アカデミー賞受賞作品との比較考察:映画『ウィキッド』は歴史的大作と同じ軌跡を辿るのか?
アカデミー賞受賞作品『タイタニック』や『ロード・オブ・ザ・リング』など、時代を代表する歴史的大作に続くことができるのだろうか。
2024年のアカデミー賞作品賞を受賞した『オッペンハイマー』はユニコーン的存在だった。
全世界で10億ドル近い興行収入を記録したこの映画について、アカデミー賞に関する著書なども出しているマイケル・シュルマンはこう言った。クリストファー・ノーラン監督の伝記ドラマは「興行的に超大ヒット作であったのは勿論だが、高尚な歴史的題材を扱った点でも評価されるべき作品」
その基準に照らし合わせると、『ウィキッド』が今年その偉業を成し遂げるのは、少し厳しいかもしれない。この作品は全世界で4億ドルに迫る猛烈な勢いだが、『オッペンハイマー』のようなシリアスな題材ベースではないからだ。
シュルマンは、シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデ主演でブロードウェイのセンセーションを映画化したジョン・M・チュー監督の本作『ウィキッド』について、「これは超大作だが、ミュージカルなのでオスカーを獲得することはあまりないだろう」と語る。 「どちらかというと若い女の子をターゲットにしたもの。それが、受賞ハードルを上げてしまったとも思う。昨年の『バービー』のように」と彼は付け加え、『オッペンハイマー』に敗れたグレタ・ガーウィグのファンタジードラマを指した。
とはいえ、『ウィキッド』にはアクション・アドベンチャーという道もある。過去30年間でこのような大作が3本、作品賞を受賞している。
米『ハリウッド・リポーター』は、これらの作品を振り返り、シュルマン監督の指導のもと、どのようにしてW受賞を勝ち取ったのかを考察した。
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『タイタニック』 (1997年) アカデミー賞11部門を受賞
興行収入:18億ドル
1997年と1998年に世界的大ヒットを記録
ジェームズ・キャメロンが1997年に製作したRMSタイタニック号の沈没を再現する映画の予算は2億ドルで、当時の映画としては史上最高額だった。興行収入は毎週上昇を続け、10億ドルの大台を突破。商業的成功は否定できない。作品賞を含む史上最多の14部門でノミネートされ、11部門で受賞、批評家からも高い評価を得た。
この受賞についてシュルマンは言う。「『タイタニック』がアカデミー賞受賞する頃には、世界的な現象になっていました」
この映画によって、第70回アカデミー賞がアカデミー賞史上最多の視聴者数を記録したことでも知られている。
レオナルド・ディカプリオがノミネートされなかったことに数百人のファンが激怒し、アカデミー賞主催者へ再集計を要求する電話やメールを送ったと伝えられている。
『タイタニック』への熱狂ぶりは、小規模な広告掲載とアカデミー会員向けの無料上映を除けば、実際のキャンペーンを一切行わなくても、同部門のトップライバルの追随をまったく許さないほどであった。
『グラディエーター』 (2000年) アカデミー賞5部門受賞
興行収入:4.66億ドル
じわじわと盛り上がりが加速し5部門受賞の快挙
『グラディエーター』の第73回アカデミー賞での作品賞受賞は、1949年の『オール・ザ・キングスメン』以来、監督賞も脚本賞も受賞しなかった初めての作品となった。2000年第2位の全世界興収4億6,550万ドルを記録したラッセル・クロウ監督作品であり、そのスケールの大きさからアカデミー賞では優位に立った。
「公開当時は必ずしも受け入れられなかった。公開当時は、安っぽい剣とサンダルの時代遅れの作品と見られていました」とシュルマンは言う。「長い間自分たちがやってきたことを思い出させたことで、業界は興奮したんだ。
史劇『ベン・ハー』や『スパルタカス』を思い起こさせ、そのジャンルの復活に人々をわくわくさせた」。
『グラディエーター』は公開後しばらくしてから、徐々に盛り上がりを見せた作品。
『グラディエーター』が獲得した5つのアカデミー賞受賞は、2024年の後継作『グラディエーターII』にも良い結果をもたらすかもしれない。
『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』 (2003年) アカデミー賞11部門受賞
興行収入:11億ドル
シリーズ3作目は前2作の興行収入を上回り、アカデミー賞ではノミネートされたすべての部門で受賞
『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の最初の2作が作品賞を受賞していないにもかかわらず、2003年の『王の帰還』が第76回アカデミー賞にてオスカーを受賞。これにはニューライン・シネマの劇場マーケティング担当社長だったラッセル・シュワルツも驚いた。
2014年、彼は『ヴァニティ・フェア』誌にこう語っている。「これはファンタジー映画であり、ファンタジー映画が作品賞を受賞したことはありませんでした」。
『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』は、ノミネートされた11部門すべてで受賞し、授賞式を席巻した。
同年のヒット作『ロスト・イン・トランスレーション』、『ミスティック・リバー』、『シービスケット』、『マスター・アンド・コマンダー』らを抑えてのアカデミー賞受賞となった。
シュルマン監督が 「ベストピクチャーにふさわしい映画」と呼ぶ『シービスケット』や『マスター・アンド・コマンダー』を抑えての受賞は、おそらくこの作品が世界興収11億ドルを突破し、2003年最高の興行収入を記録した作品であることを物語っているのだろう。これに対し、2001年のシリーズ第1弾は8億8700万ドル以上、2002年の『二つの塔』は9億3600万ドルの興行収入を記録している。
『ロード・オブ・ザ・リング』と『オッペンハイマー』の大ヒットの間に20年の隔たりがあったことは、映画芸術科学アカデミーの商業的成功に対する嫌悪というよりも、業界が現在どのような作品を好んでいるのかということを物語っている、とシュルマンは考えている。
「ハリウッドのスタジオが作ってきた映画の種類を物語っている」と彼は指摘する。「過去20年間、業界はコミック本の超大作と小規模なアートハウス映画に二分されてきた。その中間はあまりなかった」
映画『ウィキッド』への評価、そして公開から現在に至る好調ぶりをふまえると、これらのレジェンド映画たちの仲間入りも夢ではないかもしれないが、その未来は如何なるものに。
※本記事はオリジナル記事から抄訳・要約しました。翻訳/山中 彩果
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