全米脚本家組合の合意成立の裏側: 交渉再開のきっかけとなった電話、議論が頓挫しかけた要求など

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9月23日、ディズニーのボブ・アイガーCEOはポール・マッカートニー、イーグルスのジョー・ウォルシュとともに古風なイタリアンレストランでディナーをしていた。ディナーが終了する頃には、マッカートニーとテーブルを囲むアイガー氏のぼやけた写真がWhatsAppのグループチャットに投稿されていた。その後約500人のショーランナーで構成されたチャットに、“Writers’ Tears”(脚本家の涙)という銘柄のウイスキーの画像が投稿され、アイガー氏のテーブルに贈るべきだと何者かが示唆した。誰もウイスキーを贈らなかったが、テーブルは“期待を込めて。ハリウッドのショーランナーより”とメモが付された複数のショットを受け取ることとなった。

何日にもわたり、脚本家組合(WGA)とスタジオ間の合意がじりじり近づいていると報じられていた。一方で、アイガー氏は土曜のディナーを楽しんでおり、契約はまだ存在していなかった。

その状態は翌日の夕方、ついに変化した。“異例の”暫定合意が伝えられ、歓喜に沸いた組合員たちはノース・ハリウッドのバーに詰めかけ、お祝いした。

契約は、組合とアイガー氏、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのデイヴィッド・ザスラフCEOらスタジオの重役陣との長期的な話し合いの成果だった。WGAの交渉委員会は8月22日、重役らと面会したが「どれだけ彼らの唯一の対案が素晴らしいかを説かれた」と組合員に対し伝えていた。

8月下旬まで交渉は引き延ばされ、『ブラッキッシュ』のケニア・バリス、『ファーゴ』のノア・ホーリーら複数のショーランナーがミーティングで組合のリーダーシップを疑い始めた。「ケニアのような人々は、情報を欲していた。クーデターではない。ただ皆が抱いていた疑問を尋ねただけ」とショーランナーの1人は語る。「巨大な会社を運営して、大きな契約を抱えているショーランナーは、CEO的な立場だ。皆、何とか倒産から逃れて仕事に戻れるように役割を果たしていた」

別のショーランナーも以下のように付け加えた。「WGAは自分の意見に固執して、(AMPTPからの)電話を待っていた。すると、トラック運転手組合から何かするようにと連絡を受け取り始めた。怒りの対象はストではなく、再開する試みの欠如だった」

9月10日夕方、WGA交渉委員会のカイザー氏がアイガー氏と1時間以上にわたり対話したのち、ついに雪解けが始まった。アイガー氏のほか、ザスラフ氏、NBCユニバーサルのドナ・ラングリー氏、Netflixのテッド・サランドス共同CEOとも話し合いが行われた。その結果、業界の仕事再開、そして恒久的なダメージを回避するという目的で意見が一致。重役4人は目標達成のために必要なだけ話し合いの席に座ることを約束し、今後のスケジュールを空けることとなった。

9月20日、交渉は再開した。アイガー氏は唯一前回の脚本家ストを経験したリーダー的存在で、ザスラフ氏は脚本分野での経験こそ少なかれど、ベテランの交渉人だった。ラングリー氏は冷静で最も現場経験の多く、交渉部屋の“外交家”とも称された。情報筋によると、サランドス氏はWGAより俳優組合(SAG-AFTRA)との対話に時間費やしていたが、最終的に他の3人と足並みをそろえたという。

合意が迫るなか、9月21日に重役陣の約束はある試練に直面した。交渉の進行が遅れたのち、スタジオ側は最低雇用人数、AI保護といった組合の主な懸念にフォーカスした包括契約を提示。情報筋によると、WGA側は“他の組合のピケ破りを拒絶した組合員を守ること”という要求を持ち込んだという。WGAはその要求について数週間にわたり予告していたが、アイガー氏ら重役陣は怒りながら部屋をあとにしたという。組合側に対し、ザスラフ氏は「君たちは何をやっているんだ?望みのものは事実上全て与えたはずだ」、アイガー氏は「慎重に考えるべき大事な瞬間だ」と伝えたとされている。結局、カイザー氏からアイガー氏に連絡を取り、議論が再開された。

WGAの代理人、ボブ・ホプキンソン氏は上記の証言に反論したが、詳細を語ることは避けた。スタジオの重役陣はコメントを拒否した。

契約は組合員による承認が必要な一方、スタジオが早々にSAG-AFTRAとの合意に達し、街全体が仕事を再開することが望まれている。しかし、若手・多様な脚本家が締め出され、業界の規模が縮小することを懸念している人も存在する。つまり、脚本家にとっての黄金時代が近い将来終わりを告げるかもしれないのだ。

とある有名ショーランナーは語る。「スト前、スト後、と皆は呼ぶだろう。でも、本当のところはピークTV前、ピークTV後だろう」

※今記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら

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