が、ロック界の大御所ブルース・スプリングスティーンを激しく非難し、再び音楽と政治が交差する「文化戦争」が注目されている。
トランプ大統領は、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」にて、スプリングスティーンを「干からびたプルーンのようなロッカー」と侮辱し、「彼がアメリカに戻ってきたとき、どうなるか見ていよう」と不穏なメッセージを投稿した。
思い出されるジョン・レノン追放騒動
この騒動は、1970年代にリチャード・ニクソン大統領がジョン・レノンに行った政治的弾圧を想起させる。ニクソン政権は、自身の再選に異を唱えたジョン・レノンを国外追放しようと試みた。対象となったのは、彼の過去の大麻所持による有罪判決であり、これはあくまで口実であったと広く認識されている。
当時、ジョン・レノンはニューヨークに在住し、アメリカの急進左派と連携して活動を行っていた。これに対し、ニクソン政権はFBIを動員し、監視を開始。ジョン・レノンは標的となり、音楽で反撃を試みた。1971年、ジョン・レノンは楽曲「Gimme Some Truth」を通じて、当時のニクソン政権に対する強い不信感と怒りを表明した。
最終的に1975年、連邦裁判所はこの国外追放を「秘密の政治的動機による選択的な措置」として退けた。しかし、それまでの間にジョン・レノンの活動は大きく制限され、政治的な影響力はほとんど奪われていた。
歴史は繰り返すのか?
この出来事は、トランプ大統領による今回のスプリングスティーンへの攻撃と重なる点が多い。5月14日、スプリングスティーンはイギリス・マンチェスターでの公演中、「私が愛するアメリカは、今や腐敗し、無能で、反逆的な政権に握られている」と発言。
これに対し、トランプ氏はSNSで即座に反応し、彼の外見、音楽、政治的立場、知性までを侮辱。「石のように愚か」と表現し、「アメリカ帰国後が楽しみだ」と不気味な警告を発した。
その後、トランプ大統領は批判の矛先をビヨンセ、オプラ・ウィンフリー、U2ボノにも広げ、「彼らはカマラ・ハリス陣営から違法な選挙資金を受け取った」と主張した。しかし、『ローリング・ストーン』誌の調査によれば、これらの支払いは正規の手続きを経ており、アーティストのプロダクション会社に対して報酬が支払われていた。法的には問題は確認されていない。
SNS時代の圧力装置
1970年代のニクソン政権も、同様に事実を無視し、政治的な敵を排除しようとした。ジョン・レノンの名前こそ「政敵リスト」にはなかったが、彼は間違いなく標的とされていた。トランプ大統領は、その手法を現代のSNS時代にアップデートし、「秘密のメモ」ではなく「拡声器的ツイート」で圧力をかけている。
音楽を通じて社会に問題提起を行うアーティストたちが、政治権力からの圧力を受けるという構図は、過去と現在を繋ぐ警鐘である。今後、こうした批判的アーティストたちに対し、召喚状、ビザ取消、税務調査といったさらなる報復措置が取られる可能性は否定できない。アメリカにおける表現の自由と権力の関係が、改めて問われている。
※この記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら。
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