興行収入135億円の大ヒット!『すずめの戸締り』新海誠監督インタビュー:「スクリーンに最も正直な気持ちを映しました」

新海誠監督 パリ、2019年 写真: © MARTIN BUREAU/AFP/ GETTY IMAGES

現在開催中のベルリン国際映画祭で、『千と千尋の神隠し』以来約20年ぶりに日本のアニメ作品が上映される。“宮崎駿の後継者”とも名高い、新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』だ。

新海監督の過去2作品(『君の名は。』、2017年;『天気の子』、2020年)同様、『すずめの戸締り』はヤングアダルト(“YA”)ファンタジー作品。冒険・ロマンスといった要素を含みながら、キャラクターは喪失感や壊滅的な大災害と向き合う。ベルリン映画祭でプレミア後、今春に世界中で公開される。

ベルリナーレを前に、米THRが東京で新海誠監督にインタビュー。2011年に発生した東日本大震災と近年の映画づくりの関連性や、宮崎駿監督へのオマージュについて語った。

『すずめの戸締り』のアイデアはどこから生まれた?

長年にわたり、様々な構想がありました。きっかけは、2011年の東日本大震災でした。「大災害」をテーマに、アニメ作品を製作したいと考えました。しかし、地震は「すずめ~」の物語の核心ではありません。私が本当にやりたかったのは、日本を紹介し、全国の様々な場所を旅するような“ロードムービー”を作ることでした。そして、災害や過疎化によって廃墟と化したイメージが頭から離れなかったのです。キャラクターが最後に到達する場所を考えた時、いつも東北のことが頭に浮かびました。よって、より理解を深めるためにも、「地震」というテーマに真っ向から取り組むことが重要だと思いました。

映画の設定として、廃墟にどのような魅力を感じましたか?

廃墟には、怖い雰囲気だけでなく、どこか奇妙な美しさがあります。侘しさと同時に温もりも感じる。私も、廃墟に引きつけられる人間の1人ですね。現在は、田舎に加え東京でも廃墟を目にします。なので、日本の観客の皆さんが共感できる題材だと思いました。どんな物語も、その時の国の現状を反映する性質があります。宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』なども、当時の日本を表す希望にあふれた作品ですね。「すずめ~」には、虚しさや喪失感が感じられます。同様に、今の日本の姿を映し出しているのです。

作中で、鈴芽は日本各地の廃墟に存在する扉に出くわします。扉を閉めるには、過去の人間の人生を呼び覚ます、という秘密があります。このアイデアは、現在の日本を象徴する感情にどのような答えを出しますか?

言葉で表すには難しいですね。ある意味、この作品自体が1つの答えだと感じます。日本は、衰退状態にあり、毎年自然災害が起きる。そんな現状に対して、どのように対処していくか簡単には答えられない。だからこそ、私はアニメーションというメディアを介して、様々な感情を伝えることにしました。この映画を通して、観客の方々が何かポジティブな気持ちを感じてくれること。それこそ、その質問に対する本当の答えになります。困難な時を乗り越えるには、自分たちの心が一番大切です。劇中で、鈴芽も扉の向こうの世界で自分自身と対話します。人間は、今の自分を理解するために、過去・未来の自分と心の中で会話することがあります。“時を越えて自分と会話する”ことこそ、この物語の中心になっています。

美しい青年のキャラクターである草太が壊れた子供椅子に変身してしまう、というアイデアについて教えてください。

映画全体の雰囲気を明るくしたいという考えがありました。鈴芽一人で旅をするには、物語が重くなってしまいます。なので、主人公の相棒として観客を笑顔にできるようなキャラクターを生み出しました。3本足の椅子は、鈴芽が大災害によって深い喪失感を抱えていることを象徴しています。作品には描かれていませんが、椅子は津波で流されて足が1本無くなってしまったものだと。それは、鈴芽の心の状態を表しています。支えが1本無くなってしまってもなお、まだ椅子としての機能を果たし、耐え忍んでいるのです。他にも、コロナ禍で制限に縛られた生活を余儀なくされた若い世代の窮屈な状態も、草太が椅子に閉じ込められてしまうメタファーになっています。

『すずめの戸締り』には、宮崎駿監督の『魔女の宅急便』への様々なオマージュが見受けられます。それに込められた思いとは?

『魔女の宅急便』は、日本で広く愛されている、私自身も大好きな作品の1つです。宮崎作品に敬意を表すだけでなく、「すずめ~」の世界観に現実味を加えたかった。鈴芽が東日本大震災を経験しているということは、ジブリも荒井由実さんの曲も存在しているはずです。今作の世界観は、あくまで現実の延長なのです。

過去3作品の中で、「すずめ~」は東日本大震災に一番深く関わっています。時を経て、東日本大震災への反応はどのように変化しましたか?

震災後に製作した『君の名は。』は、一部の観客の方々から“死人を生き返らせることはできない”と、物語の核心について批判がありました。そして、次の『天気の子』では、トロッコ問題のコンセプトに対して、“何百万人の人々が助かるのに、1人の命を犠牲にすることができないのか”という批判も出ました。それから、「すずめ~」にたどり着きました。進化という言葉が正しいかは分かりませんが、これまでも映画を通して観客の方々と様々な会話を重ねてきたのです。このスケールの会話ができるのは、アニメーションというメディア独自のものですね。アニメーターと観客には、長い間蓄積されてきた信頼関係があります。「すずめ~」は、今の私が伝えられるベストなメッセージです。そして、スクリーンに映し出せる最も正直な気持ちでもあります。

※インタビュー内容は抄訳・要約です。

オリジナル記事はこちら

Similar Posts