『鬼滅の刃 無限城編』の歴史的大ヒットの理由をクランチロールCEOが語る|「ソニーグループならではの連携が成功をもたらした」

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(以下「無限城編」)が北米で公開されると、2週間で1億400万ドル(約154億円)の北米興行収入を記録し、全世界興行収入は5億5,500万ドル(約814億円)を突破した。この成績は、北米におけるアニメ映画/日本映画として歴代最多の興行記録に相当する。同作はこれから中国での公開が控えており、どこまで記録が伸びるか注目が集まっている。
『鬼滅の刃』は、吾峠呼世晴の大人気漫画を原作とするアニメシリーズ。2019年にテレビアニメが放送されると、家族の絆や英雄譚、ダークファンタジー要素の織りなすストーリーが人気を博し、アニメスタジオufotableによる豪華なアニメーションも話題となった。2020年には『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』が公開され、コロナ禍にもかかわらず全世界興行収入5億ドル(約739億円)を超える大ヒットを記録した。
Crunchyroll(クランチロール)を傘下にもつソニーグループは、アニメ業界の成長をいち早く見込んでいた。同グループはアニメを中核事業とし、2020年にCrunchyrollを買収した。同グループは、アニメ分野は2030年までに600億ドル(約8兆8,700億円)規模のグローバル産業になると予測している。「無限城編」はufotableとソニーグループのアニプレックスが共同で製作し、Crunchyrollが海外で配給を担当しており、グループの連携によって成功を収めた好例となった。
「無限城編」の公開後、米『ハリウッド・リポーター』はCrunchyrollの最高責任者であるラフル・プリニ氏にインタビューした。『鬼滅の刃』シリーズの今後の展望や「無限城編 第二章」について、そしてアニメ事業を中核としてソニーグループが成功した理由に迫る。
世界中で広がるアニメファン層——『鬼滅の刃』はどこまで伸びるか
――「無限城編」のこれまでの興行成績、特に北米での成績について、驚いた点と予想通りだった点を教えてください。
『鬼滅の刃』シリーズはすでに大人気なので、友人同士で観に来る層を中心に動員が伸びるだろうと予測していましたし、アニメの質自体にも手応えを感じていました。
それでも驚いたのは、初週末にこれほど多くの観客が劇場に足を運んでくれたことです。まさか、最初の3日間で7,000万ドル(約103億円)に達すると思いませんでした。あとは、リピーターがどれくらい観てくれるかにかかっています。
――同作の興行収入は、最終的にどのくらいまで伸びると思いますか?
まず、他の映画よりもロングラン上映になると考えています。東南アジアでは8月中旬に公開されて約1ヶ月たっていますが、今でも多くの動員を記録しています。具体的な数字は公表できませんが、興行収入も依然として伸び続けており、大きな期待を抱いています。
――アニメの観客層が変化したことは、同作が成功した理由の一つでしょうか?
私は3~4年前から、「アニメはもうニッチなものではなく、メインストリームだ」と主張してきました。過去の作品と比較して、「無限城編」はそのことを世界に示したのです。
また、以前は「日本のアニメはアジアに人気が大きく偏っている」と思われていましたが、これも間違っています。アニメはあらゆる国・地域で人気があり、観客層は多岐にわたります。「無限城編」の商業的成功は、幅広いエンターテインメント業界に対し、アニメの観客層を知ってもらう機会になりました。
――アニメは特にZ世代やα世代の若年層に人気だという見解もあります。この傾向は「無限城編」にもそれは当てはまりますか?もしそうなら、若年層に効率的にリーチできるマーケティング方法は何でしょうか?
まさにその通りです。「無限城編」の観客には、子どもから高齢者まで幅広い層が含まれますが、Z世代やα世代は大部分を占めています。特に、アニメ全体のファンが若年層に偏っているのは事実です。
私たちは長年にわたり、こうした若年層との関係を築いてきました。具体的には、TikTokやDiscordなどのプラットフォームを活用したり、若いファンやインフルエンサーが参加するリアルイベントを開催したりしています。YouTubeや「フォートナイト」など、若年層が多くの時間を費やすサービスやゲームにも積極的に参加し、存在感を示しています。
ソニーグループの連携が生んだ世界的成功
――「無限城編」の劇場公開にあたり、従来のソニー・ピクチャーズとは異なる戦略を用いたのでしょうか?ソニー・ピクチャーズとはどのように連携しましたか?
「無限城編」の成功は、ソニーグループならではの連携がもたらしたものだと言えます。ソニーグループ傘下には、同作を製作した日本のアニプレックスと、配給したアメリカのソニー・ピクチャーズというパートナーがいます。ソニー・ピクチャーズは100年以上にわたってハリウッド映画を世界に届けてきたノウハウを持っており、日本のアニメにもその経験を活かすことができます。「無限城編」では、まさにそれが実証されました。
私たちは制作過程のあらゆる段階で、各地の配給チームとじっくり話し合い、強みやマーケティング方法などを聞きました。そして私たちは、「アニメファンとのつながり」という独自の強みや、自社プラットフォームを活用したリーチ力、ライブイベントやその他のチャネルの効果を伝えたんです。このように全員が一丸となり、「1+1=3」になる戦略を練りました。
――「無限城編」の大ヒットは、1989年にソニーがコロンビア・ピクチャーズを買収して以来、ソニーがついに本物の“日米エンターテインメント企業”になったことを感じさせます。
そうですね。ソニーグループの連携の例としては、他にもPlayStation Productionsとソニー・ピクチャーズ テレビジョンが共同制作したドラマ『THE LAST OF US』や、映画『アンチャーテッド』などがあります(どちらもゲーム原作の実写化)。
「無限城編」はさらに日本文化という側面も取り入れた、独自の作品です。これがCrunchyrollのみならず、アニメ業界全体にとって追い風をもたらすことを願っています。
――「無限城編 第一章」は、3部作の1作目として驚異的なスタートを切りました。「無限城編 第二章」はいつ公開予定ですか?また、公開が早まる可能性はありますか?
「無限城編」が3部作になることは発表しましたが、第二章以降の公開日はまだ決まっていません。しかし、ファンの皆さんも続きを観たいでしょうから、なるべく早くお届けしたいと考えています。
――1作目が大ヒットしたことで、第2作・第3作がさらに豪華な予算やスケールで製作される可能性はありますか?
今言えることは、2作目・3作目も1作目と同じくらい、あるいはそれ以上に良いものにできるよう、パートナーと緊密に協力しているということだけです。
配信、グッズ、音楽まで広がる『鬼滅の刃』ビジネスの可能性
――「無限城編」の商業的成功は、ストリーミング事業や商品化部門など、Crunchyrollの他部門にどのような恩恵をもたらすでしょうか?
私たちは何事も「万人」に向けてではなく、「そのアニメのファン」に向けて考えています。「無限城編」の商業的成功は、グッズやゲーム、音楽、そしてストリーミングサービスなど、他の部門にもメリットをもたらすでしょう。
例えば、Crunchyrollは8月から現在にかけて、サブスクリプションサービス外で『鬼滅の刃』シリーズの全シーズンを視聴できるプロモーションを行っています。「無限城編」から『鬼滅の刃』が気になった人も、テレビシリーズの全編を気軽に視聴できるのです。私たちの目標は、こうした新しい視聴者に向けて質の高い体験を提供することです。できれば、別の作品もアプローチしたいと思っています。
――Crunchyrollが「無限城編」を独占でストリーミング配信する可能性はありますか?
会員の皆さんに特別なものをお届けできるよう、その点についてはパートナーとぜひ話し合いたいと思います。しかし、最終的に決定するのはufotableやアニプレックス、そして製作委員会です。
――ストリーミング配信分野では、NetflixやPrime Video、Disney+といった大手プラットフォームの競争が激化しています。これらのプラットフォームもアニメに多額の投資をしてきました。「無限城編」の成功を受けて、他のアメリカのスタジオがアニメの劇場公開に参入する可能性はあるでしょうか?
アニメファンに向けたサービスは確実に増えていくでしょう。劇場公開に特化したスタジオも、近いうちに同じ状況になると思います。しかし、アニメのファン層が拡大してこの市場が成長するにつれ、私たちは有利な立場にいることを強く感じており、自信を持っています。
――『無限城編』は、今年北米で公開されたアニメ映画の中で最大のヒット作となりました。賞レースについてもお聞きしますが、アカデミー賞で長編アニメ映画賞などの部門にノミネートする予定はありますか?
「無限城編」は、アニメーションやストーリーをはじめ全ての面で質の高い、すばらしい作品です。ファンの皆さんは、アカデミー賞にふさわしい作品だと確信しているでしょう。この作品を可能な全ての部門にノミネートするため、私たちは全力でサポートします。
※為替レートは2025年9月23日時点の数値で換算しています。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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