ナショジオ写真家アナンド・ヴァルマ、日本メディアにオンライン初対応! “おどろき”と観察の哲学を語る[レポート]
ディズニー傘下のナショナル ジオグラフィックが主催するアースマンス特別メディアセッションが4月7日、東京・虎ノ門ヒルズのウォルト・ディズニー・ジャパン本社で開催された。登壇したのは、サイエンスフォトグラファーでありナショナル ジオグラフィック・エクスプローラーのアナンド・ヴァルマ。日本メディアの取材に応じるのは今回が初となる。

本セッションは、2026年のグローバルテーマ「STEP INTO WONDER(驚きと出会う)」のもと、日常に潜む“驚き”を起点に自然との関係性を再考することを目的に実施された。
ディズニー側は「地球を守る第一歩は、まず理解することにある」とし、その理解を促進する手段としてストーリーテリングの重要性を強調した。
【動画】特集:驚きと出会う – 予告編 | ナショジオ
「おどろき」は世界の見え方を変える
アナンド・ヴァルマは冒頭、自身のキャリアの出発点が科学への関心にあったことを明かした。幼少期は海洋生物学者を志し、自然に囲まれた人生を思い描いていたという。しかし高校時代に出会った写真が、その進路を大きく変えた。
「写真は、私たちが見落としている細部や複雑さ、美しさを見せてくれる」
決定的だったのは、何気なく撮影した一枚の写真に対する友人の反応だった。その写真自体は決して完成度の高いものではなかったが、細部の発見におどろいた友人の姿を通じて、「発見を共有するメディア」としての写真の力を実感したという。
この体験が、科学と表現の両方を横断する現在の活動へとつながっている。
【動画】Anand Varma Captures a Honey Bee Story | Photographer | National Geographic
科学と表現を結びつける視点
大学在学中、写真家のアシスタントとしてキャリアをスタートさせたヴァルマは、ナショナル ジオグラフィックのプロジェクトに関わりながら世界各地を巡った。北極圏、アマゾン、巨大樹木の上空など、過酷な環境での経験を積む一方で、自身の進むべき方向に迷いもあったという。
転機となったのは、ナショナル ジオグラフィック協会からの助成を受け、エクスプローラーとして独自のプロジェクトを開始したことだった。ここで彼は、単なる記録ではなく「科学をどう見せるか」という視点にシフトする。
「重要なのは、何を見せるかだけでなく、どう見せるかだ」
寄生生物をテーマにしたシリーズでは、宿主の行動を操作する寄生虫や、昆虫の体内で起きる現象を、映画的なライティングと構図で表現。フィルムノワールやコミック、さらには日本のアニメーションからも影響を受けたビジュアルは、科学写真の枠を超えた表現として注目を集めた。
【動画】Zombie Parasites | Nat Geo Live
“見えない現象”を可視化する技術
ヴァルマの作品の特徴は、肉眼では捉えられない現象を可視化する点にある。セッションでは、ミツバチの記憶実験やハチドリの飛行メカニズム、寄生生物の挙動など、科学研究の現場で撮影された映像が紹介された。
なかでも特に注目されたのが、ニワトリの受精卵の成長過程を記録したプロジェクトだ。卵という閉ざされた構造の中で進行する生命の変化を撮影するため、ヴァルマは人工的な卵殻や専用のインキュベーターを設計。タイムラプス技術と組み合わせることで、孵化までの約21日間を連続的に捉えることに成功した。
「このプロジェクトでは、写真が科学的発見そのものを生み出す手段になり得ることを実感した」
実際に、映像を通じて新たな生物行動が確認されるなど、研究分野への貢献も報告されている。
“スロー・ルッキング”という思考法
質疑応答では、「日常の中でおどろきを見つける方法」についての質問が上がった。ヴァルマはその答えとして、「スロー・ルッキング(ゆっくり観察すること)」というアプローチを提示した。
「環境を構造的に観察することが重要だ。色、形、線、パターンといった要素に意識的に焦点を当てることで、見過ごしていたものが見えてくる」
また、理解できない現象に対して問いを持つことも重要だと指摘する。「なぜそうなっているのか」という疑問が、観察をより深いものへと導く。
倫理と表現のバランス
生き物を被写体とする上での倫理的な課題についても言及があった。ヴァルマは、科学者と密接に連携し、動物の安全やストレスに最大限配慮した環境で撮影を行っていると説明する。
一方で、「被写体が撮影に同意しているわけではない」という根本的な問題にも触れ、「短期的なストレスと引き換えに、長期的な理解と保護意識を生むことができるか」というバランスの中で判断していると語った。
教育と共有の場としての「Wonderlab」
現在、ヴァルマは自身の拠点「Wonderlab」を通じて、研究と教育を融合した活動を展開している。同施設は、科学ラボ、撮影スタジオ、教育スペースの機能を併せ持ち、学生や若手クリエイターに向けて観察と表現の技術を伝えている。
「私たちは皆、生まれながらに観察する力を持っている。しかしそれは成長とともに失われていく」
写真は、その力を取り戻すための手段だとヴァルマは位置づける。
ナショナル ジオグラフィックが提示する体験価値
セッションでは、アースマンスにあわせて展開されるコンテンツやイベントも紹介された。ジェームズ・キャメロンが制作を手がける新作シリーズ『ミツバチの秘密:自然界の小さなヒーロー』をはじめ、ディズニープラスやナショナル ジオグラフィックチャンネルでの配信、さらに横浜赤レンガ倉庫での体験型イベントなど、多角的な施策が予定されている。
【動画】『ミツバチのひみつ:自然界の小さなヒーロー』予告編
ナショナル ジオグラフィックは1888年創設の非営利団体をルーツとし、これまで1万5000件以上の助成を通じて探検・研究活動を支援してきた。今回のセッションは、その長年の取り組みを現代のメディア環境に適応させる試みともいえる。
“注意を向ける力”を取り戻すために
セッションの締めくくりでヴァルマは、「私たちの注意は神聖なものだ」と語った。「私たちが何に注意を向けるかが、何を大切にするかを決める」
情報が溢れる現代において、集中力や観察力は失われつつある。その中で“おどろき”は、注意を引き戻し、世界とのつながりを再構築する力を持つという。
科学とストーリーテリングの交差点に立つヴァルマのアプローチは、ナショナル ジオグラフィックが掲げてきた理念を体現するものだ。同時にそれは、現代のメディアが提示すべき新たな体験価値の一端を示している。
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アナンド・ヴァルマ(Anand Varma)
アナンド・ヴァルマは、ナショナル ジオグラフィック エクスプローラー/サイエンスフォトグラファーであり、数々の賞を受賞してきた写真家。彼にとってカメラは、単に目に映るものを写し取る道具ではなく、私たちの暮らしの中で見過ごされがちな自然の美しさや奥行きを照らし出すための手段。アナンドは統合生物学の学位を持ち、長年にわたり革新的な撮影技術の開発に情熱を注いできた。自らカメラ機材を設計・製作しながら、自然界のドラマティックでおどろきに満ちた瞬間を捉えている。
2014年、表紙を飾った「Mindsuckers」をはじめ、ナショナル ジオグラフィック誌の数多くの撮影を手がけています。彼のゴールは、私たちの世界に対する「驚き」の感覚を呼び覚ますこと。作品を通して、これまで見過ごされてきた生きものの驚くべき細部に光を当て、科学の背後に潜む新たな物語を発見し続けています。
彼はアメリカ・カリフォルニア州バークレーを拠点に、自然界を可視化する新たな方法を生み出すためのサイエンス・フォトグラフィー・スタジオWonderLab(ワンダーラボ)を立ち上げました。2023年には、ナショナル ジオグラフィックより写真集『Invisible Wonders』を刊行しています。
『PHOTOGRAPHER:ファインダー越しの世界』(ディズニープラスで配信中)
世界的に並外れた写真家たちに迫るシリーズ。約1時間にわたるそれぞれのエピソードでは、著名な写真家の幼少期やキャリアの始まりから現在の生活や試みに至るまでを追いかける。裏話や映像記録、インタビューを織り交ぜつつ、彼らの現在の使命を追ったドキュメンタリー映像を通して、それぞれの写真家の軌跡やカメラを持つようになった経緯、象徴的な写真を作り上げる方法を掘り下げる。
「アナンド・ヴァルマ:隠された驚異(原題:Anand Varma: Hidden Wonders)」
アナンド・ヴァルマは『PHOTOGRAPHER:ファインダー越しの世界』のエピソードの一人として登場。写真によって自然界の秘密をとらえることで知られるアナンドが、ニワトリの胚という新たな被写体へ挑戦。自身のキャリアの変遷を振り返りつつ、通常は肉眼では見ることのできない、ニワトリが卵から生物へ変わっていく過程を撮影した様子を紹介。
https://www.disneyplus.com/ja-jp/browse/entity-b08edf15-e80e-4854-bf17-18d236b631d1
TV放送
全国のケーブルテレビおよび衛星放送(BS/CS)で放送中のナショナル ジオグラフィック
“特集:驚きと出会う”
4月の毎週日曜は自然界の生きものたちがもつ能力、生態、その驚きに出会える特集をお届け。小さなミツバチの社会性からアフリカの過酷な生存競争、海のギャングと呼ばれるシャチの家族愛など、普段では見ることのできない自然の驚きの世界に没入しよう!
放送日時:4月5日、12日、19日、26日 毎週日曜15:00-19:00
“特別編成:アースデイ WITH ナショナル ジオグラフィック”
ナショナル ジオグラフィック エクスプローラーのバーティ・グレゴリーが、世界のペンギンとミツバチの驚きの姿と、環境の変化がもたらす彼らの適応能力を最新の映像技術で捉えたシリーズを連続放送。
「ペンギンのひみつ:過酷な世界を生きる術」 放送日時:4月22日(水)15:00-18:00
「ミツバチのひみつ:自然界の小さなヒーロー」 放送日時:4月22日(水)18:00-20:00
ディズニープラス
ディズニー公式動画配信サービス、ディズニープラスでは、ナショナル ジオグラフィックの映画、シリーズ、スペシャル番組などはもちろんのこと、地球の驚異や感動がおうちで体感できるコンテンツを多数配信。地球のことを考えるアースデイをきっかけに、壮大な世界を映し出す数々の作品を見放題で楽しみ、地球探求の旅へ出かけよう!
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