「ザ・ニュー・アベンジャーズ」考察:『サンダーボルツ*』が切り開くMCUの新たな境地と予想を超えた挑戦

予想外の展開がもたらすMCUの変革
ジェイク・シュライアー監督による『サンダーボルツ*』は、多くの観客に衝撃を与えた。その衝撃は単に映画のタイトルの真相だけでなく、従来のMCU作品から脱却した型破りな内容にある。近年マーベル作品に厳しい目を向けてきた批評家たちからも高い評価を受け、MCUの今後の展開に新たな道筋を示している。
終わりと復活を超えて
「マーベルは終わった!」「マーベルは復活した!」という極端な宣言が繰り返されてきたが、どちらも真実ではない。マーベルは単に存在し続けているのである。長期にわたるすべてのフランチャイズと同様に、コミックスをベースとするMCUにも高低の波がある。これは2008年の『アイアンマン』成功と『インクレディブル・ハルク』の淡泊な反応から始まり、その後も続いてきた当然の現象である。
「ザ・ニュー・アベンジャーズ」の登場:期待を覆す新チーム
映画の終盤で明かされるサンダーボルツの真の名称「ザ・ニュー・アベンジャーズ」は、『エンドゲーム』以降バラバラになっていたMCUヒーローたちに連帯感を取り戻させる重要な転機となっている。
このチームがコミックス版と同じメンバー構成でないことは問題ではない。むしろ、現状を打破し、キャプテン・アメリカ(アンソニー・マッキー)のアベンジャーズ再編に新たな波紋を投げかけることで、『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』への期待をより高めているのである。
コミックス『ザ・ニュー・アベンジャーズ』との比較
現在マーベル・コミックス史の名作と評価される『ザ・ニュー・アベンジャーズ』(2004年)も、当初はファンを驚かせるメンバー構成だった。キャプテン・アメリカやアイアンマンといった定番キャラクターに加え、ルーク・ケイジ、スパイダーウーマン、エコー、スパイダーマン、ウルヴァリン、セントリーというチームは従来の枠を超えていた。ウルヴァリンのX-MENとの関連性やスパイダーマンの単独ヒーローとしてのイメージから、両者の加入は特に意外性があった。
このように予想外のラインナップが、作家ベンディスにキャラクターの新たな側面を引き出し、マーベル・コミックスの黄金期を築く要因となったのである。強いビジョンがあれば、ファンの要望よりも物語の必要性を優先することが可能になる。
『サンダーボルツ*』誕生の背景と懸念
2022年にマーベルの『サンダーボルツ*』が発表された際、多くのファンは懸念を示した。当時のジェイク・シュライアー監督はまだ『ビーフ』(2023年)で評価を確立しておらず、大規模VFX映画の経験に乏しい監督の起用は疑問視された。
さらに、レッド・ハルクやデッドプール、パニッシャー、ソングバードなどのコミックス版メンバーの不在や、創設者バロン・ゼモの欠如に対する不満も大きかった。多くのファンは、これが名前だけの『サンダーボルツ*』であり、実質的には『スーサイド・スクワッド』の模倣になるのではないかと懸念していた。
予想を超える『サンダーボルツ*』の実態
実際には『サンダーボルツ*』は確かに一種の『スーサイド・スクワッド』である。しかし、DCコミックスの『タスク・フォースX』と決定的に異なるのは、チームメンバーを結びつけるものが物理的強制ではなく、精神的苦悩と相互依存関係であるという点だ。
イェレナ・ベロワ(フローレンス・ピュー)、バッキー・バーンズ(セバスチャン・スタン)、レッド・ガーディアン(デヴィッド・ハーバー)、ジョン・ウォーカー(ワイアット・ラッセル)、ゴースト(ハンナ・ジョン=カメン)、ボブ(ルイス・プルマン)からなるチームは、それぞれがうつ病、PTSD、自殺念慮などの精神的課題を抱えている。
心理的深層に切り込む勇気ある描写
映画の冒頭から、どのキャラクターも長くは生きられないという暗い予感が漂う。タスクマスター(オルガ・クリレンコ)の早期死亡は、彼らの運命を象徴している。『ブラック・ウィドウ』(2021年)で解放されたにもかかわらず、彼女はプログラミングから解放された後も暗殺者としての生き方しか知らなかったのだ。
この死が単なる衝撃や他キャラクターへの影響のためではなく、彼らの選んだ人生と未来の可能性の欠如を象徴している点が重要である。MCU作品が各キャラクターの精神的苦悩をここまで誠実に描いたのは画期的だ。
「虚無」との対峙:精神的苦悩の物理的具現化
全登場人物が感じる「虚無」は、ボブがセントリーとなり、その二次的人格「ヴォイド」がニューヨーク市に解き放たれた時に物理的形態を取る。しかし個々のキャラクターにとっての「虚無」は、イェレナが酒で悪行の記憶を押し流そうとすることから、ジョン・ウォーカーが家族を遠ざけ自分の不適格感を過剰補償しようとすることまで、様々な形で表れている。
ユーモアを交えながらも、これらのキャラクターが個人的にも集団的にも抱える重みを軽視することなく描く手腕は見事である。
精神的苦悩への向き合い方:共同体の力
本作の解決策は、うつ病や自殺念慮は「克服」できるものではなく、共に生きていくものであるという現実的な視点を示している。しかし、その重荷を一人で抱え込まず、他者の助けを借りることでより軽くなるという希望も提示している。
すべての観客に対して完璧な心理的洞察を提供することはできないが、大衆向け映画でありながらこれほど深いテーマに踏み込んだことは、MCUの新たな可能性を示している。
「ヴォイド」との対決:従来の枠を超える解決法
「ヴォイド」が最終的にグループハグと相互信頼によって押しとどめられるという結末は、一見すると慰めに満ちているようだが、MCUの常識を覆すものでもある。
従来のMCU作品では、敵は物理的な力や特別なアイテム、空から降る塔の崩壊などで倒されるのが常だった。その点でも『サンダーボルツ*』はMCUを快適ゾーンから引き出している。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』との類似点
『サンダーボルツ*』が注入するエネルギーは、2014年の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に匹敵する。道徳的模範でも圧倒的な知性でもないが、欠点がはっきりしているからこそ応援したくなるはみ出し者たちのグループである点が共通している。
「ガーディアンズ」が「見つけた家族」をテーマにし、敵をダンスパーティという型破りな方法で倒したように、『サンダーボルツ*』は「見つけた友人たち」のチームとして機能している。
MCUに欠けていた「アンダードッグ」の価値
これはアベンジャーズとは一線を画している。アベンジャーズは友好的な関係を持ちながらも、基本的に同僚であり、必要な時には一人で対処できると考えていた。対照的に、このチームの相互依存的な性質は今後の展開において大きな可能性を秘めている。
これはファンが求めた「ニュー・アベンジャーズ」ではないかもしれないが、10年以上ぶりにMCUから生まれた最も刺激的なチームである。この「ニュー・アベンジャーズ」がこれからもファンの期待を裏切り、MCUに欠けていたアンダードッグの存在感を埋めていくことを期待したい。
※本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら。
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