【THRJ独占インタビュー】 ソウジ・アライ「在日という存在を世界に知ってほしい」―『Pachinko』『TOKYO VICE』などに出演
『Pachinko パチンコ』や『TOKYO VICE』など、世界的に話題の作品に出演し、注目を集めているソウジ・アライ。在日コリアン3世として生まれ育ち、日本での俳優経験を経てハリウッドに進出。自身のルーツを大切にしながら、ハリウッドでの新たな挑戦に立ち向かう姿勢が、彼の演技と存在感に深みを与えている。
本インタビューでは、アライのこれまでの経歴と、『Pachinko パチンコ』に対する思い、在日コリアンとしてのアイデンティティ、世界的な作品で自分のルーツを表現する喜びと責任についてじっくり話を聞いた。
───── まず、日本のハリウッドリポーターの読者の皆さんに簡単な自己紹介と、日本とハリウッドでの経歴について教えてください。
俳優のソウジ・アライです。最近では『Pachinko パチンコ』シーズン2のオープニングを控えています。『TOKYO VICE』シーズン2が最近終了し、今撮影中なのはフランスのCanal+が制作する『Sud Est Babylone』というシリーズで、主人公の一人でヒロインの恋人役を演じています。
簡単な経歴ですが、早稲田大学商学部を卒業した後、唐突に俳優を始めました。文学座附属演劇研究所で本科を終えて研修生の最中に、ロバート・アラン・アッカーマンという世界的な舞台演出家に出会い、主役に抜擢されて舞台俳優としてプロデビューしました。それ以降、日本で舞台、テレビ、映画作品に出演しながら、ずっとアメリカ行きの機会を伺っていました。
2012年に完全にアメリカに引っ越し、そこからはハリウッドのドラマや、たまに舞台をやったり、短編映画を作ったりしながら活動しています。
───── ユニークなキャリアをお持ちですが、日本の業界から転身してハリウッドでキャリアを積み上げたことについて、日本の業界とハリウッドの違いや、これまで経験してきた挑戦などについて教えてください。
もともと私がプロデビューした際に一緒に働いたロバート・アッカーマンがアメリカ人だったことや、俳優を始める前から好きだったのも洋画が中心だったということがきっかけでした。演技や俳優に関して、ずっと意識していたのはヨーロッパやアメリカの映画でしたね。
また、在日コリアン3世として生まれた背景も、外国人の演出家やプロデューサーと響き合うところが多かったのだと思います。日本の中にいるよりも海外にいる方が評価してくれる、こちらも響き合うものがあるという感じでした。それが他の人にはないユニークさだったのでしょう。
難しかったのは、早稲田大学卒業後、しばらく本名のパク・ソヒで活動し、アメリカではソヒ・パークという名前で活動していたことです。アメリカ人からすると、韓国名なのに日本語しか話せない変な存在、日本にいると異邦人、韓国にいても韓国語が話せないので偽物扱いされる。どこにいてもアウトサイダーでした。
私は日本人俳優でも韓国人俳優でもなく、合間に隠れてしまう存在です。なので、必死で自分でアンテナを張り、友人たちのサポートを借りて、彼らが推薦してくれたり、自分で見つけたりして何とかつながっています。
───── 『Pachinko パチンコ』などのハリウッド作品で、在日コリアンとしてのルーツをリプレゼンテーションすることの意味や、ご自身の思いについて教えてください。
今、アメリカではAAPI(アジア・太平洋諸島系アメリカ人)のムーブメントがあって、アジア系・太平洋諸島系の人たちが、自分たちの存在をハリウッドでアピールしています。その流れの一環として『Pachinko パチンコ』が制作されました。
シーズン1のプレミアは、ロサンゼルスの新しいアカデミー賞ミュージアムで大きなイベントがあり、レッドカーペットにはアメリカ中のAAPIの方々が集まってくれました。また、ナタリー・ポートマンなど、ハリウッドの有名俳優たちも祝福に来てくれました。
在日を扱った『Pachinko パチンコ』シリーズの中で、実際に在日のルーツを持つ俳優が在日の役を演じているのは私だけです。それは喜びでもあり、プレッシャーでもあります。実は、キャリアで最大の問題にも直面しています。
───── ご自身の「キャリア最大の問題」というのは、どういったことでしょうか?
アメリカにおけるAAPIムーブメントの中で、コリアン・アメリカン(韓国系アメリカ人)は大きな一部です。しかし、在日コリアンはその文脈とはまた少し異なります。『Pachinko パチンコ』はコリアン・アメリカンとコリアン(韓国人)の文脈で作られているので、在日の問題はさらに深いレイヤーにあるんです。
在日コリアンの当事者として思うことはたくさんありますが、私は作品の一部でもあり、AAPIムーブメントの一員でもあるので、その運動に水を差したくないし、ストップもかけたくない。そこがすごく難しいところです。
例えば、制作チームに在日の方がいないことが問題であったり。私としては、チームに一人でも二人でも入ってくれたら嬉しいと思っています。
───── ご自身のインスタグラムで「在日アメリカン」という表現をされていましたが、この表現について少し説明していただけますか?
在日コリアンだったのが、アメリカに渡って日本に住んでいないので、これはアメリカンなのか?と思ったんです。英語の辞書に「在日」という言葉が載れば、世界からの認知も広がる。そんな願いも込めて、「在日アメリカン」という表現を使っています。
───── 『Pachinko パチンコ』シリーズは日本のメディアではあまり大きく取り上げられていないような気がしますが、このことについてどう感じていますか?
そうなんです。アメリカや韓国ではプロモーションをしているのに、日本ではあまり知られていません。韓国の俳優は『Pachinko パチンコ』出演をきっかけに韓国でも活躍し、日本人俳優も日本で羽ばたいています。でも私は韓国で活動するわけでもなく、日本でも今のところ何かあるわけではないので、そこは少し悩んでいます。
ただ、このドラマのおかげで、私がずっと自分のアイデンティティと結びつけてきた「在日」という存在が世界に知られたのは確かです。シリーズが続く限り、そのチャンスはもっと大きくなっていくので、プラスもマイナスも全部ひっくるめて、責任を持って楽しみながら演じていこうと思っています。
───── 『Pachinko パチンコ』でのモーザス役の役作りと、シーズン2の見所について教えていただけますか?
モーザスは在日2世の役です。在日の1世、2世、3世にはそれぞれ特徴があります。1世は渡日して差別や貧困と戦いましたが、自分のルーツを覚えていました。3世はアメリカンスクールに行って国際的に活躍しています。
2世のモーザスの世代は、生まれた時から2つの名前があり、自分たちのアイデンティティを奪ったのは歴史だけではなく、親でもあるんです。在日2世である私の父親の世代は、在日の民権運動でアクティビストとして活動し、アイデンティティに関して葛藤と熱い思いがあった世代です。
役作りには、父や父の友人たち、在日2世の人々の生き様を参考にしました。彼らは私にとって、どんな映画やドラマのキャラクターよりも面白かったです。
シーズン2の見所は、時代が進んで戦争終盤から戦後も描かれ、2世のノアとモーザスがより中心的に描かれることです。
─────『Pachinko パチンコ』や『TOKYO VICE』などの作品が世界中で人気を集めていることについて、どのように感じていますか?これはハリウッドにおけるポジティブな変化と言えるでしょうか?
確実に状況は変わってきていると感じます。以前は、アジア人俳優が主要な役を演じることは稀でしたが、今では多人種カップルや多人種グループのストーリーが増え、必ずアジア人のキャラクターが入るようになってきました。
例えば、『コブラ会』や 『TOKYO VICE』は世界中で人気です。韓流ドラマファンも世界中にいて、声をかけていただくことが増えました。状況は確実に変わってきていると思います。
───── 最後に、日本からハリウッドに渡り活躍する先駆者として、世界の舞台を目指している若手の在日コリアンのタレントや日本人のタレントへメッセージをお願いします。
最近、若い俳優の方々とよく話す機会があります。海外作品に出たい、チャレンジしたいという方が多い印象です。でも私は、「海外作品」というラベルをあまり考えたことがありません。自分の中で制限をつけるよりも、やりたいと思ったらブレーキをかけずにそちらに行くことが大切だと思います。
海外作品は期間が長かったりするので、日本の俳優にとってはスケジュール調整が大変かもしれません。でも、環境や経験としては全く違うことが学べると思うので、是非みなさんに挑戦してほしいです。
今は、自分のルーツをオープンに話せる時代になってきています。様々なチャンスがこれからも日本に開かれてくると思うので、言葉を勉強しつつ、コンテンツを作りながら、挑戦し続けてほしいです。
私も引き続き、そうするつもりです。
取材・記事 The Hollywood Reporter Japan 山口 京香 / Kai Yamaguchi
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