なぜ今?ガブリエル・マクトが語る、ドラマ『SUITS/スーツ』ハーヴィー役への復帰理由と再ブーム【インタビュー】

ドラマ『Suits LA』のガブリエル・マクト 写真:Nicole Weingart/NBC
ドラマ『Suits LA』のガブリエル・マクト 写真:Nicole Weingart/NBC
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2019年、リーガルドラマ『SUITS/スーツ』で9シーズンにわたる出演を終えたガブリエル・マクトは、家族と過ごす時間や子育てに集中するため、意図的に俳優業から距離を置いた。そして月日が経つにつれ、徐々に自身の人生に大きな影響を与え、国際的な名声をもたらしたキャラクター、“ハーヴィー・スペクター”から脱却することができたと感じていた。

しかし2023年の夏、ハリウッドで俳優・脚本家のストライキが続く中、Netflixがアメリカ国内における『SUITS/スーツ』の共同配信権を取得。米ニールセンの調査によれば、同年末までに同作は累計577億分以上視聴され、配信サービスによって取得された作品として史上最多の視聴時間を記録するに至った。

『SUITS/スーツ』は、カリスマ的な弁護士ハーヴィーが、天才的な頭脳を持つ大学中退者マイク(パトリック・J・アダムス)をアソシエイトとして雇う決断、そしてその違法行為を隠し通す長きにわたる嘘とその代償を描いた作品だ。

そして現在、アメリカでは西海岸を舞台とする新たなスピンオフ作品『Suits LA』が放送中。マクトは13話構成となる新シリーズのうち3話に出演し、新たな主人公テッド・ブラック(スティーヴン・アメル)とのストーリーが描かれている。

現在はウイスキー事業にも着手しているというマクトが、米『ハリウッド・リポーター』に対し、ドラマへの復帰理由や再ブームへの思い、ハーヴィーとマイクの関係性などについて語った。

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――――――『SUITS/スーツ』は9シーズンにわたる放送期間中に大ヒットを記録しましたが、このたび再びブームが起きたことについてどのように受け止めていますか?またハーヴィーの再登場について、クリエイターのアーロン・コーシュとどのような会話を交わしましたか?

視聴回数やダウンロード数、そしてファンの熱意にはただただ圧倒されています。これまでに全134話を何度も観たという人々にも実際に会いました。この再ブームは、TikTokやInstagramとのつながりによって生まれた部分が大きいと考えています。これらのアプリによって、新しい世代がハーヴィーの名言やウィットに富んだ会話に触れ、「この番組は何だ?」とNetflixで探し始めたと思うんです。こうした流れが爆発的人気につながったのです。異なるプラットフォームが、いかにして広範囲な注目を集めるのかを見るのは非常に興味深いですね。

初放送のときから僕たちの作品は大ヒットを記録していて、世界中の配信プラットフォームでも安定した人気を得ていました。それが再び注目を集めるというのは驚きで、「これはすごいことだ」と実感しました。個人的にも、多くの機会をもたらしてくれたことは本当にありがたいことですね。そんな中で、アーロンが「このユニバースを拡張する構想があり、旧キャストの数名が登場するかもしれない。君も興味はあるか?」と言ってくれました。僕は、「物語やキャラクターたちはすでにうまく完結させたと思うし、ファンの期待にも応えられたと感じている」と返した上で、「もう少し詳細を教えてほしい」と伝えました。

アーロンは、「主人公がかつてハーヴィーと友人だったという設定にできる。いくつかの出来事があって、君のスケジュールにも合う形で出演を検討してくれないか」と話してくれたんです。その提案を現実的なものと受け止めた僕は、『Suits LA』という新たな場所に思いを馳せ、「これだけハーヴィーを求めてくれているファンのために、何かを返せるかもしれない」と思いました。僕の方法でこの作品を支え、視聴者を呼び込むことができるなら、バトンを渡す素晴らしい形になるのではないかと感じました。こうして全てが実現し、制作側も家族との時間とのバランスが取れるように配慮してくれたのです。そして、今に至ります。

スティーヴン・アメル、ガブリエル・マクト、『Suits LA』写真:Nicole Weingart/NBC
スティーヴン・アメル、ガブリエル・マクト、『Suits LA』写真:Nicole Weingart/NBC

――――――オリジナルシリーズでは全134話を通じて、ハーヴィーのあらゆる側面を掘り下げてきました。今回久しぶりに彼を演じることで、新たに見出した面はありますか?

これは1週間半かけて答えたいほど奥深い質問ですね。率直に言えば、俳優としての自分の役割はショーランナーのビジョンに従い、そのキャラクター像を広げていくことにあります。そして、監督や他の俳優たちと協力しながらある程度の即興性を持ちつつ、選択肢を絞り込みすぎることなく、演じながら魔法のような瞬間を生み出すことが求められるのです。僕は、そのような姿勢でこのキャラクターに取り組んでいました。

シリーズが始まった当初、僕はこのキャラクターとはまったく異なる人間でした。しかし物語が進むにつれ、行動面において僕はあまりにも彼に似てきてしまった。ハーヴィーの中にあったいくつかの特徴は、自分自身にとっては必ずしも健全とは言えない方向に作用した部分もあったんです。しかしそれが「キャラクター」である以上、僕は彼を正しく演じたいと思いました。

時を経て、現在の時間軸におけるハーヴィーは、かつてのように自己主張を通そうとする未熟な少年ではなく、より成熟して賢明になっていると感じます。僕自身も、感情的な面でより良い状態にあると感じているし、ハーヴィーもまた同様にそうであると思っています。

――――――公開されている舞台裏写真からは、ハーヴィーがドナ(サラ・ラファティ)と結婚生活を続けていることもうかがえます。今後、現在のハーヴィーの生活についてどれほど描かれますか?

いくつかの場面で、彼の現在の生活を反映するような描写があるはずです。視聴者は、それを見て心温まる気持ちになるだろうと感じています(笑)。きっと楽しんでもらえるし、ファンが求めているものがそこにあると思います。特別な瞬間もいくつか含まれていますよ。

――――――本作の成功の大きな理由は、これまでテレビではあまり見られなかったハーヴィーとマイクの親密な友情にありました。スクリーン内外でのパトリックとの関係性はどのように築かれたのでしょうか?

師と弟子という関係性に、視聴者は惹かれるのだと思います。指導者が真実を語り、若者に力を与える様子は非常に感動的です。また、若い側が年長者に何かを教える場面にも意味があります。マイクは、ハーヴィーが自分では気づけなかった多くのことを教えてくれたのです。2人はたくさんの失敗を重ねていきますが、人間は誰しも過ちを犯します。重要なのは、キャラクターたちが自分の過ちに責任を持ち、それを正そうと努力している点にあるのです。

そして最も共感を呼ぶポイントは、彼らが本質的には思いやりを持っているということです。たとえ、やり方が少しずれていたり、時に操作的であったとしても、それがドラマとしての見どころになっています。しかし根底には、正しいことをしようとする気持ちがあります。また、互いに軽口を叩き合い、冗談交じりにけなし合う――ただ相手を貶めたり、見下したりするのではなく、対等な関係で張り合う――そのかけ合いを観るのが好きなのでしょう。彼らは、常に一枚上手に出ようとしていました。その化学反応が視聴者にとって魅力的に映り、パトリックと僕の間にはそれが現場でも実生活でも自然に存在していました。

――――――ハーヴィー・スペクターは、『ザ・ソプラノズ』のトニー・ソプラノや『ブレイキング・バッド』のウォルター・ホワイトといった他の強烈な男性アンチヒーローたちと並び、文化的アイコンとなった存在です。俳優のジョン・ハムは昨年、こうしたタイプの男性キャラクターがしばしば特定の層から「男らしさの模範」と見なされ、「間違った理由」で称賛されていると語っています。本作におけるハーヴィーの「男らしさ」の描き方について、どのようにアプローチしましたか?そして、彼がポップカルチャーの中で、良くも悪くも「男らしさの象徴」として持ち上げられていることについて、どう感じていますか?

非常に良い問いですね。彼(ジョン・ハム)の指摘は、完全に正しいです。これらのキャラクターたちは、テレビドラマを通じて社会に強い影響を与えてきましたが、自分はハーヴィーが放つ有害な男性性を肯定するつもりは一切ありません。また、彼が常に賞賛されたいと願う自己愛的な欲求を称賛する気もありません。ハーヴィーは、実際のところ不安や脆さ、見捨てられることへの恐れ、そして父権的で利己的な「上に立ち、すべてを支配したい」という欲求に満ちています。これらすべては、いわば女性蔑視的なくだらない思考の産物であると考えています。

若い世代の男性たちの中には、そういった表面的な要素を真似し、「それがカッコいい」「社会に影響を与える方法だ」と誤って信じてしまう者もいます。しかし、実際に人々がハーヴィーに惹かれるのは、彼の「脆さ」や「他者への思いやり」にこそあるのだと思います。彼が自分の傲慢さに気づいたとき、自己を見つめ直して感情と向き合うとき、すべての人間に対して「対等であろう」とし、「自分たちがどこで間違っているのかを理解し、誠実さと優しさを持って変えていこう」とするのです。最終的に、彼の行動の根底にはそういった価値観が流れています。

ジョン・ハムの言う通り、こうしたキャラクターたちはしばしば操作的で、時に攻撃的で、社会にとって望ましい存在ではありません。残念ながら、僕たち視聴者も時にそれに気づかず、表層だけを見て称賛してしまいます。僕たちは、物語の奥にあるものに目を向けなければならない。そうしなければ、誤った方向へと進み続けてしまう危険性があるのです。

ガブリエル・マクト、『Suits LA』写真:Nicole Weingart/NBC
ガブリエル・マクト、『Suits LA』写真:Nicole Weingart/NBC

――――――あなたは現在、ウイスキービジネスにも携わっています。将来的にハーヴィーを再び演じる可能性はどの程度ありますか?それとも今回の短い登場が、自分にとってハーヴィーと向き合う最良の形だったと感じていますか?

今回の復帰は正しい判断であり、そして今はそれを終えるにも適切なタイミングであると感じています。自分の役割は『Suits LA』へバトンを渡すことでしたが、作品はすでにしっかりと動き出していて、チームも非常に優秀です。良質な脚本、魅力的なストーリーが揃っているし、ファンも視聴を続けてくれるでしょう。自分がもう一度登場する必要はないと思っています。もっとも、「絶対にない」とは言えません。もし意味のある形での機会が訪れたなら、検討する余地はあります。ただし自分には今、色々な興味や取り組んでいるプロジェクトがあるのです。

今、最も情熱を注いでいるのは「ベアファイト・ウイスキー(Bear Fight Whiskey)」というブランドで、そのプロジェクトを通じて「自分の“ベアファイト”とは何か?」という小さな物語を紡いでいきたいと考えています。誰にでも、大きなトラウマや小さなストレス、あるいは日常の中の挑戦があります。「今週はギターをまったく触っていない。やらなきゃと思っていたけど予定にも入れていなかったし、気づけば忘れていた。だから来週はスケジュールボードに書き込んで、ギターを練習する時間をつくろう」――そして、1日の終わりに「今日はギターを弾いたぞ、自分と向き合って、ちゃんと取り組めた。その瞬間をベアファイトの一杯で祝おう」と言えます。そういう会話が生まれてくれたら嬉しいですね。それが今の自分の情熱の中心となっています。

仮にアーロンが再び「もう1回やらないか?」と声をかけてくれたら、受け入れる用意はあります。しかし今は、短編的な物語の制作に集中したいですね。そして何よりも、家族と過ごす時間を大切にしたいと考えています。

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※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌

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