【インタビュー】話題のドラマ『エイリアン:アース』ユタニ役のサンドラ・イー・センシンダイバーに単独インタビュー! 「女性は依然として業界で過小評価されている」 多様性と女性のエンパワーメントへの思いを語る

現在、ディズニープラスで配信中の人気ドラマ『エイリアン:アース』。リドリー・スコットが生み出した伝説的フランチャイズの系譜に連なる最新ドラマで、その中で強大な企業「ウェイランド・ユタニ社」を象徴する存在であるユタニ役を演じているのがサンドラ・イー・センシンダイバーだ。
韓国にルーツを持ち、デンマークで育ち、舞台や映像の世界で長くキャリアを築いてきたサンドラ・イー・センシンダイバー。女優としてだけでなく、作家・監督・活動家としても表現の場を広げており、豊かなバックグラウンドと経験を作品に反映させ続けている。
ユタニという役柄は、シリーズを象徴する巨大企業の顔として、物語全体に影響を及ぼす存在。その一挙手一投足に重厚な威厳と緊張感が宿る。世界的に高い評価を得ている本作で、彼女はどのように役と向き合い、何を表現しようとしたのか。
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今回、ハリウッドリポーター・ジャパンは、サンドラ・イー・センシンダイバーに2度目となる単独インタビューを実施。キャリアの原点から『エイリアン:アース』の舞台裏、そして俳優業界における多様性や女性のエンパワーメントへの思いまで、じっくりと語ってもらった。
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学業とクラシックピアノから“演じること”へ舵を切った理由
ーーーまず自己紹介と俳優を志したきっかけを教えてください。
サンドラ:私の名前はサンドラ・イー・センシンダイバー(Sandra Yi Sencindiver)です。女優、作家、監督であり、活動家としても活動しています。
子どもの頃から演技に強い関心があり、舞台を観たり、自作の戯曲を書いたり、本を読み込んでは物語や別世界に没頭していました。自然に演技の道へ進んだように思われるかもしれませんが、当時の私にとって演技はあくまで趣味でした。というのも、勉強が得意で成績も良く、大学進学か、幼少期から長年続けてきたクラシックピアノの道に進むだろうと自分でも思っていたからです。
ところが、大きなオーディション目前にパン焼き機で指をケガし、ピアニストの道はいったん断念しました。翌年に受けたオーディションでは、専攻をクラシックピアノ、副専攻を声楽に選択。歌唱後、審査員から「歌の解釈がすばらしい。専攻を歌にした方がいいのではないか」と言われたほどでした。
高校卒業後は、地方劇場のミュージカル『ミス・サイゴン』のオーディションに行きました。ダンス審査を通過し、一日会場に残って、夜9時半ごろに最後の歌唱審査でディズニーの曲を歌いました。2週間後に契約書が届き、当時19〜20歳だった私は「大好きなことでお金をもらうことができるのか」と衝撃を受けました。以後、プロの俳優たちに導かれ、正式な訓練や学校、オーディションの受け方を学び、プロの世界に入りました。
ーー 学業やピアノでも高い評価を得ていたのですね。最終的に俳優を選んだ理由は。
サンドラ:自分にとって最も挑戦的な道だったからだと思います。学ぶこと自体は比較的容易に感じていましたが、演技は毎回課題が異なり、取り組み方を探るおもしろさがありました。だからこそ演技を選び、後悔はしていません。
韓国ルーツとデンマークでの成長――ステレオタイプとの衝突が“自分の物語を創る”方向へ導いた
ーー ルーツやバックグラウンドは、俳優としての表現にどのような影響を与えていますか。
サンドラ:私の韓国ルーツは、演劇や映画での選択や推進力に強く影響しています。私は韓国からの養子で、言語は話せないものの実家族と交流があります。養母も韓国人でしたが、両親の離婚後、父がデンマーク人女性と再婚し、姉と私はデンマークへ移住しました。私が育った当時のデンマークは今日ほど多文化ではなく、均質的な社会でした。
幼少期は見た目や出自が問題視されることはなく、むしろ人々は開かれていたと感じています。ところがプロとして活動を始め、オーディションに通うと、初めて「自分は白人ではない」現実に直面しました。「声も舞台映えもすばらしいが、見た目に観客が共感しづらい」などのフィードバックや、映像の世界での不適切な人種コメントもありました。能力ではなく、アジア人女性の狭いステレオタイプに押し込められることに強い憤りを覚え、それが原動力になりました。
20代半ばからは芸術表現と並行してアクティビズムにも踏み込み、自作の戯曲を書き始めました。「すばらしいが、今回の役には合わない」と言われ続ける中で、誰かからの機会を待つのではなく、自分で機会を創る必要があると考えたからです。
その後4年間の演劇学校での訓練を経て、卒業間際に、白人の同級生が得る機会に自分は届いていない現実を痛感しました。以来、同じ課題に直面する非白人のアーティストたちと連帯し、白人ではないキャラクターにも豊かな内面と多面的な物語を与える作品づくりを続けています。私たちは同質社会ではなく、多様な背景を持つ人々で成り立つ社会に生きています。舞台やスクリーンにも、その多様な物語が映し出されるべきだと考えています。
変わりゆくスクリーンの多様性―日本・韓国ドラマの躍進、そして次世代へ受け継がれる自己肯定感
ーー 現在、業界の多様性は進んでいると感じますか。
サンドラ:はい。日本や韓国のドラマ、アートハウス映画が世界的に高い評価を得ているのは大きいです。白人中心の物語に合わせるのではなく、各文化に根差した作品が、豊かさとニュアンスをもって受け止められているのが美しいと思います。
私の子どもたちはデンマークと韓国の血を引いており、自分のルーツを誇りに思っています。10代の頃の私はアジア的な容姿に少し悲しさを覚えることもありましたが、娘たちは自分の見た目が大好きです。特に下の娘は「韓国の女性は世界で最も美しい」と言ってくれます。それが本当に誇らしいです。
『エイリアン:アース』参加の衝撃―ユタニという権威を限られた出番でどう立ち上げたか
ーードラマ『エイリアン:アース』の役が決まったときの心境を教えてください。
サンドラ:特別な仕事だと直感しました。俳優なら誰もが参加したいと思うプロジェクトで、オーディションの機会を得て役を射止められたことは大きな贈り物でした。
ーー演じたユタニの役作りで、特に難しかった点は。
サンドラ:『エイリアン』世界における「ウェイランド・ユタニ社」は、まるで神のようにすべてを動かす巨大企業です。その“顔”を担う重責がありました。私の出番は多くありませんが、限られた強いシーンで「世界有数の権力者」としての存在感を示す必要がありました。
高い地位は自分だけでは体現できません。他者の反応や敬意の示し方が支えになります。すばらしい脚本に加え、共演者が私を持ち上げ、衣装・メイク・ジュエリー、美術、ロケーションが緻密に作り込まれたことで、彼女の社会的地位と威厳が成立しました。
ーー現場の雰囲気や印象的なエピソードを教えてください。
サンドラ:第6話の撮影は過酷でした。私は暑さや空腹、疲労が重なるとセリフを記憶するのが難しくなるタイプなんです。だから、眠っていても言えるくらい練習して、でも一日の半ばには「50回は言ったはずなのに、私のセリフって何だっけ?」みたいになりました。それでも挑戦は楽しいものです。制作はチーム総力戦で、扇風機や空調、こまめなメイク直しなど、多くのサポートに支えられました。
共演のサミュエル・ブレンキンは本当に才能ある俳優で、互いに真っ向からぶつかり合う緊張感がありました。自分のベストを持って臨む、すばらしい体験でした。
伝説的シリーズの重圧とファンダムの熱量
ーー『エイリアン』という伝説的シリーズに参加するプレッシャーは感じましたか。
サンドラ:シリーズの偉大さは理解していましたし、私自身もこのシリーズの大ファンでしたが、当時私はまだ子供でした。このシリーズが熱心なファンにとって、どれほどの意味を持つのか今まで気づいていませんでした。
人々がどのように受け止め、どれほど熱心に関わってくれているか、何のディテールを愛し、何が彼らを苛立たせるのかを配信後に初めて実感しました。撮影時に過度なプレッシャーを抱えず取り組めたのは、結果的によかったと思います。もちろん大規模な作品に参加するときには常にプレッシャーはあります。莫大な機材、非常に高いスキルの人たちが関わっているからです。
ーー『エイリアン:アース』が世界的に評価されている要因は何だと考えますか。
サンドラ:多くの功績は制作者のノア・ホーリーにあると思います。彼は本当に才能ある脚本家で、オリジナルの物語を驚くべき形で展開し、複雑なアイデアで私たちに挑み、問いを投げかけ、興味深く多層的なキャラクターの繊細な肖像を作り上げる経験を持っています。とても愛されているシリーズを、原作に敬意を払い、オマージュを捧げながら、同時に新しいビジョンを恐れずに打ち出して、独立して生きられるオリジナルを作る。それがカギの一つだと思います。制作陣は極めて優秀で、タイのクルーを含め、関わる全員が高い志でベストを持ち寄りました。みんなが一つの大きな家族のようで、それぞれがベストを尽くしている。みんな非常に野心的で、最高のものを持ち寄って、この美しいショーを作っている。それが成功に寄与していると思います。
日本の表現への敬意―是枝作品と『SHŌGUN』、そして『ギーク ガール』で映える日本ブランド
ーー日本文化や日本のファンに関する思い出はありますか。
サンドラ:是枝裕和監督の作品が大好きです!人間味があり本当に美しい!あと、ドラマ『SHŌGUN 将軍』はアジア系アメリカ人の視点が色濃いですが、多くの日本人俳優が出演しており、演技レベルはトップクラスでした。
現在撮影中のドラマ『ギーク ガール』では、韓国人の役を演じていますが、その衣装には日本ブランドが多数使われています。日本のデザイナーの仕事にはいつも感銘を受けますし、日本のスタイルアカウントもフォローしています。
ーーそう言っていただいてありがとうございます。
サンドラ:どういたしまして。こちらこそ、あなたに、そしてあなたの国と文化に感謝します。
「女性は依然として過小評価されている」―40代以降の女性の可能性をスクリーンへ引き上げるために
ーー 『エイリアン』シリーズは強い女性像で知られます。女性のエンパワーメントをどう捉えていますか。
サンドラ:残念ながら、女性は依然として業界で大きく過小評価されています。監督やクリエイターとしても、舞台やスクリーン上でも。そして特に、40歳を過ぎると顕著です。スクリーンに多く現れるのは若い女性、20代や30代の女性たち。数値は少しずつ伸びていますが、成熟したキャラクターについてはそれほどでもありません。
これは大きな損失です。社会の多く、経験や力の変化の多くは、子育てを終え、キャリアに本格的に入っていく40代以降の女性から生まれているのに。彼女たちの可能性、ニュアンス、視点は画面に十分現れていません。彼女たちは誰かの母や妻、離婚した妻というだけではなく、主体性があり、とても豊かな人生を生きています。映画やテレビの国際的な場で、まだ大きな可能性が開かれていない。
一方で私は、とても恵まれているとも感じています。有色人種の女性として、そして求められる女性として、いま、力と経験を持ち、ニュアンスと主体性を持つ女性の役を演じるすばらしい機会を得ています。私は統計の外にいる、非常に珍しい例だとわかっています。私と同年代の優れた同業者の多くは、役が減っていくのを目の当たりにしていますし、誰かの母や誰かの元妻としてしかキャスティングされないこともある。ですから、まだ開かれるべき可能性はたくさんあります。でも私個人としては、20代や30代の女性では演じられない、人生を生きてきた女性でなければ演じられない、本当に、とても興味深い役をたくさんいただいてきました。
ーーアジアの人々、特にアジアの女性を勇気づけると思います。
サンドラ:実のところ、私はこれがクリエイターたちへのインスピレーションになることを望みます。もっともっと多くの役を創造できる。それがあなたの芸術的な作品をさらに良くする貢献になるのだと。
ーー今後、挑戦してみたい役やジャンルはありますか。
サンドラ:シェイクスピア『十二夜』のヴァイオラを長年の夢として挙げたいです。男装を余儀なくされる女性の役で、私自身の多面的な側面を活かせます。若い頃は男性の代役キャラクターも演じており、そうした両義性を舞台で試したいと思っています。
ーー日本や世界のファンへメッセージをお願いします。
サンドラ:いつも本当にありがとうございます。『エイリアン:アース』をご覧いただき、心から感謝しています。
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