米批評家が選ぶ!2025年の「隠れた名作」20選|新進気鋭のホープから話題の北欧映画まで
映画界の賞レースが佳境に入り、一部の有力候補作品が話題を独占する中、さまざまな理由でノミネートを逃した作品も多い。そこで米『ハリウッド・リポーター』は、批評家や記者、信頼できるクリエイターらを対象とするアンケートを実施した。
本記事では、ヨーロッパのミニシアター系映画からアジアのアニメーション作品、低予算のアメリカンホラーまで、2025年に埋もれてしまった「隠れた名作」を厳選している。珠玉の作品群をぜひチェックしてほしい。
1.『孤独の午後』

『孤独の午後』は、『パシフィクション』(2022年)で注目を集めたスペイン出身のアルベルト・セラ監督による新作ドキュメンタリーで、スペインにおける人気闘牛士たちの日常生活を追う。
本作では、『パシフィクション』でも登場した長回しや沈黙の間、夢を見ているかのようなトーンとテクスチャーを用い、没入感を引き出している。「血なまぐさくて残酷なスポーツ」と思われがちな闘牛に敬意を払い、深く掘り下げた作品だ。スペイン・フランス・ポルトガル合作。
2.『ドラゴンフライ(原題:Dragonfly)』

ポール・アンドリュー・ウィリアムズ監督による『ドラゴンフライ(原題:Dragonfly)』は、殺風景な団地に住む高齢女性エルシー(演:ブレンダ・ブレシン)と隣人のコリーン(演:アンドレア・ライズボロー)の交流、エルシーと息子ジョン(演:ジェイソン・ワトキンス)の複雑な関係を描いたイギリス映画だ。
序盤では日常風景を軸とする社会派ドラマとして進む本作だが、終盤ではショッキングなホラーへと変化し、大胆な展開が光る。ブレシンとライズボローの演技は高く評価され、2025年トライベッカ映画祭でインターナショナル・ナラティブ・コンペティション部門最優秀演技賞を共同受賞した。
3.『ドロウニング・ドライ(原題:Drowning Dry)』

『ドロウニング・ドライ(原題:Drowning Dry)』は、新進気鋭のリトアニア人監督ローリナス・バレイシャの最新作だ。バレイシャ監督は自身初の長編映画『Piligrimai(原題)』(2021年)が、第78回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門で受賞を果たした。
『ドロウニング・ドライ』は、湖畔の別荘で過ごす2人の姉妹とその家族を描いた作品で、マッチョイズムと家族の緊張感がやがて崩壊を引き起こす様子を映し出す。断片的な演出によって夢のような感覚を抱かせるが、心に深く刻まれる作品となっている。
第77回ロカルノ国際映画祭ではバレイシャが最優秀監督賞、キャストらが最優秀演技賞を受賞した。リトアニア・ラトビア合作。
4.『ゴースト・トレイル(原題:Ghost Trail)』

ジョナサン・ミレット監督の長編デビュー作となるフランス映画『ゴースト・トレイル(原題:Ghost Trail)』は、秘密組織のメンバーがシリア政権の逃亡指導者を追ってフランスへと向かう、複雑な心理戦を描いたスリラー映画。スパイ映画にありがちな高速のアクションをあえて避け、じわじわと緊張感を高めていく構成が巧みだ。
秘密組織のメンバーを演じるアダム・ベッサは、控えめながらも際立った演技を披露している。タウフィーク・バルホーム演じる標的の居場所が突き止められた時、緊張感あふれる追跡劇が幕を開ける。このベッサの名演は、米『ハリウッド・リポーター』による「2025年最高の演技30選」にも選出された。
5.『ホーリー・カウ』

『ホーリー・カウ』はルイーズ・クルヴォワジエの監督デビュー作となったフランス映画。職人技が光るチーズ作りの世界を舞台に、不器用で奔放な成長物語を描き出している。
18歳のトトンヌ(演:クレマン・ファヴォー)は、チーズ職⼈の父親を不慮の事故で亡くしてしまう。幼い妹と共に暮らす生活費を稼がなければならないトトンヌは、地元のチーズコンテストで優勝すれば3万ユーロの賞⾦が出ることを知り、コンテチーズ作りを決意する。
本作ではアマチュア俳優たちを起用し、太陽が降り注ぐフランス・ジュラ地方の景色と共に、ユーモアと感動あふれる物語が紡がれる。クルヴォワジエは本作で「フランスのアカデミー賞」と⾔われるセザール賞新人監督賞を受賞した。
6.『イット・エンズ(原題:It Ends)』

『イット・エンズ(原題:It Ends)』はアレクサンダー・ウロムの監督デビュー作となったホラー映画で、ウロム自身が脚本・編集も務めた。
大学を卒業したばかりの4人の学生たちは深夜のドライブに出かけるが、道に迷ってしまう。人知を超えた謎の勢力に囲まれ、車に閉じ込められた彼らは、運命を受け入れるか、脱出を試みるかという選択を迫られる。
スプラッターというよりもコンセプチュアルなホラーである本作は、現代社会と未来を嘆く若者世代の意識を反映しているだろう。森の中というロケーションや、1台の車に4人の俳優が乗り合わせる状況を最大限に活かし、物語を大いに盛り上げている。
7.『カブール、ビトウィーン・プレイヤーズ(原題:Kabul, Between Prayers)』

『カブール・ビトウィーン・プレイヤーズ(原題:Kabul Between Prayers)』は、オランダ系アフガニスタン人監督のアブーザール・アミニによるドキュメンタリー映画。
タリバンに忠実に従い兵士となった23歳のサミムは、そのまま殉教するか、農民として平凡な日々を過ごすか葛藤している。彼の弟で14歳のラフィも、兄を追って兵士になることを決意する。
本作は2021年の米軍撤退後も続く闘争と、人々の不安定な生活をリアルに映し出し、兄弟に課せられた運命は観客の胸を締め付ける。オランダ・ベルギー合作。
8.『レズビアン・スペース・プリンセス(原題:Lesbian Space Princess)』

オーストラリア発のアニメーション作品『レズビアン・スペース・プリンセス(原題:Lesbian Space Princess)』は、「LGBTQ」と「宇宙SF」というテーマを掛け合わせた斬新な成人向けインディーズ映画だ。
内向的な主人公の王女サイラ(声:シャバナ・アジーズ)は、地球外集団「ストレート・ホワイト・マリアン」に身代金目的で誘拐された元ガールフレンドのキキ(声:バーニー・ヴァン・ティエル)を救うため、宇宙へと冒険に出る。
本作はさまざまなジャンルを融合しており、サイラがアイデンティティを発見していく様子を温かくもユーモアたっぷりに描いている。
9.『マイ・ファーザーズ・シャドウ(原題:My Father’s Shadow)』

アキノラ・デイヴィス・Jr.の監督デビュー作『マイ・ファーザーズ・シャドウ(原題:My Father’s Shadow)』は、個人の内面と政治的な側面を織り交ぜ、家父長制の歴史とその裏側に埋もれた過去を浮き彫りにした。
1993年、ナイジェリアでは1980年代初頭のクーデター以来、初めて大統領選挙が行われた。そんな中、ある父親(演:ソペ・ディリス)は息子たちと共にラゴスを横断する旅に出て、彼らと心を通わせようと奮闘する。しかし、選挙結果が発表されると軍事政権による弾圧が始まり、楽しい旅は一変してしまう。
本作は第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でカメラドール(新人監督賞)のスペシャルメンション(特別賞)を受賞した。イギリス・ナイジェリア合作。
10.『オスロ、3つの愛の風景』

『オスロ、3つの愛の風景』は北欧映画界の新星で小説家としても活躍するダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督による3部作で、それぞれ「恋」「愛」「性」をテーマとしている。
女性教師に恋をした17歳の少女を描く『DREAMS』、性に奔放な医師とゲイの男性看護師が愛の形を模索する『LOVE』、妻子を持つ男性が別の男性と関係を持ち、性的アイデンティティを再考する『SEX』。3作はそれぞれ露骨な性的描写の代わりに、ウィットに富んだ会話劇が繰り広げられる。
『DREAMS』は第75回ベルリン国際映画祭にて最高賞の金熊賞を受賞し、ノルウェー映画初の快挙を成し遂げた。
11.『ルーム・テンパラチャー(原題:Room Temperature)』

デニス・クーパーとザック・ファーリーが共同監督を務めたアメリカ・フランス合作のホラー映画『ルーム・テンパラチャー(原題:Room Temperature)』は、ある家族に起きたハロウィーンの出来事を描く。
カリフォルニアの砂漠に住む一家は、自宅と庭を装飾して手の込んだお化け屋敷を作り、近所の人たちを招くのがハロウィーンの恒例となっていた。しかし、その年のハロウィーンは父親の強迫観念に支配され、家族も「完璧なお化け屋敷作り」に巻き込まれていく。
終始奇妙で不穏な空気が漂う本作だが、不思議と感動も呼び起こされるバランスが非常に面白い。奇才の監督ジョン・ウォーターズは、本作を2025年のベスト映画10本に選出した。
12.『スティーヴ』

Netflixで配信中の『スティーヴ』は、『スモール・シングス・ライク・ディーズ(原題:Small Things Like These)』(2024年)と『ピーキー・ブラインダーズ』シーズン3に続き、キリアン・マーフィーとベルギー人監督ティム・ミーランツがタッグを組んだ注目作だ。
マーフィーが演じるのは、非行少年たちが通う学校の校長・スティーヴ。生徒たちと献身的に向き合いつつ、スティーヴ自身も依存症や肉体的疲労といった問題を抱えていた。本作はこの学校における「緊迫の1日」を舞台に展開する。
マーフィーは第96回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した『オッペンハイマー』(2023年)での経験を活かし、この繊細な役柄を見事に演じきっている。
13.『バラード・オブ・ウォリス・アイランド(原題:The Ballad of Wallis Island)』

ジェームズ・グリフィス監督の『バラード・オブ・ウォリス・アイランド(原題:The Ballad of Wallis Island)』は、いかにもイギリス映画らしい魅力的な作品だ。
5年前に妻を亡くしたチャールズ・ヒース(演:ティム・キー)は、宝くじを当てて億万長者になった。解散したフォークデュオ「マクグワイヤー・モーティマー」(演:トム・バスデン&キャリー・マリガン)の大ファンである彼は、何十年も音信不通だったこのデュオを再結成させようと計画し、高額な出演料を支払って2人をウォリス島の自宅に招く。
脚本はキーとバスデンが共同で執筆した。ある種の憂鬱さも漂いつつ、ロマンチックで心温まる作品に仕上がっている。
14.『ボルティモロンズ(原題:The Baltimorons)』

『ボルティモロンズ(原題:The Baltimorons)』は、デュプラス兄弟の兄として知られるジェイ・デュプラスの初単独監督作品だ。本作はマーティン・スコセッシ監督の『アフター・アワーズ』(1985年)を彷彿とさせる、一風変わったラブコメディである。
クリスマスイブに歯が折れてしまい急遽歯の治療に来たコメディアン(演:マイケル・ストラスナー)が、年上の歯科医(演:リズ・ラーセン)と予想外の恋に落ちる。2人はボルチモアの街でデートをすることになるが……。
デュプラスはたっぷりのユーモアと人間ドラマを織り交ぜることにより、ロマンチックすぎない絶妙なバランスで本作を仕上げた。甘いラブロマンス映画が増えるクリスマスシーズンの中、本作は完璧なカウンターパンチとなった。
15.『ボタニスト 植物学家(仮題)』

『ボタニスト 植物学家(仮題)』は、短編映画で中国少数民族を描いてきた新進気鋭の中国人監督、景一(ジン・イー)の長編デビュー作だ。
主人公は、新疆ウイグル自治区との境界にあるカザフスタンの村に暮らし、植物が好きな少年アルスィン。アルスィンはハン族の少女メイユーと出会い、恋に落ちる。2人は心を通わせ共に成長していくが、メイユーは上海へ引っ越すことになり、別れが訪れる。
本作には、スマホやテレビゲームといったデジタルなものは一切登場しない。カザフスタンと新疆ウイグル自治区の境界という舞台設定と、少年の植物へのこだわりによって、唯一無二の魅力が際立っている。
16.『ザ・ガール・イン・ザ・スノウ』

フランス映画『ザ・ガール・イン・ザ・スノウ』は、ルイーズ・エモン監督の長編デビュー作。1899年のオート=アルプ県に位置する村を舞台に、若い小学校教師エメ(演:ガラテア・ベルージ)が村の古い因習に抵抗しながらも、欲望に目覚めていく姿を描く。
エモンは民話風の物語を、ドキュメンタリーのように撮影することで緊迫感を演出した。また本作では、催眠術を思わせる映像美で雪山や神秘的な風景が映し出される。フランス映画界の新星、エモンの必見のデビュー作だ。
17.『ザ・ラスト・ヴァイキング(原題:The Last Viking)』

デンマーク人監督アンダース・トーマス・イェンセンの『ザ・ラスト・ヴァイキング(原題:The Last Viking)』は、血みどろだが痛快なブラックコメディだ。
服役中の銀行強盗アンカー(演:ニコライ・リー・カース)は、盗んだ金を兄のマンフレッド(演:マッツ・ミケルセン)に隠させ、出所後に回収しようとする。しかし、マンフレッドは不安定な精神状態に陥っており、金をどこに隠したか思い出せなくなっていた。さらに彼は自身をジョン・レノンだと思い込んでおり、他の患者たちを集めて「ビートルズ再結成」を目指すが……。
本作は、常識破りなストーリー展開と、予想外の不条理さが融合されている。イェンセン監督は彼らのめちゃくちゃで残酷な行動を、愛情深い人間ドラマへと昇華させている。デンマーク・スウェーデン合作。
18.『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』

第41回サンダンス映画祭でプレミア上映された本作は、童話『シンデレラ』をモチーフとした北欧発のゴシック・ボディホラー。本作は、シンデレラ(演:テア・ソフィー・ロック・ネス)の美しさに嫉妬する醜い義姉妹(演:リア・マイレン)の視点から童話を再構築した作品だ。このテーマは映画『サブスタンス』(2024年)を想起させる。
エミリア・ブリックフェルト監督は本作の中で、1970年代チェコのファンタジー映画のようなやや通俗的なセンスと、容赦ないグロテスクな描写を融合させた。本国では上映中に退出者が続出したとして、封切り後に話題となった。ノルウェー・ポーランド・スウェーデン・デンマーク合作。日本では2026年1月16日(金)に公開される。
19.『ツインレス(原題:Twinless)』

ジェームズ・スウィーニーが監督を務めたダーク・コメディ『ツインレス(原題:Twinless)』は、第41回サンダンス映画祭で絶賛されたものの、ロードサイド・アトラクションズ/ライオンズゲート配給による公開は秋の映画祭シーズン直前となり、興行収入はあまり振るわなかった。しかし、本作はもっと評価されるべき作品だ。
ゲイの男性デニス(演:スウィーニー)は、ロッキー(演:ディラン・オブライエン)という男性と出会い恋仲となるが、ロッキーは突如事故で亡くなってしまう。ロッキーには双子の兄弟ローマン(演:オブライエン/1人2役)がいた。ローマンは双子の片方を亡くした人のサポートグループに参加し、デニスと出会う。デニスはローマンと親しくなるため、双子と偽ってグループに参加していたのだ。
一風変わった衝撃的なストーリーでありながら、ユーモアあり、胸を締め付けるほろ苦さありという絶妙なバランスの作品だ。
20.『フー・バイ・ファイヤー』

カナダ人監督フィリップ・ルサージュの3作目となる長編映画『フー・バイ・ファイヤー』は、サスペンスのような緊張感を含む、ある少年の成長物語だ。
17歳の少年ジェフ(演:ノア・パーカー)は友人のマックス(演:アントワーヌ・マルシャン=ガニョン)に誘われ、著名な映画監督ブレイク・カデュー(演:アリエ・ワルトアルテ)が所有する山奥のロッジに向かった。ジェフはマックスの姉アリョーシャ(演:オーレリア・アランディ=ロンプレ)に恋心を抱いていた。ジェフはアリョーシャとの進展を期待するが、同時に監督たちの力関係を目の当たりにし、大人に対する幻想が打ち砕かれていく。
どこか閉塞感が漂うこの物語は、ルサージュ監督の注目すべき才能を改めて見せつけた。カナダ・フランス合作。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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