【第98回アカデミー賞(2026)】授賞式で相次ぐ政治的発言――戦争・銃犯罪・トランプ政権に受賞者らがメッセージ訴える
日本時間2026年3月16日に米ロサンゼルスで開催された第98回アカデミー賞授賞式では、多くの受賞者やプレゼンターが政治家や銃犯罪、そして世界各地で起きている戦争を糾弾した。
授賞式の冒頭で、司会を務めたコメディアンのコナン・オブライエンは、「今夜は政治的な展開もあるかもしれません」と前置きした。
オブライエンは、ドナルド・トランプ支持者として知られるロック歌手キッド・ロックの名前を挙げ、「近くの店で、キッド・ロックが司会を務める別のオスカー授賞式が開催されますよ」と語り、先月右派によって開催されたスーパーボウル・ハーフタイムショーの対抗イベントを揶揄した。
モノローグの最後に、オブライエンは真剣な口調に切り替え、こう語った。
「世界中でこの番組を見ている皆さんは、今が非常に混沌とした恐ろしい時代であることを痛感しているでしょう。このような時こそ、アカデミー賞は特別な意味を持つと私は思います。今夜は6大陸31カ国が代表として参加しています。その作品の一つひとつが、異なる言語を話す何千人もの人々が懸命に働き、生み出した美の結晶です。今夜、私たちは映画だけでなく、グローバルな芸術性、協力、忍耐、レジリエンス、そして現在最も稀有な資質である『楽観主義』という理想に敬意を表します。」
国際長編映画賞受賞、ヨアキム・トリアー監督が反戦を訴える
国際長編映画賞のプレゼンターとして登壇した俳優のハビエル・バルデムは、2003年のイラク戦争反対のピンバッジを胸につけ、「戦争反対、そしてパレスチナに自由を」と発言した。
そして国際長編映画賞を受賞した『センチメンタル・バリュー』の監督ヨアキム・トリアーは、スピーチでアメリカ人作家ジェームズ・ボールドウィンの言葉を引用し、「すべての大人はすべての子どもたちに対する責任がある。これを真剣に受け止めない政治家には、どうか投票しないでください」と訴えた。

トリアー監督はボールドウィンの言葉を引用した理由について、報道陣にこう説明した。
「現在の世界では、戦争により子どもたちが残虐な被害を受けているという情報が、かつてないほど溢れています。私には小さな子どもが2人います。私自身も、周囲の多くの人たちも、パレスチナやウクライナ、スーダンの子どもたちが苦しんでいるのを見て、毎日泣いて何もできないと感じる時があります。しかし今この瞬間、誰も責任を取ろうとしていません。私は政治家ではありませんが、紛争下で子どもたちを守る方法、そして社会全体を守る方法について、党派を超えてより協力的な姿勢で取り組む必要があると信じています」
アカデミー賞でジミー・キンメルの政治批判が炸裂
ドキュメンタリー部門の発表では、より政治色の強いステージとなった。受賞作の発表時には、政治的発言で知られ、トランプ大統領との確執が続く司会者のジミー・キンメルが登場。キンメルは、CBSの親会社であるパラマウント・グローバルを買収したデヴィッド・エリソンへの鋭い皮肉を披露した。
「こういう場ではよく『勇気』という言葉が語られますが、語れば命を失いかねない物語を語ることこそが、本当の勇気です。ご存知の通り、自由な言論を支持しない指導者がいる国もあります。どの国かは明かせませんが、北朝鮮とCBSとだけ言っておきましょう」
キンメルはさらに、プロパガンダとして批判されている、大統領夫人メラニア・トランプのドキュメンタリー映画『メラニア』に言及した。

「幸いなことに、真実を伝え続ける国際的な映画作家たちのコミュニティが存在します。彼らは大きなリスクを冒し、映画を通じて私たちに教訓を与え、不正を告発し、行動を起こすよう促しています。そして、ホワイトハウスを歩き回って靴を試着するようなドキュメンタリーもあります」
長編ドキュメンタリー賞のノミネート作品の紹介時には、「彼は妻がノミネートされなかったことに腹を立てるだろうな」とトランプ大統領を暗に示唆した。
短編ドキュメンタリー賞受賞作、銃社会の課題を突き付ける
短編ドキュメンタリー賞を受賞した『あなたが帰ってこない部屋』は、学校での銃乱射事件で犠牲となった子どもたちの部屋を取材したドキュメンタリー。CBSの特派員スティーヴ・ハートマンとカメラマンのルー・ボップが、7年にわたり制作に取り組んだ。
監督のジョシュア・セフテルは受賞スピーチの中で、ドキュメンタリーに登場した4人の子どもたち、ハリー、グレーシー、ドミニク、ジャッキーへの追悼の時間を設けた。
ジャッキーの母親であるグロリア・カサレス氏も登壇し、言葉を訴えた。
「娘のジャッキーはウバルデで銃殺された時、9歳でした。あの日以来、娘の部屋は時が止まったままです。ジャッキーはただのニュースの見出しではありません。彼女は私たちの光であり、命そのものです。銃による暴力は、今や子どもと10代の若者の死因の第1位となっています。もし世界の人々が“彼らが帰ってこない部屋”を目にすれば、アメリカは変わっていくはずだと私たちは信じています」
セフテル監督は報道陣に対し、次のように説明した。「アメリカでは、年間100件以上にも上る学校での銃乱射事件が発生しています。亡くなった子どもたちに焦点を当てることで、記憶から薄れていくこれらの出来事を、忘れずにいられるでしょう」
「国は小さな“共犯行為”で失われる」長編ドキュメンタリー賞受賞作が警鐘
長編ドキュメンタリー賞を受賞した『名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で(原題:Mr. Nobody Against Putin)』は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、政府が学校に対して要求した「愛国教育」の様子を記録した作品だ。プロパガンダと軍国主義化の潮流の中で、教育者たちが直面する倫理的なジレンマを浮き彫りにしている。

共同監督のデヴィッド・ボレンスタインは、受賞スピーチでこのように述べた。
「本作は、『人はいかにして自分の国を失うか』を描いた作品です。この映像と向き合う中で私たちが目の当たりにしたのは、無数の小さな“共犯行為”の積み重ねによって、国が失われていくということです。政府が大都市の街頭で人々を殺害しているのに、誰も声を上げない。オリガルヒがメディアを支配し、情報の生産と消費をコントロールする。私たちは皆、道徳的な選択を迫られています。しかし幸いなことに、無名の人間でも、あなたが想像する以上に力を持っているのです」
本作の中心的人物であり、共同監督を務めたパヴェル・タランキンは、世界中で続くすべての戦争の即時停止を訴えた。
「私たちはこの4年間、流れ星を見上げ、大切な願い事をしてきました。しかし、流れ星の代わりに、日々飛び交う爆弾やドローンにさらされている国もあります。私たちの未来のために、すべての子どもたちのために、今すぐこうした戦争を止めてください」
ボレンスタインは舞台裏で、現在のロシアとアメリカの共通点について次のように説明した。
「ロシア人チームと共に作業してきた中で、私はアメリカ人として、常にアメリカの状況をロシアと比較したいと感じていました。しかし実際には、アメリカの方がロシアより速いペースで変化しています。ドナルド・トランプは、プーチンよりはるかに速いペースで動いています」
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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