ゼレンスキー大統領、トランプ大統領のトリックにかかる【寄稿】

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、ドナルド・トランプ大統領とJ・D・ヴァンス副大統領と会談した。会談中、ヴァンス副大統領は苦境に立たされているゼレンスキー大統領に挑発的な態度を取った。これに対してトランプ大統領は怒りを覚え、その日の午後に署名される予定だった合意を白紙に戻すきっかけとなった。私はこのような状況を、「部屋の中のよそ者(The Stranger in the Room)」と呼んでいる。
私は30年間脚本家をしていたので、「部屋の中のよそ者」の役割についてはよく知っている。この「よそ者」は、会議に突然現れた「友人」としての立場であり、プロジェクトに対する創造的な権限も利害関係も持たず、話し合われているテーマに関与していない人物だ。場合によっては、20代のインターンだったり、姉妹会社の幹部だったり、マーケティング担当者だったり、あるいは経験豊富なプロデューサーが1日だけ「手伝い」に来ていることもある。
この「よそ者」の目的は、プロジェクトを台無しにすることだ。例えば、脚本家、プロデューサー、監督、そして幹部がストーリーの方向性について合意した後で、この「よそ者」が口を挟む。「でも、中国市場ではどう受け取られる?」とか、「これって映画Xに似てない?」とか、「結局のところ、この映画って“愛”の物語じゃない?」などと発言する。
私がかつてレジェンド級のプロデューサーに向けてリブート企画を売り込んだとき、彼の22歳の娘も同席していた。彼女は私のプレゼンを遮って、「でも、映画には“対立”なんていらないわよね?」と言い放った。
この「よそ者」は、常に部屋で最も権力のある人物(通常は幹部)の意向によって呼ばれる。よそ者本人が意識しているかどうかにかかわらず、彼らはスタジオの代理人として機能する。そしてスタジオというものは、基本的に「ノー」と言いたがる組織だ。なぜなら、「ノー」と言ったことでクビになる人はいないが、「イエス」と言って失敗すれば責任を問われるからだ。ハリウッドの幹部たちは、何よりも自分のキャリアが終わることを恐れている。
しかし、彼らはクリエイターたちに嫌われたくない。なぜなら、アイデアを持ち込むのはクリエイターだからだ。だからこそ、直接「ノー」とは言わず、「よそ者」を連れてくる。時には弟子や同僚、時には他部署の関係者、あるいは通りがかりのプロデューサーを会議に参加させ、彼らの意見を求める。そして「よそ者」が何か適当なことを言えば、幹部は「確かに、中国市場を考慮するのは重要だよね」とか、「そう言われると映画Xに似ている気がする」とか、「うん、やっぱりこの映画は“愛”がテーマじゃないといけないね」と、さも当然のように同調する。
すると、部屋の空気が一変する。それまで「最高のプロジェクトだ」と一致していた雰囲気が、突然、対立の場へと変わる。それまでは協力関係にあったクリエイターと幹部が、互いに対立する構図になるのだ。結果的に、クリエイター側は不利な立場に追い込まれる。なぜなら、スタジオはお金を持っており、クリエイターは「芸術」しか持っていないからだ。クリエイターは何とかしてプロジェクトを成立させようと妥協し、譲歩し、落としどころを探そうとする。しかし、実際にはすでに決定は下されている。プロジェクトは潰されるのだ。
ハリウッドの論理を当てはめると、ゼレンスキー大統領は脚本家兼監督兼プロデューサーであり、トランプ大統領は「自分の地位を守ることに必死なスタジオ幹部」、そしてヴァンスは「なんの権限も持たないはずなのに、突拍子もないことを言い出し、交渉を決裂させるために連れてこられた“よそ者”」ということになる。
スタジオの“トップ”が誰なのかは、皆さんのご想像にお任せしよう。
トッド・アルコット氏による寄稿。同氏は脚本家として30年間活躍し、ドリームワークスのアニメ映画『アンツ』の共同脚本を務める。現在はグラフィックアーティストとして活動中。
※本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら。
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