TIFFCOM:生成AIに関するシンポ開催、世界各国の有識者が「映画の未来」について議論
31日、東京国際映画祭併設ビジネス・コンテンツマーケット「TIFFCOM」でシンポジウム「生成AIが映画にもたらすチャンスとリスク、未来像」が開催され、150名を超える参加者が来場。映画界における人工知能(AI)の浸透について画期的な議論が行われた。
■AIの発展…映画界への影響は
TIFFCOMのエグゼクティブ・プロデューサーであるアンドリヤナ・ツヴェトコビッチ博士が企画・司会を務めた本シンポジウムでは、AIが映画産業にもたらす可能性と課題に対するアジアの重要な役割が強調された。
ツヴェトコビッチ博士はイベントの初めに、2000年代初頭のデジタルシネマでの自身の経験を踏まえ、「ストーリーテリングは映画の核心であり、古代の火を囲んで語られた神話から、35mmフィルム、デジタル、そして今のAIと没入型VRという最先端領域に至るまで、常に進化し続けています」と指摘。
そして、「AIが人間の創造性に取って代わるのではなく高めるものとなり、技術がアーティストの役に立つ未来への道のりを私たちが先導しなければなりません」と強調。AIの可能性への期待と、映画製作における人間らしさを保持する必要性に言及しながら、本イベントの基調を設定した。
■AI活用のメリット
イベントでは、韓国のAI Cinema Inc.のケヴィン・D・C・チャンCEOがAIで制作したトレーラーを紹介。映画プロデューサーからAIデジタルアーティストに転身したチャン氏は、コストと創造性における利点を実証した。
「AIは従来の映画製作における資金面での制約から、私を完全に解放してくれました。従来の方法では410万ドルと見積もられた新作映画が、AIを使用することでその10%のコストで制作できるようになります」とチャン氏はコメント。
さらに「トレーラーの制作では、音楽やサウンドデザインから、世界5カ所でのビジュアルエフェクトまで、すべて自分のコンピューターで処理できたことで、表現の自由を感じました」と続け、AIが従来の障壁を打ち破り、映画製作者がより大きな創造の自由を持って野心的なプロジェクトを実現できるようになっていることを示した。
■投資に変革をもたらすAI
Nプライム・パートナーズ会長のニコラス・アーロン・クー氏は、AIがもたらす映画界の投資動向の変革について洞察を提供。「AIは制作コストを削減し、市場投入までの時間を短縮することで映画産業を変革しており、それによって投資リスクも低減されています」と説明し、「投資額の小規模化とリスクの低減により、より多くの投資家が参入しやすくなり、アジア全域で業界への投資がより身近でフレンドリーなものになっています」と述べた。
そしてクー氏は、AI投資におけるデューデリジェンスの最大の課題は、技術そのものではなく、より進んだ類似プロジェクトに取り組んでいる他者を理解することだと強調。また、この分野は非常に動的であるため、投資の持続可能性を確保することが課題となる可能性があると付け加えた。
■AIに対する日本政府の取り組み
政府のAIに対する積極的な姿勢を代表して、経済産業省(METI)文化創造産業課の佐伯徳彦課長は、日本のクリエイティブ産業におけるAIの融合を支援するMETIの取り組みについて詳細を共有した。
「日本のコンテンツ産業における生成AIの進展を支援するため、私たちはGENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)を立ち上げ、民間組織の研究開発を支援しています。また、コンテンツ制作における生成AIの融合に関するベストプラクティスをまとめたハンドブックも発行しました」
さらに、パートナーシップの重要性を強調し、「日本国内のアニメーション企業とテクノロジー企業間だけでなく、国際的な協力も不可欠です。日本の映画産業は従来、新技術の採用に慎重でしたが、グローバル市場での競争力を維持するには、最先端のテクノロジー企業とのパートナーシップが重要です」と発言。AIを活用したコンテンツ制作における持続可能で、国際的に競争力のある環境を作り出すための日本の取り組みをアピールした。
■AIの波が到来、求められる姿勢とは
将来を見据えた議題を掲げた本シンポジウムでは、国境を越えた協力の重要性が強調され、ツヴェトコビッチ博士は「豊かな映画の歴史と技術の進歩を持つアジアは、特に官民パートナーシップとインセンティブに支えられれば、映画とAIの未来について対話を推進する独自の立場にあります」と繰り返し述べた。
その上で、地域間でAIポリシーを調和させることで、スタジオとアーティストの両方を保護することができると語り、「AIの波は確実に到来していますが、私たちには積極的な関与を通じて、映画に対するその影響を形作る力があります」と主張した。
そして、映画製作者やクリエイティブチームがAIを代替物としてではなく、ツールとして使用できるよう準備することの重要性を指摘し、映画における人間らしさの中心的な役割を確保する必要性を伝えた。
シンポジウムはQ&Aセッションで締めくくられ、AIがもたらす機会に対する業界の高まる関心と、責任ある革新の必要性が反映された。TIFFCOMは、映画界におけるAIの重要なプラットフォームとしての位置を確立し、AIを活用した創造性とコラボレーションの未来に対応していく上でのアジアのリーダーシップをはっきりと示した。
編集/和田 萌
【アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ氏 プロフィール】
初代駐日マケドニア大使で、2022年にはWIN Inspiring Women Worldwide Awardを受賞。日本大学で映画研究の博士号を取得、欧州大学で名誉博士号を授与され、京都大学では客員教授を務めた。映画監督としては映文連アワードの部門優秀賞を受賞。その他、世界経済フォーラムや国連気候変動会議で講演を行う。第37回東京国際映画祭「ウィメンズ・エンパワーメント部門」シニア・プログラマー、映画祭併設マーケット「TIFFCOM 2024」エグゼクティブプロデューサー。
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