『Heads or Tails?』レビュー:イタリアを舞台にした風変わりな西部劇で、ジョン・C・ライリーがバッファロー・ビルに

'Heads or Tails?' film still
映画『Heads or Tails?(原題)』 写真:Courtesy of Cannes Film Festival
スポンサーリンク

イタリアとアメリカの共同製作による映画『Heads or Tails?(原題)』は、歴史的な出来事の再現から始まる。ジョン・C・ライリー演じるバッファロー・ビルと、その一座のロデオ興行師が20世紀初頭にイタリアを訪れたという実話だ。

しかし本作は、史実の再現にとどまらず、若い恋人たちの逃避行というフィクションへと発展し、賞金稼ぎ、革命家、列車強盗といった多彩な登場人物と交錯しながら、最終的には魔術的リアリズムの領域へと踏み込んでいく。

西部劇をヨーロッパで語り直す――監督コンビの挑戦

監督はマッテオ・ゾッピスとアレッシオ・リゴ・デ・リーギ。前作『The Tale of King Crab(原題)』で注目されたこのコンビは、本作でも野心的な演出を試みている。1960年代のマカロニ・ウエスタンのように、ヨーロッパの風景をアメリカに見立てるのではなく、ヨーロッパの地そのものを舞台とする“西部劇”という発想は新鮮である。作品は自己言及的なメタフィクション構造を持ち、やがて純然たるフィクションへとループしていく構成が特徴だ。

中でも強い印象を残すのが、フランス人女性俳優のナディア・テレスキウィッツである。彼女が演じる「ローザ」は台詞が少なく、表情や仕草で多くを語る役どころだが、その存在感は圧倒的である。ローザの静かなまなざしや、馬にまたがる姿は、ロバート・アルトマン監督の『ギャンブラー』でのジュリー・クリスティを彷彿とさせ、本作のリビジョニスト西部劇的な意図を明確に伝える。

ローザは、過去に娼婦だったことが仄めかされる女性であり、地主の息子で放蕩者のエルコレ・ルーペ(ミルコ・アルトゥーゾ)と結婚する。エルコレの父であるセニョール・ルーペ(ジャンニ・ガルコ)は富裕な地主として君臨する。物語は、エルコレとアメリカ人バッファロー・ビルが馬術対決を行うことになった場面から加速する。コイントスによってイタリア代表に選ばれたサンティノ(アレッサンドロ・ボルギ)は、勝負にこだわりを見せるが、エルコレは彼にわざと負けるよう命じる。この対立が発端となり、ローザとサンティノの逃避行が始まる。

ローザは、サンティノがわずか数時間前に調教した白馬に乗って彼とともに逃亡する。ローマ郊外の砂丘を目指す2人を追うのは、セニョール・ルーペの放った賞金稼ぎたち、そしてバッファロー・ビル本人である。物語は、彼の誇張されたナレーションにより“西部劇とは真実と虚構の交錯である”という主題を浮き彫りにする。

歴史と幻想が交差する後半、ローザが体現する新たな西部劇像

脚本は、古典的なウエスタンの要素を土台に構築されている。サンティノが出会う獄中の裏切り者や、列車で出会う無政府主義者の一団などは、その典型である。彼らは一見味方のように振る舞うが、やがて各々の思惑を露わにし、物語に緊張感を与える。

作品はまた、社会背景にも言及している。20世紀初頭のイタリアでは、メキシコ革命のように農民の反乱が各地で起きていた。鉄道建設が労働争議の原因となり、それが新たな“開拓神話”の舞台となる構図は、アメリカとも共通している。言語こそ違えど、西部劇の記号は国境を越えて通用することを、本作は証明している。

物語後半では幻想的な要素が増し、現実と虚構の境界が曖昧になっていく。この展開は人によって好みが分かれるかもしれないが、映像美と演出の力強さがそれを補って余りある。撮影は主に35mm、スーパー16、16mmフィルムで行われ、一部にデジタルを交えることで、クラシカルかつ粒子感のある画作りがなされている。特に、マジックアワーに逆光で撮影されたショットは息をのむ美しさであり、撮影監督の力量を示すものだ。

『Heads or Tails?』は、イタリアの視点から西部劇を再構築した意欲作である。ローザというキャラクターを通して、声なき女性が語る西部劇の新たな形が、静かにしかし確実に提示されている。

作品情報

  • タイトル: 『Heads or Tails?(原題)』
  • 公開: 劇場未公開(カンヌ国際映画祭にてプレミア上映)
  • キャスト: ナディア・テレスキウィッツ、アレッサンドロ・ボルギ、ジョン・C・ライリー、ピーター・ランサーニ、ミルコ・アルトゥーゾ
  • 監督:アレッシオ・リゴ・デ・リーギ、マッテオ・ゾッピス
  • 脚本:アレッシオ・リゴ・デ・リーギ、マッテオ・ゾッピス、カルロ・サルサ
  • 上映時間: 1時間56分

※この記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら

【関連記事】





スポンサーリンク

類似投稿