気鋭俳優・瀧内公美に聞く、映画業界の未来への想い ―― 第38回東京国際映画祭でナビゲーターに挑戦
 
		昨年の第37回東京国際映画祭では、マーク・ギル監督の『レイブンズ』と吉田大八監督の東京グランプリ受賞作『敵』の2本が上映され、俳優・瀧内公美は現代日本映画界で最も多才で大胆な気鋭俳優のひとりとして注目を集めた。
瀧内公美はこれまで、自らのスタイルでキャリアを築いてきた。アート系の挑戦的な作品から、テレビのメインストリームドラマまで幅広く出演し、独自の存在感を放っている。
その演技の幅は広く、荒井晴彦監督『火口のふたり』(2020)で見せた生々しく情熱的な演技により第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞を受賞。続く『由宇子の天秤』(2021)では社会的テーマに真摯に向き合い、初期の代表作『彼女の人生は間違いじゃない』(2017)では俳優としての確かな存在感を示した。近年はNHKの朝の連続テレビ小説『あんぱん』に出演するなど、より幅広い世代に知られる存在となっている。
今年の第38回東京国際映画祭では、瀧内は「フェスティバル・ナビゲーター」という特別な役割を務める。ナビゲーターは毎年、映画界を代表する人物が選ばれるアンバサダー的ポジションとなっている。
米『ハリウッド・リポーター』は今回、瀧内にインタビューを行い、自身が歩んできた独自のキャリア、日本映画・テレビにおける女性像の変化、そして映画祭ナビゲーターとしての想いについて語ってもらった。
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――俳優の道に進んだきっかけは、タレントコンテストでスカウトされたことだったと伺っています。俳優としてのキャリアの中で、創作的な転機となった瞬間は何だったのでしょうか。
瀧内公美(以下、瀧内):俳優にもいろいろなタイプがいると思います。学校で演技を学ぶ人もいれば、スカウトで入る人もいる。私は、ちょうど日本で全国的に「原石を探す」ようなコンテストが盛んだった時代に見出されたひとりでした。正式な演技訓練を受けることなくデビューし、現場で学びながら経験を積んでいったのです。
本格的に「演じるとは何か」を考え始めたのは、2017年の映画『彼女の人生は間違いじゃない』の撮影時でした。この作品をきっかけに演技コーチと出会い、それが大きな転機になりました。その後、より演技に特化した新しい事務所に所属し、学校でも教えている俳優の先輩のもとで学ぶようになりました。彼女の指導のもと、映像だけでなく小劇場の舞台にも立ち、俳優としての技術と心構えを身につけていきました。舞台に立つということ、そして「演技」という行為の本質を深く理解できたのはこの時期です。
さらに昨年の『レイブンズ』と『敵』の経験も大きな節目でした。あの2作の後、私は事務所を離れ、独立する決断をしました。ひとつの章を終え、次の章が始まったという感覚です。

――『火口のふたり』の奔放で迷える女性から『レイブンズ』の洋子、『あんぱん』の厳格な教師まで、瀧内さんの演じる多くのキャラクターには、内に秘めた強さがあるように感じます。これまで、演じたいと思う役を自然に任されてきたのでしょうか。それとも、自分の力でつかみ取ってきたのでしょうか?
瀧内:『火口のふたり』のように性的に解放された女性を演じると、その後は似たような役のオファーが増える傾向があります。だからこそ、次に『由宇子の天秤』のような真逆の作品を選びました。自分の幅を狭めず、さまざまな役柄に挑戦できるようにしたかったのです。
確かに私が演じてきた女性たちは強く、芯のある人物が多いと思います。でもそれは、今の時代の反映でもあります。もう「男性の三歩後ろを歩く」ような女性像はほとんど見られません。今の日本の現実がそうであるように、物語の中にも強い女性が多く描かれるようになったのだと思います。
――東京国際映画祭の「フェスティバル・ナビゲーター」という役割をどのように捉えていますか?具体的にはどんなことをするのでしょうか。
瀧内:私はもともと映画が大好きで、これまで観客として東京国際映画祭に何度も足を運んできました。ですから、ナビゲーターを務めてほしいとお話をいただいたときは驚きましたが、とてもうれしくてすぐにお引き受けしました。正直に言うと、「ナビゲーターって具体的に何をするんだろう?」という感じでした(笑)。主催の方々に尋ねたら、「実は私たちもまだ明確ではなくて」と言われて(笑)。
でも私は、フェスティバルの“顔”として観客の皆さんに映画祭を紹介し、上映作品やその魅力を伝える役割だと受け止めています。自分が心から好きな作品について語ったり、おすすめを紹介したりすることができたら嬉しいです。また、日本と海外のゲストが交流できるような場をつくるお手伝いや、新しい才能を紹介することにも力を入れたいと思っています。映画というものが本当に好きなので、映画祭を通じて多くの方が心に残る体験をできるように、できる限りのことをしたいと思っています。

――近年、日本では是枝裕和監督らを中心に、映画業界の労働環境改善を求める動きが活発になっています。多くのインディーズ作品に出演してこられた瀧内さんも、現場の実情を体感されているのではないでしょうか。状況は変わってきていると感じますか?
瀧内:働く環境がもっと安定して、安心して創作に集中できるようになれば本当にすばらしいと思います。そうなれば業界全体のプラスになりますし、才能ある若い人たちが「この世界で生きていける」と思えるようになるはずです。
ただ一方で、芸術をつくるということには、ある程度のストイックさや覚悟も必要だと感じています。働く環境に求めることと、俳優として求められること、そのバランスはとても繊細です。撮影現場に入ると、俳優としては作品に没頭してしまうので、舞台裏の事情までは見えないことも多いです。私は自分にできる範囲で、できるだけ前向きな現場づくりに貢献しつつ、何より自分の演技に全力を注ぐようにしています。
もちろん、少しずつ前進もしていると思います。特に女性の声がようやく届くようになったことは大きな変化です。現場でのハラスメント問題が語られるようになったことで、日本の映画業界の“ガラスの天井”が割れ始めたと感じます。今後は、プロデューサーなどリーダーシップをとる立場にも、もっと多くの女性が増えていくことが必要だと思います。そうすることで、よりリアルな女性像を描いた作品が増えていくのではないでしょうか。
もうひとつ改善してほしいと感じているのは、ベテラン俳優の機会の少なさです。長年かけて技術を磨いてきた方々が、年齢を重ねるとともに出演機会を失っていくのはとても残念です。経験豊かな俳優たちが活躍できる場が、もっと広がってほしいと思います。
――瀧内さんの演技には、常に強くてリアルな視点が感じられます。今年はクリステン・スチュワートやスカーレット・ヨハンソンといった比較的若い俳優たちが監督デビューを果たしました。最近では自らプロデュースする俳優も増えていますが、そうした活動には関心がありますか?
瀧内:いいえ、今のところ自分が監督やプロデューサーになることは考えていません。そうした分野でしっかりと学び、キャリアを築いてこられた方々を本当に尊敬しています。私はそうした道で生計を立ててきたわけではないので、自分がやるにはまだ資格がないと感じています。私の使命は、俳優として成長を続けていくことだと思っています。
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※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌

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