カンヌから“東京”へ──「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」全11作+特別上映『かぐや姫の物語』ラインナップ
カンヌの最前線が東京に到来する。映像産業振興機構(VIPO)は、カンヌ国際映画祭「監督週間(Director’s Fortnight)」のセレクションを国内で上映する特集企画「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」を、12月12日(金)〜25日(木)の14日間、ヒューマントラストシネマ渋谷で開催すると発表した。
今回の特集は、1968年に創設されて以来、ソフィア・コッポラ、スパイク・リー、ジム・ジャームッシュら多くの才能を世に送り出してきた「監督週間」の最新作を、日本の観客がいち早く劇場で体験できる貴重な機会だ。2013年の初開催以降、アジアでの注目イベントとして定着した本企画は今年で第3回目の実施となる。
注目ポイント:日本人最年少選出の新鋭と名作の“劇場再発見”
今回の目玉は、日本人史上最年少・26歳で監督週間に選出された団塚唯我監督の『見はらし世代』。家族の再生と都市再開発の衝突を詩的かつ鋭利な映像で描く本作は、日本の若手映画界の新たな旗手として注目を集める。
また、2014年に監督週間で上映された高畑勲監督『かぐや姫の物語』が今回の特別上映に決定。スタジオジブリ屈指の傑作を劇場で再体験できる機会は、配信やパッケージでは味わえない貴重なものとなる。監督週間アーティスティック・ディレクター、ジュリアン・レジ氏は本作を「個人的なお気に入りの一つ」として選出した理由を述べている。
【監督週間2025上映作品全ラインナップ】
『ザ・プレジデンツ・ケーキ』(英題:The President’s Cake)

監督:ハサン・ハディ(イラク)
<観客賞&カメラドール受賞作>
フセイン独裁政権下のイラク。国連の経済制裁により生活が逼迫する中、国民は大統領の誕生日を祝わねばならない。学校から祝典用ケーキの調達担当に指名された少女は、祖母とともに市場に出かけるが、はぐれてしまう。不条理な生活を強いられたイラク市民の生活を、健気な少女の姿を通じて素朴かつ力強く描き、カンヌ映画祭の全部門を通じて決められる「新人監督賞(カメラ・ドール)」を受賞。
『見はらし世代』(英題:Brand New Landscape)

監督:団塚唯我(日本)
自分たちを捨てた父親を許せるだろうかーー。母の死に続き、仕事を優先する父にも去られた姉と弟が、成人後に改めて父親と向き合う。普遍的な家族の風景から、父が手掛ける都市の再開発がもたらす影響まで、幅広い視点を含み、リアルとファンタジーが交差する独特の世界観をシャープな映像美で描いてみせる団塚監督は、日本人史上最年少となる26歳でカンヌ国際映画祭「監督週間」選出となった。英語字幕上映。
12月13日(土)14:00上映回には、井川遥と団塚唯我監督の登壇が予定されている。
『ハー・ウィル・ビー・ダン』(英題:Her Will Be Done)

監督:ジュリア・コワルスキー(フランス/ポーランド)
畜産業の実家を手伝う若い女性のナヴォイカは、亡き母と同様に、体内に悪魔がいると自覚している。ナヴォイカの欲望の高まりとともに、悪魔が破壊的な力を彼女にもたらす。村を離れていた奔放な女性が隣家に戻って来ると、ナヴォイカの運命が動き出す。フランスにおけるポーランド移民のコミュニティを背景に、エクソシズムとフェミニズムが斬新な融合を見せる新感覚ドラマ。コワルスキー監督長編第2作。
『国宝』(英題:Kokuho)

監督:李相日(日本)
任侠の家に生まれたが、女形としての才能を見込まれて歌舞伎役者の名家に引き取られた少年と、その家の跡取り息子の2人が、長年に渡って切磋琢磨しながら芸に人生を捧げていく姿を描く。主演の吉沢亮、共演の横浜流星の迫真の熱演が全世代から圧倒的な支持を受け、日本映画興行の歴史を塗り替えるメガヒットを記録した本作は、世界初上映の場となった「カンヌ監督週間」から快進撃をスタートさせた。
12月16日(火)12:30上映回には、吉沢亮、横浜流星、李相日監督の登壇が予定されている。
『ミラーズ』(英題:Mirrors No.3)

監督:クリスチャン・ペッツォルト(ドイツ)
ベルリンの大学に通う女性のラウラは、田舎での交通事故を奇跡的に回避するがショック状態に陥り、近所に住む主婦のベティの世話になる。ラウラはベティを母のように慕い、ベルリンに戻らずベティの家に留まる。ベティも戸惑いながら受け入れるが…。運命のツィストに翻弄される人々の姿を鮮やかに描くヒューマン・ドラマ。ドイツ映画界を代表する存在のひとり、クリスチャン・ペッツォルト監督最新作。
『ピーク・エヴリシング』(英題:Peak Everything)

監督:アンヌ・エモン(カナダ)
モントリオールでペットホテルを営む48歳の独身男性アダムは、環境破壊の進行による終末を恐れ、不安に苛まされている。オンラインで購入した癒しグッズのカスタマーサービスを心の相談窓口と勘違いして電話してみると、応対した女性に恋してしまう!孤独で不安なアダムの世界は、自然災害を経て不思議な迫力に満ちていく。世界が終わる前に愛を知りたい男性が疾走するアポカリプス・ラブ・ストーリー。
『ガール・イン・ザ・スノウ』(英題:The Girl in the Snow)

監督:ルイーズ・エモン(カナダ)
1899年、雪深い山奥の村に、若い女性エメーが教師として着任する。未開に近い村で、エメーは地元の前時代的な風習に抵抗しながら子どもたちに外の世界を教える一方、自らの欲望の高まりを自覚する。やがて、村の青年が失踪する…。冬の山の苛酷な荘厳さを伝える映像美と、女性への抑圧を想起させるメタファーに富んだ、不可思議な魅力を備えた物語。ルイーズ・エモン監督による長編第1作。
『パーティーズ・オーヴァー!』(英題:The Party’s Over!)

監督:アントニー・コルディエ(フランス)
裕福な家族が豪華な別荘で楽しく休暇を過ごしているが、次第に管理人夫婦との関係がぎくしゃくしていく…。格差社会の強者と弱者が、やがて全面戦争に突入する様子を描くダーク・コメディ。目まぐるしい対決は笑いを誘うと同時に残酷であり、フランス社会の本音と建前が露呈する。絶えず形勢の逆転を試みるキャラクターたちを生き生きと演じる、ローラン・ラフィットやロール・カラミーらのスター俳優にも注目。
『ワイルド・フォクシーズ』(英題:Wild Foxes)

監督:ヴァレリー・カルノワ(ベルギー/フランス)
全寮制のスポーツ寄宿校でボクシングを専攻するカミーユは、有望選手だったがケガをきっかけに調子を崩し、チームメイトとの関係も悪化していく。しかしその一方でテコンドー選手の女性と知り合う…。豊かな自然の中でスポーツ競技の光と影、そして青春の挫折と輝きがストレートに描かれる。カルノワ監督による長編デビュー作であり、「監督週間」部門でフランス語の作品に与えられるSACD賞を受賞。
『イエス』(英題:Yes)

監督:ナダヴ・ラピド
テルアビブで活動するピアニストの男性が、政府から依頼された仕事を前に苦しみ、妻との関係も悪化していく…。ガザを攻撃し続けるイスラエルに暮らすアーティストの苦悩を描き、躁的な乱痴気騒ぎを始め、過剰に偽悪的で自虐的な描写の果てに、絶望的な罪悪感が溢れ出す。国際的存在のナダウ・ラピド監督の新作は、10.7以降にイスラエルの監督が内面の苦しみと政府批判を世界で発表した稀有な例となっている。
『ソーリー、ベイビー』(原題:Sorry, Baby)

監督:エヴァ・ヴィクター(アメリカ)
アメリカ北東部、ニューイングランドの大学で文学者を志すアグネスが、親友との深い絆を大切にしながら、人生を揺るがす難事に対峙していく物語。暖かくユーモラスな空気と、最悪の事態を迎えるビターな要素が巧みにブレンドされ、省略を効かせた静かな演出とスタイリッシュな映像のセンスが光る。本作が長編第1作となるエヴァ・ヴィクター監督が主演も務めている。サンダンス映画祭脚本賞受賞。
『かぐや姫の物語』(英題:The Tale of The Princess Kaguya)

監督:高畑勲
都のはずれの里山に、働き者の翁と媼が暮らしていた。ある日、竹林を訪れた翁は、光る不思議な竹に気づき、近づくと竹の子の中から小さな可愛らしい女の子が現われた。女の子を連れ帰った翁は自分たちの子として大切に育てる。女の子は村の子どもたちと元気に遊び回るうちに、みるみる美しい娘へと成長する。驚いた翁は娘を姫に相応しい女性に育てるために都へ居を移し、教育を受けさせる。そして「かぐや姫」として都中の評判になるのだった。姫の美しさを聞きつけた5人の求婚者が現われる。姫は彼らに婚姻の条件として難題を課すのだが…。
『イエス』のナダヴ・ラピド監督が来日予定
トロントやカンヌで注目を集めるナダヴ・ラピド監督の『イエス(英題:Yes)』は、TOKYO FILMeX 2025で先行上映されるほか、「カンヌ監督週間 in Tokio」の会期中12月16日・17日の回に合わせて監督の来日が予定されている。監督登壇の舞台挨拶やQ&A実施の可能性もあり、関心の高いタイトルだ。

「監督週間」の意義とVIPOの狙い
「監督週間」は作家性・実験性の高い作品を国際舞台で発見する場として知られ、商業映画とは一線を画したラジカルな作品群を紹介してきた。VIPOは本特集を通じて“映画を観ることの豊かさ”と“次世代映像作家への気づき”を日本の観客に届けたいとしている。映画ファンのみならず、映像業界の関係者や映画制作を志す若者にとっても必見のラインナップだ。
開催概要
- イベント名: カンヌ監督週間 in Tokio 2025
- 会期:2025年12月12日(金)〜12月25日(木)
- 会場:ヒューマントラストシネマ渋谷(渋谷区渋谷1-23-16)
- 主催: 監督週間(Quinzaine des Cinéastes)/特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)
- 共催: 東京テアトル株式会社 ほか
- 公式サイト: https://www.cannes-df-in-tokio.com/
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