海外映画制作の不確実性拡大|トランプ大統領が再び示唆する100%関税の脅威
ドナルド・トランプ米大統領が今週、ハリウッドをはじめとする米国外での映画制作に対し「100%関税」を課す可能性を示唆し、国際的な映画・テレビ制作の現場に衝撃が走った。
トランプ大統領の関税発言が再燃
トランプ大統領は9月30日、SNS「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」に投稿し、「米国外で制作されたすべての映画に100%の関税を課す」と宣言した。投稿では、外国が米国の映画産業を『奪っている』と非難し、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事にも、ハリウッドでの制作環境の維持が困難であるとして批判を加えた。
一方でこの発言は、トランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相によるガザ和平案や、米連邦政府の閉鎖報道により、速報性では埋もれてしまった。しかし、業界関係者の間では、この関税発言が長期的に映画制作に影響を与える可能性を懸念する声が上がっている。
北米以外の制作拠点に打撃を与える可能性
「スタジオ、技術アップグレード、スタッフ育成、さらには大量解雇にまで影響します」と語るのは、カナダのタレントマネージャー、ロウェル・シュリーダー氏。彼はCK Talentに所属し、クライアントは定期的にトロントで米国スタジオの撮影に関わっている。
オンタリオ州は長年、充実したサウンドステージや低コストを売りにハリウッドの代替拠点としてアピールしてきた。しかし、もしトランプ大統領の関税が現実となれば、これらの利点は一夜にして消える可能性がある。シュリーダー氏は「関税の示唆だけでも、次の大型映画の撮影地を検討しているスタジオ幹部を震え上がらせるだろう」と指摘する。
法律化の見通しは不透明
トランプ大統領は今回の発言以前にも、5月のカンヌ国際映画祭直前に「100%関税」の警告を発していた。しかし、現時点で具体的な法案は成立しておらず、むしろカリフォルニア州は税制優遇を倍増する法案を推進中で、連邦政府にも映画・テレビ制作への税優遇の導入を求める動きがある。
米議会ではローラ・フリードマン下院議員やアダム・シフ上院議員が、トランプ大統領の発言を受け、連邦レベルの制作税控除の重要性を改めて訴えている。
グローバル制作環境の不確実性
現行のハリウッド映画は、撮影・VFX・ポストプロダクションが複数国にまたがることが一般的である。このため、「米国製」と「海外製」がどのように判定されるかは不明瞭である。
各国政府もトランプ大統領の発言を軽視していない。オーストラリアのトニー・バーク文化大臣は「オーストラリア映画産業の権利を明確に守る」と表明。カナダ・オンタリオ州の制作支援機関「Ontario Creates」も、政策が具体化するまでは影響評価は困難であるとしつつ、同州の制作拠点としての地位維持に全力を尽くすとコメントした。
さらに、ドイツやカナダでは、Netflixや海外ストリーミング事業者に対する国内制作への還元義務が議論されており、トランプ大統領の関税発言はこうした文化政策交渉に影響を与える可能性もある。
業界に広がる不安
タイ・バンコクを拠点とする制作会社「Indochina Productions」のCEO、ニコラス・サイモン氏は、トランプ大統領の予測不可能な言動が最大の懸念だと話す。彼の会社は『ホワイト・ロータス』シーズン3、アンナ・サワイが主演を務める、ゴジラシリーズに基づくテレビシリーズ『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』や、映画『MEG ザ・モンスターズ2』(2023)などの制作を手掛けてきた。
「前回も1週間ほどで状況は通常に戻った。しかし、もし今回本当に制作を標的にすれば、業界に大きな衝撃を与える。いつもの話であれば、すぐに消えるだろう」とサイモン氏は語った。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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